くねくねの道を乗り越えた向こうにある扉の奥には、神聖な空気が流れている。その神聖な感じのする場所の正体は、金龍族の神レグルスの祭壇がある部屋だった。
その部屋はサファイアのような青色やルビーのような赤色、そしてエメラルドのような緑色で溢れている。宝石や金属が重宝されるこの《ガルドラ》という魔界には、金を始めとする様々な金属が各地の貧しい魔族達に提供されている。
貧しい魔族達はこれを売って金を作り、それで食物を買う生活を送っている。それらのことを考えると、各種族の神々は僕達の生活を今でも支え、そして見守っているのだ、とヨゼフは痛感した。
(あの時、水龍神アークレイが言ってた言葉。――あれは、他の龍神達と一緒に生活を支えていくって意味でもあったんだ……)
ヨゼフは水龍神アークレイの言葉を振り返り、想像した。
五人がしばらく部屋の光景に見とれていると、誰かの気配を感じた。今度はリタだけでなく、他の四人にも感じ取れる。
「僕の名前はラドフィス。下級だけど、キア様にお仕えしてる金属性の魔道師さ」
ラドフィスという少年魔道師が神殿に来て早々、広告のような物をリタ達に見せた。それは以前、ゲルデナでペレデイスに初めて会った時に見たのと同じ物だった。
(こ、これって、まさかあの時に見た、指名手配のお知らせ?)
ナンシーは思わず目を丸くする。キアは本気で、私達の処刑を計画している。九年間私達を領国に幽閉して、わざと逃がした。でも、それは私達が今後何をするかを確かめるため。そして今、《龍戦士捜し》をしているということがわかったため、領国での処刑を実行に移そうとしている。
「そうか!」
リタにはようやくその理由が理解できた、と言わんばかりに声を張り上げた。
(あの冷徹な態度、あの時のレザンドニウムの魔道族の人々の言葉。あれはキアじゃない! あれは《邪悪なる魔物》――そう、《闇龍アルエス》が支配してるキアの体だったんだ)
リタはこれまでに聞いた話の中から、答えを導き出す。答えが出た時、リタは一瞬自分の考えを疑った。
(九年前のあの日が来る前まで共存してたはずの魔道族が、急に自分達の都合を押し付けるように襲いかかったりするはずがない。全ては千五百年前から始まってたんだ。フィブラスの第三王子デュラック率いる龍戦士達が封印したはずの魔物が今、この魔界を支配しようと暗躍してる。キアの体と権力を利用してまで、アルエスはガルドラ各地を我が物にしようとしてる。だが、封印を自らの手で解いたとはいえ、アルエスの力は完全には戻らなかった。有り余るほどの力を再び手中にしようと、自らが持つ能力――つまり、《命を吸い取る力》を利用してキアの体に取り憑き、領主の命を吸い取りながら徐々に覚醒しようとしてたに違いない)
リタ達は自分達が囚われた恨みや家族を殺された恨みなどでキアを憎み、倒そうとまで考えていた。だがそれは、大きな間違いである、とリタは思った。
アルエスの陰謀を阻止すること。――
それこそが、十柱の龍神達の願いなのだ。リタはこれから自分達がするべきことに気づき、ラドフィスを説得しようと考える。
「ラドフィス、君の仲間だったメアリーを覚えてるか? あの氷系魔道師は、私達に重大な情報をくれたよ」
「リタ! それは私達だけの秘密でしょう?」
リタはナンシーを睨みつける。その目からは、黙って見てな、と言いたげな雰囲気が漂っている。
「キアは本気で、私達を殺そうとしてるわけじゃない。あの城にあった《黒い石》こそが、闇龍アルエスが封印されてた《暗黒石》だったのさ」
リタが言ったことに、ラドフィスは怯んだ。彼はただ、怯えるばかりだった。
「と、ということはまさか……」
「そう、そのまさかさ。あの領主は今、アルエスに体を乗っ取られてる。それも力が不完全なまま、魂だけが復活した憑依体さ。これだけ言えば、君達も私達を殺そうなんて、考えないだろう?」
「……」
脅しているような、でも真実を口外する時のリタの緑色の目の輝きに怯んだのか、金系魔道師ラドフィスは神殿から立ち去る。
(なんだ? あいつって、意外と臆病なんだな。キアの配下という奴が、聞いて呆れるぜ)
金系魔道師の行動を見て、ヨゼフは彼に対し、《弱虫》の評定を下す。