小室直樹 著 「経済学のエッセンス」 --- 『断固としてケインズ政策を強行せよ』

◆ケインズは死んだのか?

では、どう模型を作る?

答えは?大胆にケインズ模型を作れ!なんて言うと、途端に激しい拒否反応が起きるに決まっている。

ナニ、今さらケインズだって? 気は確かか。「ケインズは死んだ」と言われて久しい。それに、平成大不況脱出のために、政府は財政政策(代表的なケインズ政策)を何度も発動して、140兆円を投入しても、さっぱり効果がなかったではないか。利子をいくら下げて(代表的なケインズ的金融政策)もやはり少しも効果がないし。「ケインズは死んで」、ピクリとも動かないのではないか。今では、乗数効果(波及効果)も、すっかりなくなっているというではないか。

なんて反論されても、筆者の主張は、やはり同じ。やはり、ケインズ模型で行こう。

その理由。

ケインズは死んではいない。現在日本では依然として立派に生きている。

その理由の第一。

今の日本では、生産力は十分に高く、インフレも入超(輸入超過)も起きない。起きそうもない。

ケインズ理論の欠点は、インフレ理論がないことにある。

1960年代に、ケインズ黄金時代がマネタリスト(古典派の一種)に突き崩されたきっかけとなったのも、インフレであった。ケインズ攻撃の矛先となるのは、有効需要が増えたときのインフレだ。それに入超が起きるかもしれない。言わば「インフレ」と「入超」こそ、ケインズ政策の鬼門なのである。

ケインズが「死んだ」と言われるのも、まさに、ここだ。

サッチャーもレーガンも、古典派的政策にしがみついていたのに、やはり、緊急にケインズ政策に依らざるをえなくなった。しかし、結局、インフレと入超ふたご(特にレーガンの場合は「双子の赤字」「三つ子の赤字」に苦しみ抜いて、彼の後継者ジョージ・ブッシュはクリントンに敗れることになった)。

◆ケインズ政策を強行せよ。

また、ケインズ財政政策(政府による設傭投資)をすれば、国債(借金)が増えると批判する人も多い。

今や、国および地方の長期債務残高(政府の借金)の総額は720兆円もある(2004年度末見通し)。GDP(国内総生産)の140パーセント以上だ。ベラボーに多額である。

その利子たるや、一分間で3000万円以上、一時間で20億円以上にもなる。この借金たるや、政府の無策のおかげで増えるばかり!

一体全体、どうするつもりなんだ。気が遠くなるような話ではないか。

政府も必死になって何とかしようとしているが、何をやっても、さっぱり効き目がない。

では、何をするべきか。

断乎としてケインズ政策を強行せよ。

今となっては、これしかない。

歴史が教える。

今の日本は、1930年代のアメリカやドイツとそっくりなのだ。

1930年代の初め、欧米に大不況が来襲した。(世界大恐慌)

フーバー大統領は、黄金の1920年代を受けて、あくまで均衡財政政策を維持しようとしたので、結局、どうしようもなかった。

1933年、大統領になったフランクリン・ルーズベルトは、積極財政「ニューディール政策」によって、米経済の立て直しを始めた。

しかも、ルーズベルトは経済を理解していなかった。せっかく始めたケインズ政策も、「専門家どもに反対される」と言って完遂はできなかった。だから結局、行きつ戻りつ。

景気は順調に回復しつつあったのに、膨らむ財政赤字に慄いた彼は、一九三七年に財政政策をやめてしまった。そこで景気は後戻り。結局、アメリカは、日米戦争によって大量の有効需要が発生するまで、不況のままであった。

ルーズベルトとは逆に、ヒットラーは、ケインズ政策を独覚していた。財政赤字なんか恐れずに、財政政策(巨大な政府投資)を強行し続けた(第三章参照)。景気はあっという間に恢復し、失業者は皆無となった。

◆個人を富ます貯蓄は全体を貧しくする

平成大不況の真の原因をめぐっては、ずいぶん多くの議論があるが、その真相は未だ究められていない。

不況とは、要するに、国民生産=国民所得=Yの数値が低い、とである。

Yは、なぜ低い。

Y=C+I (Iは国民投資+財政支出)

日本で貯蓄は高く、したがって、消費は不足がちである。

では、投資は?

不況だから、民間投資は低い。公共投資は・・財務省に、マスコミに潰された。

それもあるが。ゼロ金利になっても、金を借りようとする企業が、あまり見あたらず、みんな借金返済にのみ熱中している。

年間10兆円もの借金返済をやっているから、設備投資をしようとはしない。

だから必然的に、民間設備投資は低くなる。

やっぱり、ケインズの大発見は重大であった。

ケインズの最大発見の一つには、「合成の誤謬(ごびゅう、理論の組立で誤まること)」もある。

東洋では、「修身斉家、治国平天下」というように、「部分」で正しいことは「全体」でも正しいと思いがちである。ところが、実は、そうとも限らないということを発見したのがケインズである。

「個人を富ます貯蓄は全体を貧しくする」が、ケインズの「合成の誤謬」。

ここで日本の経済守護神も参考ください。

ケインズは誤った経済学に基づくマクロ経済運営で多くの人が苦しんでいることに対して革命をした立派な思想家。論理にインフレ対策が抜けている、ましてや外貨為替市場が70だか140兆円に上っている現在だからこそ、原理原則をちゃんと押さえるべきです。

「日銀が全て悪い、デフレは金融政策が悪い」は明らかに「誤謬」であると断言します。