※この記事は、アメブロで連載中のブログ小説「ガルドラ龍神伝―闇龍編―」の第五話に関連した短編小説です。中には暴力的な表現も含まれていますので、苦手な方はバック推奨です(今回はヨゼフ視点です)。
僕の奴隷仲間だった、砂の属性を持つ龍姿の種族《砂龍族》の王女リタが、お父様の砂龍王ランディー陛下の許しを仰ぎ、催し物《リタ姫帰省記念パーティ》を開いた。パーティ閉会後、僕と火龍族のナンシーはリタの乳母ジオ様に連れられて、砂龍城の宿泊客のためにあると思われる寝室に向かう。
砂龍城とは、現在王様とその娘であるリタが住む城のことで、砂龍王というのは、このフィブラス王国を治める王のことである。
この砂漠は、後に初代砂龍王となった砂龍族の男性ラドダンが建てた時から三十代に渡って、国の平和が保たれている。青い砂が砂漠一面に広がり、夜になれば月の光に照らされ、きらきらと光って綺麗だと、以前父さんが話してくれたことがある。実際に、ナンシーやこの国の子供達と一緒に砂漠で遊んだけれど、それは綺麗で、まるで青い宝石が砂の中に埋まっているかのようだ。この青い砂に因み、城の建設者ラドダンは砂漠のことを《サファイア砂漠》と呼び、また砂龍城のことを《サファイア・パレス》と呼んだ。
――今は穏やかな夜を過ごしているけれど、この平和がいつまで続くかわからない。というのも、現在僕達龍魔族と、この魔界の北端に住む魔道師の種族《魔道族》との対立が、絶えない状況下にあるから。なんだか僕達の先祖が昔、「邪悪な龍を勝手に領国の城の地下に封印した」と思い込んでいる領主がいる。
そもそもその邪悪な龍とやらが封印されたのは千五百年前の話だし、そんなことをどうして今になって話題にするのだろうか。そんなことを思っていると、ナンシーが急に僕の顔を覗き込んできた。
「ヨゼフ、あなたはさっきから何を深刻そうに考えてるの?」
ナンシーの言う通りだ。今の僕はかなり深刻になっている。考えてばかりも何だから、今日はもう寝よう。
「ううん、何でもない」
それだけを彼女に言い、僕はジオ様に案内された部屋のベッドに横になる。奴隷の頃の疲れが残っているのか、すぐに眠れた。
けれども、これはほんの序の口だった。時が経つにつれ、脂汗が頬をつたる。
――しばらくして、脂汗がひいたかと思うと、今度は今いる場所とは違う空間に入った。
ここは、一体どこだろう? 空間の中には、城のように頑丈な壁と、いくつかの檻がある。その檻の一つの扉を、黒いローブを纏った魔道師らしき男性が開ける。彼の近くに、僕と同じ赤紫色の髪を持った水龍族の男の子を抱えた女性の魔道師がいる。彼女は、荒々しく男の子を檻の中に放り込んだ。
「こら、そこの女魔道師! あれほど『水龍族の少年も砂龍族の姫君も、まともに扱え』って言ったはずだぞ! なのにお前ときたら、姫君も少年も荒々しく檻に放り込みおって……」
黒いローブの男が、部下と思われる女に辛く当たる。そのまま二人の魔道師は去って行き、後には檻に閉じ込められた男の子が残った。けれども、先程あの男は《砂龍族の姫君》という言葉を使っていた。
檻の中にいる赤紫色の髪を持つ水龍族の男の子は僕自身で、《砂龍族の姫君》というのはおそらくリタのことだろう。それが本当なら、僕は夢の中にいるということだ。それも、僕が四歳でリタが五歳の頃を彷彿させる夢。
「父さんも母さんも弟も、みんな魔道族に殺された。なんとかして、僕だけでも生き残らないと」
男の子は呟いて、後ろを振り返る。すると、女の子が一人、檻の中の冷たい床に横たわっているのが見えた。男の子が彼女の左肩に手を伸ばしかけた時、彼女は目を覚ました。彼女はすぐに男の子を突き飛ばし、後ろに下がる。そして、切れ長の目で、彼を睨みつける。
――そういえば、この時の僕はリタに対して、接し方や礼儀を弁えていなかったかもしれない。
女の子が小さい僕を睨みつけたまま何も言わないので、試しに話しかけてみる。すると、彼女がようやく口を開いた。
「私に何か用? 薄汚い手で、触らないで!」
いかにも砂龍族の姫君らしい口調で小さなリタは、初対面の僕に怒る。緑のラインがある青いドレスに身を包み、綺麗な赤い手袋で小さな手を守っている。
――この時から既に僕は、リタが砂龍族の王女だということに気がついていた。あの日、奴隷部屋で身分を明かしていた彼女は、多分気づいていないだろうけれど。
「僕は水龍族のヨゼフ。さっきはごめん。君を起こして、一緒にこの城から抜け出そうと思ってさ」
僕は愛想笑いを浮かべ、その場を上手に取り繕おうと試みる。僕が言ったことの意味がよくわからなかったのか、リタは一瞬首を傾げる。だが、すぐに意味を悟ったのか、辺りをきょろきょろと見回し始めた。彼女は鉄の棒を手に取ると、それをほんの僅かな隙間に差し込んだ。
「何をぼんやりしてるの? 早く手伝ってよ!」
「手伝ってって、何を?」
「君もこの城を出たいんでしょう? だったら、この棒を私と一緒に、右に押して」
リタの指示に従い、彼女と一緒に鉄の棒を押す。すると、檻の隙間がだんだんと広がっていき、僕達二人が通れるくらいになった。僕はアイディアをくれたリタに礼を言う。
「ありがとう。えっと、君の名前は……」
「リタ。私は砂龍族よ。さあ、挨拶はこれくらいにして、さっさとここを出るわよ」
そう言うと小さいリタは、小さい僕の手を引き、一目散に走る。ドレスの桃色の裾が破けそうになるのもお構いなしで。
魔道師達の追っ手を振り切り、僕達は城の裏口に辿り着く。ここを抜ければ、それぞれの故郷に帰れる。そして、生き別れた一族の人達にまた会える。仲間達との再会を果たせるという希望を胸に、僕はリタと一緒にこの城からの脱出を試みる。だが、それは高望みだったようだ。
檻を出てから十分も経たないうちに、僕達は赤いローブを纏った魔道師達に囲まれてしまった。全員、華の属性を持つ魔道師だ。彼らは小さい僕達を見ると、低い声で笑った。
「見つけたぞ、水龍族の小僧。大人しくその砂龍と一緒に、檻に戻れ」
彼らは本気で、僕達を檻に戻そうとしている。それを察した僕は側にあった木の棒を手に取り、構えた。すると、彼らはまた、低い声で僕を笑う。まるで、小さい僕に勝目がないという雰囲気が漂う。それでも、小さい僕は諦めなかった。リタを魔道師の魔の手から守り、一緒に城から抜け出すために。
震える手で木の棒を握り、華属性の魔道師の一人に向かって突進する。が、僕の攻撃はあっさりかわされてしまった。攻撃を上手にかわしたのを良いことに、その隙をついて僕の脳天にチョップを食らわせた。その一撃に耐え切れず、小さな僕は気絶してしまった。
「ヨゼフ!」
気絶した僕の体は魔道師の一人に持ち上げられ、檻の方に連れて行かれる。リタが必死に彼の方に向かうが、走っている途中で彼女も腹を蹴られ、気絶させられてしまった。
――こうしてこのまま僕達は、魔道師達の奴隷として九年間働かされた。もし、キアの気紛れが発端のあの蜘蛛との戦いがなければ、僕達は永遠に彼らの奴隷だっただろう。
夢の中で小さなリタが魔道師達に連れて行かれた所で、僕は目を覚ました。起きた頃には、もう朝になっていた。
「夕べはずっと魘されてたわよ。何か怖い夢でも見たの?」
城での朝食の途中で、ナンシーが訪ねる。だが、僕は敢えて彼女の質問に答えなかった。夕べ見た夢の内容については、僕だけの秘密にしておきたいから。
けれども、あの夢を見たのを機に、僕は決意した。僕はリタを守る騎士になりたい。例え自分が水龍神アークレイから新たな水龍戦士に選ばれなくても、この一本の槍にかけて、彼女を守り抜く。
(あんたを守りたい/《完》)