危険な人間の系譜

選別と排除の思想





筆者は精神科医でもある中谷陽二。


中谷陽二氏は刑務所医務部経験もあり、

専門は司法精神医学、精神病理学、精神医学史。


精神障害者が犯罪を犯した際の精神鑑定などの

経験も豊富な医師です。




2020年出版の比較的新しい本になります。



本の1ページ目、

「はじめに」では以下のような文で始まります。



「答えは一つしかない。閉じ込めておこう、それも永久に、だ。」



この言葉は、

2001年ドイツで小児性愛者の男性が八歳の女児に

性的暴行を加えて殺害した事件を受け、

当時の首相シュレーダーが発した言葉である。



これはドイツに限った話しではない。


社会を震撼させる凶悪な犯罪事件が発生するたびに、

人々の憤激が巻き起こり、

犯人に厳罰を科せという声があがる。


世論をバックに、

犯罪者を社会から遠ざけて市民の安全を確保するための

様々な方策が講じられる。




「腐ったリンゴは樽をダメにする」


という英語の諺がある。


腐り始めたリンゴを取り除かないと樽のリンゴ全部を

腐敗させることを意味する諺。


リンゴを人間に置き換えると、


共同体にとって害になると予測される個人や集団に

対して、


「アイツを早く追い出そう。でないと俺たちまで腐ってしまう」

という不寛容な態度をとる例えになる。





とりあえず、

法治国家においては、

仮に危険な人を排除するにしても合法的に行われなくてはならない。


では、

「危険な人間」とは具体的にどのような人であろうか?


何をもって「危険」とみなすのか。

 


この本では、

「危険な人間」をめぐる科学的言説および選別と排除のための法制度、政策とその実戦について近代以降の

いくつかの事象に着目しながら、

筆者が犯罪者の分類と刑罰の本質に関する刑法学と

精神医学の交錯、

その具体化としての予防的な刑事政策を論じます。



さらには、

20世紀初頭の流行思想であった「優生学」を取り上げ、

特に、

精神障害者を安楽死(現実には虐殺)してきたドイツや、

精神障害者の断種(不妊手術)を実施した日本を例として検証する。



さらには、

良心や共感能力の欠如を特徴とする「危険な人間」の

現代版ともいうべきサイコパシーの心理学と接近することにより、

「危険な脳」の発見を射程に入れてる現代の医学の動きも検証する。



そして、

「選別と排除の思想」を探ることをテーマにした本になります。





ドイツT4作戦


過去記事にも何度となく書いてます。


精神医学、精神医療の歴史を学ぶ上では欠かせない

歴史の一つですから。

歴史といってもそんなに大昔ではない。


ユダヤ人の大虐殺よりも約2年早く行われた大量殺戮プログラム。


精神障害者、身体障害者などや反社会的とみなされた人々が大量にガス室で殺戮されました。


さらには、

やはり精神、身体障害をもつ子供の殺戮プログラムも

実行されます。



まだ100年も昔の話ではないんです。


「T4作戦」


日本ではあまり馴染みのない事件名かも知れません。

これは、

ナチス・ドイツの起こした戦争犯罪であり、

主に知的障害・精神障害者を対象におこなわれた虐殺作戦を指します。


「20世紀最大の悲劇」と呼ばれるホロコーストと比べると知名度が低いT4作戦ですが、

これも我々が忘れてはならない事件です。


公式な資料ではT4作戦における犠牲者は少なくとも7万人。

しかし、

ナチスに最終的に命を奪われた障害者は20万人とも、

データによっては40万人以上ともいわれています。






これ、

ドイツの話で日本は関係ないでしょ?と

思われる方も多いと思いますが、


日本も立派に「優生思想」が主流だった時代があります。


しかもそんな大昔ではない。

1996年まで優生保護法が定められてたのですから。


これにより、

少なくとも1万人以上の障害者が強制的に断種手術を

受けさせられてます。




この本のタイトルにもある

「危険な人間」



100%イコールではもちろんありませんが、

かなり

「精神障害者、精神病」の人達が含まれてるニュアンスを本を読み感じました。



実際、

常に定期的に、

精神疾患者による犯罪のニュースが目に入ります。


さらには、

世間に衝撃を与えたような事件でも、

犯人の弁護側は必ずと言っていいほど

「心神喪失、心神耗弱」を主張して減刑を狙う戦略を立てます。


そして

国民は、

「また、心神喪失、心神耗弱かよ!」とゲンナリする。


下手したら、

犯罪犯しても無罪、不起訴にすらなる。


誰もが、

その犯罪の被害者になることを恐れ、

犯罪の被害者家族になることを恐れる。



現代の我々は、

簡単に口先では

「優生思想は良くない。かつての歴史は負の歴史。

今後はそんなこと起こり得ない」

と言い信じてる。


でも、

人間の本質なんてそう簡単に変わるものなのでしょうか?


第二次世界大戦後も、

ルワンダ大虐殺など地球上では悲惨なことが起きている。

今も地球上では人間同士が殺戮しあっている。



流石に、

現代の日本において、

精神障害者や障害者をT4作戦のように虐殺するようなことは起こり得ない。


しかし


姿形を変え、

違う意味で違う形で抹殺してるのではないか?!


とすら私は思うことがあります。

(あくまで、私が思うところでございます)


命が奪われる抹殺でなくとも、

社会的抹殺だったり脳の抹殺だったり。

脳の健常さを奪われる抹殺。



なーんてこと言ったら、暗殺されちゃうかしら?!




向精神薬をてんこ盛りされて、

目も虚で口から涎を垂らしてボーっとして、

ろくに脳が働かない状態のような人々は

精神科の入院病棟では普通に見かけます。


私も閉鎖病棟に1ヶ月半入院歴がありますが、

そういう患者をみました。

もちろん全員ではありませんが。



あの人達、

私からしたら、

向精神薬で抹殺されてるに等しいと感じました。


なかにはそれこそ、

この本の冒頭のセリフのように


「閉じ込めておけ、永久に!」という状態です。





腐ったリンゴ😱



私もそうだったのかもしれない。


世間では上辺だけでは綺麗事が罷り通ってるけど、

現実はもちろんそんなわけない。


長期入院してた精神疾患患者を虐待していた

滝川病院事件。


医師達の会話が録音されてメディアに流れましたが、

「人間扱いしてない」としか思えない内容でした。


もちろん、

そんな精神科医ばかりではないのも当然です。


が、

心の底では、

それに近い想いを抱いてる人もいるのも確かだと思う。


そうじゃなければ、

向精神薬を多剤大量処方なんてできないはず。


廃人にすることがわかっているんですから。


おー、怖い。怖い。




「危険な人間」


て、

精神科医のことですよね?!




君子危うきに近寄らず