氷龍族の魔族達が住む氷の島国、《ポラテルド》。この島国の城の地下神殿で氷龍神ガトラが見ている中、リタとナンシーは力を合わせて、金髪の氷龍族の少年を説得しようと努めている。
「君はアイル公子だね? 何があったか知らないけど、神殿から戻って来ないと、父君のルース大公が頭を抱えてたよ」
アイルはおっちょこちょいな公子。氷龍大公の言葉を思い出し、リタは彼のことを予想してみた。
(あの言葉から予想できることはただ一つ。彼は単にここから出られなくなってしまったに違いない)
そのようなことを考えていると、リタの右腕に鎖が巻き付くようにとんできた。リタはもう片方の手で、必死に鎖をほどき始める。だが、その時、少年が跳び上がり、彼女の目の前に来た。少年は彼女を蹴ろうとする。
リタは間一髪で、攻撃を避けた。とはいえ、鎖はリタの武器にがちがちに巻きついているので、ほどくのに時間がかかりそうだ。
(くっ! このままじゃ、もたない。せめて、この鎖がほどければ……)
リタは歯を食いしばり、右腕に巻き付いた鎖を引きちぎろうとする。ふと、作戦を思いついたかのようにリタは少年の目の前まで歩み寄る。
「リ……リタ、何をしてるの?」
「まあ、見てなって」
ナンシーが心配してリタのことを見ている中、彼女は左手の爪を少年の頬に向ける。彼女はそのまま、少年を引っ掻いた。
「リタ、やり過ぎよ! 相手はただメアリーに操られてるだけなのよ」
ナンシーが必死に少年を庇う。が、リタは彼女を睨みつけた。
「きつく言うけど、このまま私達が殺されても良いのか? 彼も私達と同じ龍戦士だ。無駄な殺人をさせてはいけない。だからこそ、こうしなきゃ、彼の目は覚めない!」
鋭い目つきと怒気に満ちた形相で他者を見つめるリタを、ナンシーは初めて見た。リタは改めて、少年の方に向き直る。彼女は少年に訪ねる。
「アイル、君は何の意図があって私達を殺したい?」
仮ではあるけれど、リタは少年のことをアイルと呼ぶ。すると彼はリタの声に反応するように、首を横に振り、「そんなことは考えてない」と答えた。だが、少年の態度に対し、彼女は更に怒気を強める。
「考えてるとか、考えてないの問題じゃない! 魔族を殺すことは罪だ。そんなの、公子が――未来の大公がすることじゃない!」
リタの怒声は、神殿中に響き渡った。それを見ていたナンシーもメアリーも、震えが止まらなかった。それほどに、リタの怒りは大きいのだ。ふと、少年の様子が変わる。
「アイル……。僕の……僕の名前……。うああああぁぁぁ!」
彼は急に叫び始め、その声はリタの怒声と同じく、神殿中にこだまする。その叫び方があまりにも酷いので、彼女達は思わず耳を塞ぐ。一度叫ぶとアイルは、両膝をついて脂汗をかき、そのまま倒れた。
その時、リタの右腕に巻きついていた鎖は、自然に緩くなっていた。彼女はゆっくりと、それをほどく。
「メアリー。私が斧を使う間もなく、決着が着いたようね」
ナンシーは始めから手を出さなかった。それは、氷系魔道師メアリーを思ってのことだった。
「あなたはもしかして、本当は始めから私達と戦う気はなかったんじゃないの?」
ナンシーに訪ねられ、メアリーは戸惑う。
(そうよ、ナンシー。あなたの言う通り、私は始めから戦おうとは考えてなかったの。でも、キア様――お父様の命令には背けない。例え氷龍族の公子を利用してでも、砂龍王女であるリタを抹殺しなければならない。そう命令されたから……)
(でも、ようやく気づいたの。こんなのは無意味だということに。お父様はきっと、ガルドラの支配など望んでないはず。それなら私がやるべきことは、ただ一つ。リタ達のために、他の魔道師達の行動に歯止めをかけるよう呼びかけるの。もうこれ以上、リゲリオンのような魔族を増やしたくない。そう、こんなのは間違ってる。力だけで魔界を支配しようとすることだけは)
メアリーの心の中では、龍魔族達を苦しめているキアに対する疑問、彼の陰謀に歯止めをかけたいという気持ちとが交叉するのだった。その時、妙な倒れ方をしていた氷龍族の少年が、ゆっくりと起き上がった。
「やあ、今お目覚めかい? 公子様」
リタは半ばからかうように言った。公子は、リタ達の顔を交互に見る。
「あなた方は一体? それになぜ、魔道師の方が一緒にいるのですか? 本来、龍魔族達と魔道族は敵対中のはずですが」
「私はリタ。そして、こっちがナンシー。君はメアリー――つまり、この魔道師に操られてたのさ。ところで質問が。私達は《アイル》って公子がこの神殿に来てるって聞いて、ここに来たんだけど、それって君のこと?」
リタの質問に対し、少年は首を縦に振る。
「そうです、僕がアイルです。父ルース大公の依頼で、この神殿を調査してたのですが……」
「『この部屋で氷龍神像の存在を突き止めたので戻ろうとした時、道に迷って出られなくなった』でしょう? 大体の察しはつくわ」
「ナンシー! そんなことを言ったら、公子に失礼だろう?」
ナンシーの先程の言動を、リタは軽く注意する。リタはメアリーの方に向き直り、質問をする。
「メアリー、あなたは私達に隠してることがあるんじゃないか?」
この質問には、メアリーは答えようかどうか迷っていた。が、キアの現状を考え、彼女は話すことにした。彼女は勇気を持って、リタ達に自分が思っていることから話し始める。