第十話:岩龍女神の神殿(第一段落目) | マーロールのブログ

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氷龍族の魔族達が住むポラテルド公国の公子アイルが新たな氷龍戦士として目覚め、彼もまた国を守るために力を使うのだろう。少なくとも、リタはそう推測していた。


三人は今、タハナビ島行きの船に乗っている。タハナビ島は、ポラテルドから南に六十キロ離れた所にある、岩石と自然に恵まれた島だ。タハナビ以外にも自然に恵まれた島は幾つかあるけれど、気候が安定しているのは、その島以外にない。三人はいつものように地図を広げ、一緒に目的地を確認していた。


「タハナビ島には、二つ行くべき所があるね。一つは、岩龍族(がんりゅうぞく)の故郷ギルネスの街。もう一つは、風龍族(ふうりゅうぞく)の故郷ランデス村。どっちから行く?」


「そうだな……。まずは、停船場が近いギルネスから。そこからしばらく行った所で一日野宿してから、ランデスに行くというのはどう?」


「なるほど、それは良い考えだね。じゃあそうしよう」


こうして、三人は岩龍族という種族の里であるギルネスの街に行くことに決めた。リタ達が目的地を決めた頃、船のアナウンスが島への到着が間近であることを告げた。


「間もなく、この船はタハナビ島に到着します。お降りの際は、お忘れ物がないようご注意ください」


アナウンスの忠告通り、周りをよく見ながらリタ達は船から降りる。島に着いた途端に、ヨゼフが張り切りだした。


「よし、本領発揮といくか。これ以上、魔道族の奴らに良い顔されてたまるか!」


ヨゼフは、早くも気合いを入れている。このようになった彼を止めることができた魔族は、一人もいない。


「ヨゼフったら、凄く燃えてるわね」


「まあ、ポラテルド公国では風邪で倒れてたからね。結局、あの神殿はヨゼフ抜きで冒険することになったね」


(ああなると、私達であってさえ彼を止められない。だけどいつかは、メアリーが私達に協力するってことを知らせておかないと。このままじゃ、ヨゼフが彼女と衝突してしまう)


ギルネスへの道を歩きながら、リタはそのようなことを考えていた。最近考え事が多いリタのことを気遣ってか、ナンシーが彼女に声をかける。


「ねぇ……」


「何だい?」


「『何だい?』って……。あなたはここのところ、考え事ばかりよ。何か悩みがあるなら、私が相談に乗るわよ」


二人の会話に、ヨゼフが入る。


「ナンシーの言う通りだよ、リタ。一人で抱え込むなよ。僕達は友達なんだから」


ヨゼフ達に言われ、ふとリタはあることを思い出す。旅立ちの前夜に、何かあればヨゼフ達に相談すると誓ったばかりではないか。リタは、自分がだんだんと一人で抱え込むようになっていることに気づく。彼女は話をヨゼフに振る。


「ヨゼフ、君に話しておきたいことがある」


「え、僕に話しておきたいこと?」


リタは、ヨゼフが風邪で寝込んでいる間に起きた出来事について、詳細を話した。彼はリタの話を理解しているようで、ふむふむと頷いている。


「なるほど。じゃあ、キアが放つ闇のオーラの正体がわかるようになるには、少し時間を要するってことだね?」


「まあ……。そういうこと」


ヨゼフは勘違いや早とちりが多いから、もう少し丁寧に説明するべきだった、とリタは後々思った。三人が話しているうちに、ギルネスに着いた。この街はアヌテラほどではないけれど、広い街である。


また、この街にはもう一つ特徴がある。岩龍族の魔族がたくさん住んでいるというだけあって、地面が凸凹しているのだ。とりわけこの街は、岩龍族が住むのに適した環境を備え持っているといえよう。


その環境に初めて触れたせいか、三人はよろよろとしながら歩いた。そこへ、この街の住人らしき茶色の体の龍の少女が、リタ達の前に現れた。


その少女は、リタ達の様子を見て皮肉を言う。


「君達、どうやら岩のように凸凹したこの足場に慣れてないみたいだね」


そう言うと、少女はくすくすと笑う。それに対し、ヨゼフは嫌そうな顔をした。


「嫌味な女だな。君は誰なんだよ? 初対面でそういうことを言うのは、失礼じゃないか」


「失礼なのはどっち? 相手に名前を訪ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀だよ」


ヨゼフの発言で少女は機嫌を悪くしたのか、膨れっ面をして言った。


「悪かったな。僕は水龍族のヨゼフ。これで納得しただろう?」


少女は名前を、リアスと言った。彼女は風にピンク色の鬣を靡かせ、微笑んでいる。生意気なことを言うけれど、どこか憎めないところがある、とヨゼフは思った。


三人がリアスと話していると、向こう側からもう一人、茶色の体をした龍姿の男性が現れた。赤い線が引かれている緑色の服を着たその男性は、四十代後半のように見える。が、彼がこう見えても二十歳だと言った時、リタ達は驚きを隠せなかった。彼は穏やかに笑い、簡単な自己紹介をする。


「ようこそ、ギルネスへ。私はルッカス。この街に住む一族の族長だよ」


ルッカスという名前の族長は、半ばリタ達を見下しているような口調で言った。リアスは、彼と自分の関係について三人に話す。彼女の話によれば、彼女はルッカス族長に仕える身らしい。リアスの話を聴きながら、三人は納得している。


着替えを済ませてくる、と言ってリアスは、一旦家に戻った。


「あいつ、忙しそうな奴だな」


「まあ、それだけ岩龍族のみんなに頼りにされてる証拠でもあるんだよ」


リタとヨゼフの話を聴いていたのか、ルッカス族長は首を横に振り、反応する。


「違う。あの子はお転婆で、目立ちたがり屋なだけなのだ。だから、さっきの行動はよりみんなに信頼されようとアピールしてるということだ」


族長は、一番の部下にも等しいリアスを否定するように言った。しばらくすると、リアスが戻ってきた。早く戻ってきたわりには、しっかりとした黄緑色の服を着ている。だが、いかにもお転婆な少女らしい紫色の短パンにベルトという組み合わせなので、ヨゼフと同い年というのが嘘のように思える。


そのようなことを密かに思いながらリタ達は、岩龍女神シトラルの神殿に纏わる情報を手に入れるため、ルッカス族長の家を訪ねた。彼の家は、どこだかヨゼフの家を彷彿させるような縦長の家だった。だが、中にある家具はどれも屋敷のように豪華な物ばかりだ。ただ一つだけ欠点があるとすれば、この家に蜘蛛の巣や溜まりに溜まった埃があることだ。おそらくは、族長自身あるいは彼の召使い達が掃除を怠っているせいだろう。少なくとも、リタはそう思っていた。


フィブラスの王女として、五年間綺麗でかつ磨き抜かれた空間で過ごしてきた彼女にとっては、余計にこの空間が汚らしく感じた。


既にナンシーは、岩龍女神シトラルの神殿に関する情報を、族長に聞き始めている。ルッカス族長は、難しそうな顔をして答える。


「一口で説明するのは、不可能だと思うな。神殿は普通、予期しない場所にあることが多いからな」


(確かに、ルッカス族長の言う通りかもしれない。今まで冒険してきた神殿の中にも、勘だけで探って見つけた所もある。ヨゼフの故郷でもある中央都市アヌテラの神殿などがその例だ。探るのが極めて困難だけど、その分スリルや冒険する甲斐がある)


ナンシーは、過去の冒険を振り返りながら、このような見解を見出していた。


(でも、本当はリアスもルッカス族長も神殿についてはほとんど把握してると思うの。でなければ、こんな風に私達を易々と呼んだりしない)


ナンシーは、もしかしてリアス達が隠し事をしているのではないかと、疑わずにはいられなかった。


「ナンシー、どうしたの?」


深刻そうな顔をして考えているナンシーを心配して、リタが訪ねる。そんな彼女を気にせず、ナンシーは自分が思っていることを素直に言った。


「ルッカス族長、本当は私達に隠し事をしてませんか?」


「ナンシー、そんなことを言ったら失礼だよ。もっと言葉を選ぼうよ」


頭ごなしに物を言うナンシーを、リタは止めようとした。が、ナンシーは聞かなかった。


「どうなのですか、族長。もし隠してるというのなら、私達にだけでもこっそりと教えてくれても良いはずです」


(相変わらず強引だな、ナンシーは)


必死にルッカス族長を説得しようとするナンシーを見て、リタとヨゼフはそのように思った。だが、ナンシーの意見を聞き、族長は口を開く。自分が隠していることを告白する覚悟ができたのだろう。


「ナンシー、君の言う通り、私は族長の義務として神殿のことは、この九年間伏せていた。魔道族と敵対中ということもあり、キアの配下達に知られてはまずいと思ったのだ」


族長の話を聴いた後、リタはこれまでに神殿内で起きた出来事を踏まえて話す。


「ですが、その秘密は既にばれつつあります。なぜなら、キアの配下達が各自で情報を集め、各地の神殿を徘徊しているからです。なので、せめて私達に場所を教えてくれるだけでも良いので話して頂きたいです」


この街を守りたいがために、無闇に情報を与えずにいた族長だが、リタの説得により考えを改めた。今の状況を打開する策があるとすれば、今日の客であるリタ達を神殿に導き、龍戦士捜しに協力してあげることくらいだ。ルッカス族長は酷く悩んだ末、リタ達を神殿に行かせることにした。


その代わりに彼は、リアスに同行することを条件とした。この案に、少なからずヨゼフは疑問を抱く。


(リアスと一緒に神殿を冒険? 冗談じゃない。こんな奴と行動したら、生意気なことをたくさん言われるだけだ)


自分もリタやナンシーに向かって時々生意気なことを言うことを置いて、ヨゼフは族長の案に反対した。


「了解しました、族長。あたしなら平気ですから、ご心配なく」


(その言葉が余計に心配なのだが……。まあ、無事に帰還することを祈ろう。シトラル女神が、リアスに味方してくださるようにな)


ルッカス族長は、本音を出さないようにしている。もし本音を言ってしまえば、リアスを傷つけかねないと思ってのことだ。


四人は準備をしてから、岩龍女神の神殿に向うことにした。一方で、リアスはまだピクニック気分であったが。


「リアス、一応言っておくけど、これは冒険であって遊びじゃないんだよ」


リタが注意したにも関わらず、リアスは耳を傾けようともしない。バッグに荷物を入れながらリタは、リアスが族長にあまり信頼されていない理由を悟った。


人の注意に耳を傾けずに、ただ自分のやりたいことだけをやっている。これならいくらアピールしても岩龍族の民からの信頼が薄くて当然だ。リアスの行動を見ていて、リタはそう考えている。


「どうしたの、リタ?」


ナンシーに聞かれ、リタははっとした。


「どうしたって?」


リタはわざとはぐらかすように言った。おそらくは、ナンシーに心配をかけたくないと思ってのことだろう。彼女の態度に対し、ナンシーは膨れっ面をしている。


(何よ、リタったら。人がせっかく心配してあげてるのに。私達は友達じゃないの?)


ナンシーはいつもの癖で、意地を張ってみた。が、先程の態度は一時的なものか、とも思っていた。


三人は準備を整え、リアスと一緒に岩龍女神の神殿に向かった。出発早々、リタはわざと軽率なふりをして、リアスに質問することにした。


「リアス、君はいつからルッカス族長に仕えるようになったの?」


「いつから……と言われても、全然覚えてないわ。あたしは、いつも族長の側にいるわけじゃないし」


リアスは半ば戸惑い気味に答えた。ヨゼフもナンシーも、今日はいつものリタじゃないと感じている。いつもならば、彼女はこのように話を振ったり、答えたりはしない。これには理由があるのか、それとも単にリアスを試しているだけなのか。二人の脳裏には、リタの態度に対する疑問しか残っていない。


「リタ、どうしたの?」


「何が?」


「何がって、さっきの質問のことよ。あんな聞き方をしたら、リアスに失礼よ」


ナンシーが言ったことを否定するように、リタは首を横に振る。


「そうとも言い切れないよ。少なくとも、私はそう思ってる」


「どうして、そう言えるの?」


ナンシーは、不思議でならなかった。リタは、言葉を慎重に選びながら、答える。


「よく考えてみな。出発前のリアスの態度を。あれは絶対に、自己中心的に物を考えてるとしか思えない」


リタはやけにさっぱりとした口調で、自分の意見を述べる。ナンシーもその意見に対しては、否定できなかった。


リアスには、ただ自分だけが目立てば良いと思っている部分がある。それは、族長が一番理解している点ではないのか。ナンシーから見れば、あの時のルッカス族長の言葉は、単にリアスを庇っているようにしか取れなかった。


物の受け取り方は個人によって様々だが、今のリアスの思考は間違っていると、三人は思った。


リアスの行動や思考について考えているうちに、岩龍女神の神殿らしき場所に着いた。だが、四人が着いた場所は神殿というよりはむしろ、ほこらか洞窟のようにしか見えない。


「本当にこれが、岩龍女神がいるといわれる神殿の入り口なのか?」


ヨゼフは、疑わしげにリアスに訪ねる。


「さあね。でも、多分ここだと思うよ。他に見当がつかないもの」


リアスは、さっぱりとした態度で答え、三人よりも先に神殿の中に入っていった。


「ちょ……ちょっと待ってよ。君が考えてる以上に、神殿には危険がたくさんあるんだぞ」


リタが呼び止めた時には、既にリアスの姿は見えなくなっていた。世話が焼ける女の子だ、と思いながら三人は彼女を追って中に入る。


神殿の中の足場は非常に悪く、今まで冒険してきた場所以上に罠がたくさん仕掛けられている。おそらく千五百年前に神殿長を務めていた魔族が、侵入者を防ごうとしたのだろう。もしくは、単に彼が心配性でかつ用心深い性格だったのだろう。リタは、大昔の神殿長のことを、勝手に想像していた。


しばらく進むと、行き止まりで困っているリアスの姿があった。


「いた。リアス、なぜ私達よりも先に入ったの?」


ナンシーは見つけて早々、リアスを睨みながら言った。リアスは、ただ退くばかりだった。


「単独で行けば、仲間を危険にさらすことだってあるのよ。自己中心的な行動は慎みなさい」


ナンシーは半ば追い詰めるようにして、リアスに注意する。リアスは黙って首を縦に振る。


(ナンシーの怒り方は、怖い。性格がややきつめだから、仕方ないか)


リタもヨゼフも、ナンシーの怒り方は半端なく怖い、と日頃から感じている。ふと、ヨゼフは壁に手をやる。どこかに仕掛けがないか、一所懸命に探っているのだろう。


彼があれこれと探っていると、後ろの壁に、古代文字が彫ってあるのを見つけた。


(この神殿の古代文字は、かなり難しそうだな。僕にも読めるかな?)


ヨゼフは珍しく眉を八の字にして、遠ざからないと見えないほどの量の古代文字を読み始める。


「凄い。あたしにも読めない文字を、あんなにすらすらと。水龍族は知恵が豊富な種族だと聞いたことあるけど、本当のようね」


リアスは事実を知り、驚き、また感心していた。リタは、ヨゼフのことについて説明する。


「ヨゼフは、私達と同じくレザンドニウムの奴隷だったんだ。彼はそこで九年に渡り、古代文字の勉強をした。なんでも、お父さんの影響を強く受けたかららしいよ」


リタの簡単そうな説明には、リアスは関心を寄せない。


(いかにも興味なさそうな顔をしてるわね。もしかして彼女は、自己中心的なわけじゃなく、単に無関心なだけなのかしら?)


リアスの本当の性格については、ますます疑問が深まるばかりだった。ヨゼフは二分も経たないうちに、古代文字を解読し終えた。


「今回はわりと早く解読できたわね、ヨゼフ」


ナンシーに威張るように言われ、ヨゼフは膨れっ面をした。


(なんだよ、自分はできないからって偉そうに。今に見てろよ、ナンシー)


ナンシーに皮肉を言われ、ヨゼフはかちんときたが、我慢した。