『赤線地帯』


昭和三十三年に施行された「売春防止法」施行前、それを生業とする者達の物語。


【溝口健二】監督最後の作品は、吉原の赤線地帯を描いた、、ある種「怪談」?


◇ 1956年作品
監督 : 溝口 健二
脚本 : 成沢 昌茂、芝木 好子(篇中一部分『洲崎の女』より) 
音楽 : 黛 敏郎
出演 : 若尾 文子、京 マチ子、木暮 実千代、三益 愛子、町田 博子、進藤 英太郎、沢村 貞子、浦部 粂子、菅原 健二


〈簡単なあらすじ〉

特殊飲食店ひしめく1955年頃の東京・吉原、
「夢の里」店主・田谷(進藤 英太郎)と女将(沢村 貞子)は、失職も免れない、国の政策法案である「売春防止法」に戦々恐々としている。


その風評被害に軒並み低迷する売上に嘆く店主だが、そこに働く娼婦・ゆめ子(三益 愛子)、より江(町田 博子)、ハナエ(木暮 実千代)、やすみ(若尾 文子)は、其々に家庭の問題を抱えながらも仕事に励んでいる。

そこに、女衒の栄公(菅原 健二)が、連れてきた米国兵のオンリーさんだったミッキー(京 マチ子)が加わり五人の娼婦を抱える事になった「夢の里」。

金貸しを副業とする銭ゲバのやすみの取り立てが厳しかったり、自由奔放なミッキーとベテランのより江が客の取り合いで騒動を起こすが、、

それでも、何故か助け合いの精神があり、仲間意識を持つ五人に待ち受ける未来とは?


………………………
(☆ネタバレします…m(._.)m)


五人の娼婦を中心に、
その取り巻きや家族、
特飲店(売春宿)を経営するもの、
そのお零れを頼りとする近隣の商店主、
店に通い詰め、散財するもの、
嵌まっていくもの、
各々が、繰り広げる群像劇。。

後ろ指をさされる様な仕事を生業としながらも、逞しく生きる女たちの其々の悲哀に満ちた物語。。



⬆ミッキー役の【京 マチ子】さん、
登場から、翔んでるアプレ娘(?)感が凄い👍
女将の品定め中に、チウインガム(笑)をクチャクチャしながら「八等身や!」と売り込むシーンは最高❗❗神戸のお嬢だが、不埒な父親に反抗してこの世界に、、、



⬆やすみ役の【若尾 文子】さん、
若さと色気で他を寄せ付けない堂々のNo.1!
だが…小菅に入獄した父の保釈金の為、働き始めたが、現実主義でやり手の守銭奴、、上客で貸し布団屋のニコニコ堂の主人を騙して夜逃げさせて、店の後釜に修まってしまう、、したたかな女。。コワイコワイ(-。-;)  



⬆ハナエ役の【木暮 実千代】さん、旦那は肺病病みの失業者、赤子を養う金にも苦慮するどん底の生活を強いられる通いの娼婦だが、見掛けに依らず反骨心が強い!メガネが妙に色っぽいが、所帯染みた振る舞いや歩き方・座り方等、所作を意識的に見せている所は見事です👍



⬆ゆめ子役の【三益 愛子】さん、夫に先立たれてしまい、一人息子の為に娼婦として働いて来たが、息子は、いかがわしい仕事をする母を責め、縁を切られてしまい、放心のまま気が触れてしまう。。悲し過ぎる結末……

⬆⬆より江役の【町田 博子】さん、この商売に限界を感じ、田舎に居る彼の元へ逃げるが、、女中並みに、いいように使われ傷心して、店に出戻る。。
(森三中の大島さんに見えてしまう…m(__)m)


⬆しづ子役の【川上 康子】さん、、怪我で仕事が出来なくなった父の替わりに九州から稼ぎに出された生娘…… 初めて呼び込みで手招く姿が可愛くも切なく感じる。。

どの女も一様に不幸を抱え、この商売に仕方なく従事していた。。。

世知辛い世の中は、今も昔も変わらない……

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同じ赤線地帯を描いた作品、
【川島雄三】監督の『洲崎パラダイス赤信号』は、娼婦を堕落の象徴の様に捉えているだけで主役の蔦枝(新珠 三千代さん)も元娼婦だったが、結局返り咲く事はなかった、、
対して、本作の方は、ストレートに娼婦の生活にスポットをあて、この娼婦達の人生の機微をドキュメントの様に傍観している。
全く違うアプローチなので、見比べて観るのも面白い。

また、
客引きの光景など、、観る人に依っては嫌悪感を覚えるシーンに、ある意味、風情を感じてしまうのは、、私自身が、この世界を肯定して観ているからだろうか…?

「自分のモノを自分で売るのがどうしていけないんだろう?」と嘯く女。

この台詞に、吉原で働かなくてはならなかった、娼婦達の切なさを痛感する。

店に通い詰める男達、家族を支えられない男達
、、情けなくどうにも自堕落で、、

男としても、
身に詰まされる作品でした、、★★★

………………………

音楽監督の【黛 敏郎】氏は、このアバンギャルドで一種異様なおどろおどろしい音楽に対し、ことごとく批判を受けたが、後日談で、溝口監督からの指定であったと仰っていたとの事。

ですよね……☝

もしかしたら、憎悪うごめく吉原に取り憑かれた人間達の物語を、溝口監督は、まさしく怪談であると解釈して作られたのではないかと深読みしてしまった。。m(__)m

音楽が、不穏な空気を増長していて、身震いする。。

最後に、
印象に残るシーン☝
ゆめ子が、子供に会いに実家へ帰郷するシーン、、帰る途中に寄ったうどん屋で、、体裁を考え、化粧を落とし地味な着物に着替えるが、、店の女主人から、「紅やおしろい落としたからって、玄人衆はよぉ、やっぱり何処か粋だよ」……と皮肉を言われてしまう。。

ゆめ子の結末を暗示した伏線となる台詞や細かい演出は見事でした!