第四話:砂龍神の願い(第一段落目) | マーロールのブログ

マーロールのブログ

ブログの説明を入力します。

「リタ殿下、ランディー陛下に許可を取らなくても、良かったのですか?」


ジオは訪ねた。リタは鍵をポーチから取り出しながら、答えた。


「何言ってるの? 父上が反対するなら、わざわざ私達に鍵を探すのを手伝えって、言わないだろう? それに私は、どんな困難にぶつかろうとも逃げないって決めてる」


彼女の言葉を聞き、ジオは安心した。その言葉の中に、父親から受け継いだ勇気と気高さが込められている、と感じたからだ。


(殿下……。皮肉にも、闇系魔道師の奴隷として生活したのを機に、頼もしくなりましたね)


ジオが涙目になって、三人を見送る。大袈裟な仕種だなぁ、と思いながらリタは地下神殿の鍵を開けた。


「じゃあ、行ってくるよ。ジオ、父上には『心配しないでくれ』って伝えてね」


「御意」


乳母に見送られ、リタ達は地下神殿に入った。目的はもちろん、砂龍神に会うためだ。


「暗いな。懐中電灯を持ってないか? ヨゼフ、ナンシー」


リタの質問に答えるように、ナンシーは手提げ鞄から、赤色の本体の懐中電灯を取り出した。が、その懐中電灯が電池切れだったので、彼女は予め用意しておいた単三電池を交換した。


「ごめん。電池が切れてたみたい」


ナンシーは大袈裟な仕種をして謝り、懐中電灯をつけた。それをそのまま、リタに渡した。


神殿内には数多くの仕掛けが施されていて、簡単に進むことはできないだろう、と三人は思った。


(この神殿……。罠や仕掛けが多すぎる。デュラックは砂龍族の王子だったという説があるから、おそらく彼の父親だった初代砂龍王の用心深さのせいだと思うが……)


リタは砂龍神の歴史を想像しながら、辺りを見回している。そしてようやく、三人は神殿内を進み始めた。四十メートル近くまで歩くと、そこは行き止まりだった。


「リタ、本当にここで合ってるの?」


リタに訪ねたのは、ナンシーだった。リタは返答に困った。


「私に聞かれても……。どこかに、秘密の扉を開けるためのスイッチでもないかな?」


「馬鹿なことを言わずに、二メートルだけ引き返そうよ」


ヨゼフに言われた通りに、リタ達は引き返そうとした。が、その時だった。


一番後ろにいるヨゼフが右側の壁に触れた途端、ガシャンと何かがはまるような音がした。リタとナンシーが音に反応して、後ろを向いた。


「ヨゼフ……」


「今、何かに触った?」


二人がヨゼフの顔を見て、聞いた。彼は慌てて、首を横に振った。


「『僕は何もしてないよ』って言いたげな顔ね。正直に言いなさいよ、ヨゼフ」


「まあまあ、落ち着きなよ、ナンシー」


リタは、ヨゼフに怒っているナンシーを制止した。彼女は続けて言った。


「彼が何も言わないのは、確かに良くない。だけどナンシー、君も彼に冷たく当たりすぎだ。見てごらんよ。彼もこんなに……」


リタは途中で、言葉を飲み込んだ。三人が仕切りだと思っていた石の壁が、音を立てて開いたからだ。


三人は不思議そうに、開いた扉を見た。


「お……おそらく僕が右側の壁にあるスイッチを押したからじゃないかな?」


ヨゼフは推測した。


ナンシーは、急に瞳を輝かせた。それは扉が開いたことで、砂龍神の居場所への近道ができたかもしれない、と思っているからだ。


「おーい、ナンシー。聞こえるか?」


リタは、ナンシーの顔に手を翳した。


「ごめん。もしかしたらこれが、砂龍神の像の発見に繋がるんじゃないかしら、と思って」


ナンシーが謝った後、ヨゼフは人差し指を彼女の顔に近づけた。彼の動作はまるで“もう一言、謝ってほしいことがある”と言いたげな態度を示しているようだ。


「わかったわよ。ヨゼフ、さっきは冷たく当たってごめん」


素直な謝り方ではなかったけれど、彼は許してあげた。ナンシーの場合、他人に対して素直に謝るということをあまりしない。このことは、奴隷になって半年経った頃から解っていたことだからだ。


三人は石の扉に入った。その先は、石段をずっと降りていかなければならない。


三人は武器の装備もしていない――いわば手ぶらの状態で、砂龍神の所に行こうとしている。それは、極めて困難なことだ。が、彼女達は困難や危険を一切顧みることなく、神殿内を冒険している。


三十メートルくらいの石段を下り終えた彼女達を待ち受けていたのは、巨大な砂龍神像と十本の発煙筒だった。


(砂龍神像を動かすだけならまだしも、なぜ十本も発煙筒があるんだ?)


リタは心底、神殿の中にしては間抜けな仕掛けだなぁ、と思った。


「この壁に何か、彫ってあるよ」


先に壁の彫刻の存在に気づいたのは、ヨゼフだった。彼は早速、それを解読した。


(凄いな、ヨゼフ。流石はレザンドニウムの奴隷部屋で、古代文字の勉強をしてただけのことはあるね。私も彼を見習おうかな……)


リタは感心していた。その間も、ヨゼフはすらすらと文字を読み上げていく。


その壁に彫られている文字が示す内容は、以下の通りである。


『偉大なる砂龍神に会いたくば、全ての発煙筒に砂をかけるべし。さすれば、神の戸を開けん』


(“全ての発煙筒に砂をかけるべし”? 確かに私は砂龍族だから、砂煙を巻き起こすこともできるけど、まだ上手に制御することは難しいよ)


リタは困惑した。が、仲間達が支えてくれると信じて、彼女は拳を握り締めた。


そして、十本の発煙筒に囲まれながら、砂煙ごと回転し始めた。


(頑張って、リタ。あなたなら、絶対にこの仕掛けを攻略できる)


ナンシーは祈った。が、リタの魔力は父王ほど強くはない。それゆえ、体力の消費も大きい。彼女はばて気味だった。


(……! 眩暈がしてきた。が、私は絶対に諦めないよ。諦めたら、そこで終わりじゃないか)


リタは歯を食いしばって、砂煙を広げた。全部の発煙筒に、砂をかけることに成功した。


「よく頑張ったわね、リタ」


「今日のあんたを見て、かっこいいと思ったよ」


ヨゼフ達が駆け寄って、リタを褒めた。先程の彼女の頑張りが報われたのか、砂龍神像がある部屋の扉が開いた。彼女達はほっと一息ついて、扉に入った。


そこには巨大な砂龍神の像、彼を祀る真珠や水晶玉などが置かれていた。が、唯一不可解な点は、ヨゼフが先程読んだ壁の彫刻の内容だった。


“偉大なる砂龍神に会いたくば……”などと書かれても、所詮は伝説なのだから、本当に会えるかどうかはわからない。


リタ達は辺りを見回しながら、疑問を浮かべた。