第十一話:風龍族の族長令嬢(第一段落目) | マーロールのブログ

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タハナビ島のギルネスの街を出て数時間後、リタ達は島内の少し広い村に着く。リタは地図で確認した。その地図には、《ランデス村》とある。この村にはいつも爽やかな風が吹き、住人である風龍族の魔族達にとっては、最も飛びやすい環境になっている。


「やっと着いたね。僕はどっと疲れたよ」


「私も。どこかで、休憩しようよ」


ヨゼフとナンシーが当たり障りのない会話をしていると、黄色い洋服を着た風龍族の男性が、三人を出迎えてくれた。


「ようこそ、ランデスへ。あなた方が、《三種族の代表者達》ですね? どうぞ、ごゆっくり」


挨拶を済ませると、男性は村に戻っていった。リタ達は安心感を持って、ランデス村に足を踏み入れる。そこには、大勢の魔族達がいる。三人が見る限り、彼らは皆、風龍族の民だった。


そのうちの一人は、舞台の上で華麗な踊りを他の魔族達に披露している。情熱的な赤い鬣に、少女らしい服装をして、彼女は軽やかな動きを見せている。


「流石はビオラお嬢様だ。まるで、この魔界で一番の踊り子だったとされる《風龍戦士ルニス》のようだ」


風龍族の民の一人が、過剰な褒め言葉で、《ビオラお嬢様》と呼ばれている少女を煽てる。


「そこの砂龍族のお嬢ちゃん達も見てごらんよ。きっと、気に入るからさ」


三人は、先程彼女達を出迎えてくれた男性に誘われ、観衆の輪に混じる。しばらく少女の踊りを見た後、三人は彼女の所に行った。


赤い鬣をした風龍族の少女は、三人の気配を感じて、振り向く。


「あら、あなた達。さっきあたしの踊りを見てたわね」


「ああ。君の踊りはとても良かったよ。私は砂龍族のリタ。そしてこの二人は、水龍族のヨゼフに火龍族のナンシー」


「あたしはビオラ。よろしくね」


ビオラという少女は、笑顔でリタ達に自己紹介をする。ふとリタは、先程の観衆の言葉が気になり、ビオラに質問する。


「ところで、さっきあなたは風龍族の人達から、《ビオラお嬢様》って呼ばれてたけど、あれはどういうこと?」


この質問にも、ビオラは戸惑わない。むしろ彼女はまた、笑顔でリタの質問に答える。


「ああ、あれのこと? あれはね、あたしが風龍族族長の娘って意味なの」


ビオラが意外にも自分の秘密を簡単に言ったので、ヨゼフとナンシーは驚いている。一方でリタは、普通の反応だった。


(そうか。リタはフィブラス王女だから、そんなのは別に驚くことじゃないよね)


ナンシーはリタがフィブラス国王の娘であることを知っているので、驚いてしまったことに困惑する。ビオラは、あたしの家においで、と言いたげに腕で合図した。三人はビオラの案内で、風龍族族長の屋敷を訪れることになった。


「ただいま」


ビオラは召使いらしき女性に、挨拶した。


「お帰りなせいませ、ビオラお嬢様。エアロビ族長が、丁度あなたを捜していたようですよ」


「え、ママがあたしを?」


ビオラの言う《ママ》とは、おそらく族長にあたる魔族のことだろう、とリタは思った。


三人は彼女について、族長の部屋に行った。フィブラスの砂龍城の謁見の間を彷彿させるような大きな扉の前で、ビオラはノックする。


「どうぞ、お入りください」


女性らしい優しい声で、族長らしき魔族が許可を出した。大きな扉を開き、四人は部屋に入る。そこには、赤色のチャイナ服に身を包み、まっすぐに伸びた綺麗な紫色の鬣の女性がいた。


「ママ、召使いから聞いたんだけど、あたしを捜してたってどういうことなの?」


ビオラは女性のことを《ママ》と呼び、自分を捜していた理由を訪ねた。


「あなたにちょっとした頼み事があったからよ。そこの三人が揃い次第、風龍女神ルニスの神殿に向かってほしくてね」


族長は唐突に、神殿の話を切り出す。彼女はリタ達の方を向くと、自己紹介をする。


「はじめまして、私はエアロビ。この一族の族長です。今回あなた達を部屋に呼んだのは、神殿のことで依頼をしたかったからです」


「はじめまして、私は砂龍族のリタです。こちらは友達の水龍族のヨゼフに、火龍族のナンシーです。その依頼とは?」


リタの質問に答え、エアロビ族長は依頼の詳細を話す。彼女の話によれば、風龍女神ルニスが崇められている神殿に、侵入者が現れたらしい。そこでリタ達の噂を聞いていた族長は、ビオラと共にその侵入者を退治してきてほしい、と依頼したかったのだという。


「でも、あそこは穴がたくさん空いてて、渡るのは大変よ」


「あなた達が行かなければ、誰が行くというの?」


強引な感じのする橙色の目が、リタ達には凄く突き刺さる。それを見てリタは、こんな族長はどこを捜してもいないだろう、と思った。同時に、ビオラとエアロビ族長はなぜか母娘という感じがしない、とも思った。


ビオラ達の血縁関係に多少の疑問を感じていたが、今はそれどころではない。四人は、エアロビ族長からの急な依頼を、快く引き受けた。


(ママったら、いつも強引なんだから……)


ビオラは内心嫌々だった。が、三人について行く以上は何も言えないと思い、ぐっと堪えた。四人はビオラの家を後にして、風龍女神となったとされる踊り子ルニスが崇められている神殿に向かう。


ふとナンシーは、一つだけ気になったことをビオラに聞いた。


「ねぇ、ビオラ。なぜあなたは、《風龍女神の神殿に穴が空いてる》ってことを知ってるの?」


ナンシーの質問に、ビオラは簡単に答える。


「それについてだけど、以前あたしもあの神殿に入ったことがあるのよ」


驚異的な発言を、三人は耳にした。


(ビオラって、なんか凄い。他の魔族ではできそうにないことを、たくさん経験してる)


リタはビオラに、ただ驚かされるばかりだった。


「いや、そんなに驚かなくても。入ったといっても、エアロビ族長の依頼で、ルニス女神様に捧げ物をしに行っただけ。でも、もうそんなことはできなくなるのかしら?」


神殿のことを話しているとビオラは、不安で胸がいっぱいになる。風龍女神が無事でいてくれることだけを祈り、ビオラはリタ達に同行して神殿に向かう。


ランデス村からまっすぐ北に進むと、四人の目の前に、立派な建物が見えた。それは単なる建物ではない。その建物からは、どこか神秘的なオーラが漂ってくる。


「ここが、ルニス女神様がいらっしゃる神殿よ」


ビオラは、半ば自慢げに言った。水色の壁が、まるで青空のように爽やかな色合いに見える。


他種族の神々が見守るなか、リタ達は神殿の中に入っていった。中の雰囲気は、リタにとって、以前三人だけで冒険した水龍神アークレイの神殿を彷彿させる。


ビオラは、未だに不安を募らせている。


「あんたって、本当に心配性なんだね。そんなんじゃ、身がもたないよ」


ヨゼフはビオラをからかった。ビオラは拳を堅く握る。その拳からは、ヨゼフの生意気さに対する怒りが込み上げてきた。リタは必死に彼女を制止する。


「まあ、落ち着きなよ。ヨゼフはああいう子なのさ」


リタが止めたためか、ビオラは我慢した。


(自分はなんて臆病な魔族なんだろう。こんなあたしを、ママはどう思ってるんだろう)


ビオラは、しばらく考え事をしていた。しばらく行くと、涼しい風が吹いている場所に出た。


ビオラの様子に気がついたのか、ナンシーは彼女に話しかける。


「ビオラ、大丈夫?」


ナンシーの表情を見て、ビオラは作り笑いで誤魔化す。


「だ、大丈夫よ。魔法は少ししか使えないけど、戦えるわ」


(意味を取り違えてるけど、とりあえずは大丈夫そうね)


そう思うと、ナンシーはほっとした。


四人は、風龍女神の祭壇を目指している。だが、爽やかな風が吹く方向にはビオラが言った通り、大穴が空いている。誰も歩いては渡れそうにないほど空いているその大穴だが、ヨゼフが四人分もあるロープを取り出す。


「ヨゼフ、いつの間にそんな長いロープを……」


「これは家から持ってきた奴だよ」


そう言いながらヨゼフは、大穴の向こうにある四角いブロックに向かってロープを投げる。ロープはブロックに引っ掛かり、四人が渡れるようになった。


「助かったわ。あたしの場合、ちょっとの飛行はできるけど、あのブロックの所までは飛べないから」


ビオラは、自分の腰にロープを結びながら言った。それに対してリタは、自分もあんな距離は飛べないと言った。ヨゼフの合図で四人はロープにつかまり、一気に大穴を渡った。


「凄い」


ビオラにとっては、それしか言いようがなかった。リタは彼女にも、ヨゼフの生い立ちを簡単に話す。


「彼のお父さんは、冒険家だったんだ。でも、魔道族に殺されてしまってね……。このことは、ヨゼフには内緒にしておいてね」


リタは、ビオラに注意を促す。


爽やかな風の発生源――それは、大きな風龍女神の像だった。四人は石像の前で、祈りを捧げる。すると、石像のある場所で、地響きが起きた。四人は避難した。


その激しい地響きと共に石像は左に動き、地下へと続く階段が現れた。


「もしかして、侵入者はこの階段を使って祭壇に行ったのかしら?」


「ビオラ、まだそう決めつけるのは早いよ。とりあえず降りよう」


リタの意見に、皆が賛成する。四人は階段を降りる。