しつこいほど襲ってくる追っ手を振り切り、リタ達は城の中庭に出る。
「ふう……。なんとか、振り切れたわね。この城の石段は長いから、体力がない魔族には堪えるね」
スーザンは大量の汗を、腕にはめているナックルで拭きながら言った。
それぞれ持参していた水筒で水を飲み、十人は水分補給をした。僅か数秒間ではあるが休憩を済まし、十人は牢屋を目指す。
(私の勘が正しければ、今頃メアリーはかつて私達がいた牢屋にいるはずだ)
リタは過去の追憶を辿りながら、九人を導いていく。中庭を抜けてまっすぐ進むとそこには、先が針のように尖っている棒が、何本もあった。
(ま、まさかこれって、串刺しの刑? でも、なんでまたこんな物を……)
ヒアは棒を見ると、すぐに顔が青くなった。彼は落ち着いて、その棒を見る。すると、彼はあることに気づいた。
(この棒、よく見たら四本だ。おまけに低い物から高い物まで、様々なタイプに分かれてる)
棒の高さは様々で、空を突き抜けようとしているかのように延びている。十人がしばらく四本の棒に見とれていると、彼女達が先程通ってきた方から、十三歳くらいと思われる少女が現れた。彼女は冷ややかに笑い、四本の棒の詳細を明かす。
「ふふ。その棒はね、リタ姫のような愚かな龍戦士を代表する四人を処刑するための物よ。紹介が遅れたわね。私はサンドラ。下級だけど、キア様に仕える砂系魔道師よ」
サンドラという魔道族の少女は、茶色の目でリタ達を威嚇するように見る。
「本当はキア様直々に処刑して頂く予定だったけど、あんた達がここにいるから、その必要はなくなった。今こそ千五百年前の恨み、キア様に代わってこのサンドラが晴らすよ」
そう言うとサンドラは、砂属性の魔法を繰り出す体勢に入る。だがリタは、それに歯止めをかける。
「君は何もわかってないね。私達は苦しんでるキアを助けるために、この城に来てる。それともう一つ、同じ魔道族に捕らわれたメアリーを助けるのも、目的なのさ」
リタが言ったことに、サンドラは顔をしかめる。彼女は思わず、「嘘だ!」と叫ぶように言った。
「わざわざ変装までして、この城に来て……。これじゃあ、不法侵入と何も変わらないじゃない! キア様を殺しに来たんだね? 絶対そうに決まってる!」
今のサンドラにはもはや、戦士達の説得に耳を傾ける余裕すらなかった。彼女達が頭を抱えていた時、中庭の出入り口付近から、二十歳くらいの男性が走ってきた。彼は中庭に来て早々、サンドラに伝えたいことを言う。
「サンドラ、こいつらの言ってることは全て本当だ。いい加減に信じてあげたらどうだ?」
男性の正体は、水系魔道師のリゲリオンだった。サンドラは彼が言ったことに、強く反発する。
「同じ下級のあんたに言われたくないよ。この千五百年間、龍魔族は十種族揃って、魔道族を騙し続けてきたんだよ。アルエスがどうとか、私には信じられるもんか!」
涙ながらに、サンドラは強く言い放つ。
(サンドラ……。本当は心のどこかで、私達が言ってることを信じてるんだ。でも、龍神となった龍戦士達がアルエスを黒い塔に封印したのは、千五百年前。そう簡単に信じられるはずないよね)
スーザンはサンドラの言っていることに共感しながら、悟った。彼女が迷っている間にも、サンドラへの説得は続いている。
「闇龍が封印された黒い塔の地下――あれは間違いなく、この城の地下室のことだ。そしてあの闇のように黒い石こそが、全ての発端だ。メアリーはそれを龍魔族達に伝えようとして、キアに捕らわれた」
「つまりあんたは、《魔道族は龍魔族に心を許してはならない》って掟を破るの?」
サンドラの頑固なまでの反発には、半ばリゲリオンもうんざりしていた。
「掟? あんなのは、全部まやかしに過ぎない。俺の考えが正しければ、キアの――親父の発する闇のオーラこそが、アルエスの魂を集結したものだ。違うか?」
「……」
リゲリオンの考えや意見に、サンドラは何も言い返せない。彼はサンドラに、身を退くように命じる。彼女は大人しく、中庭を後にした。それを見送ると、リゲリオンはリタ達の方を向く。
「リタ、お前達に協力してほしいことがある。聞いてくれるか?」
リゲリオンの言葉を合図に、十人は互いに顔を見合わせ、頷く。
「ああ、もちろん。私達は元々、そのつもりでここに来たんだから」
リタが皆の代表となって、リゲリオンに返事をする。それに応じて、彼は戦士達に頼み事をする。
彼の頼み事。――
それは姉であるメアリーを助け出すために、一緒に行動してほしいとのことだった。
「どうだ?」
リゲリオンは確認する。
「あなたの事情は飲み込めた。ヨゼフ、ナンシー、まずは私達だけでメアリーを助けよう。残りの七人は手分けして、キアの居場所を突き止めてくれ」
リタは早速、戦士達に指示を出す。それには皆が了解した。
こうしてリタ率いる龍戦士隊ルインは、一時的にリゲリオンと行動することとなった。十人は今、作戦を実行に移そうと、動き始めている。