『人類の移動誌』 | Wind Walker

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ネイティブアメリカンフルート奏者、Mark Akixaの日常と非日常

『人類の移動誌』 印東道子編 2013年

 

 

以前から一つ疑問があったのです。

 

アメリカ先住民のルーツはベーリング海峡を渡ったアジアの人たちだという話を人前でしたりもしているのですが、自分で話をしながら「なんで人類って世界の隅々まで移動し続けたのだろうか?」という疑問を常に頭のどこかで感じていました。

 

住み慣れた土地を離れて移動する理由としてパッと思いつくのは「気候の変動」やそれに伴う「食糧不足」ですが、それだけではわざわざシベリアのような寒冷地に移住したり、充分な陸地があるかもわからないのに海を越えたりする理由としてはちょっと説明がつかないような気がしていたのです。

 

 

本作は25人の研究者がそれぞれの研究分野の視点から、アフリカを脱した人類がなぜ、どのように移動をしたのかに関する短い論文がずらっと並びます。

 

これを読んでいると、「なぜ」の理由はかなり複合的で、「それはこうだから。」と一言で納得のいく説明ができる類の問題ではないことがわかりました。

 

かえって今の人類が「移動することをやめた状態」にあるに過ぎないようにも感じ、紛争などで難民が国境を越えて大移動するのは人類の自然な営みであるようにも思えてきます。

 

 

最初のアメリカ人の移動ルートを探る第4章も興味深かったですが、なにより面白いのは最終章に載っていた、本作を執筆したメンバーによる座談会。

 

そもそもアフリカで人類だけが森から草原へ移動できたのは、実は積極的な意思による移動ではなくゴリラやチンパンジーの祖先に追い出されたからという「負け犬説」や、多くの学者さんが「好奇心」が人類の移動を促した大きなファクターの一つと捉えていることが面白かったです。

 

わずか23ページですが、ここだけでも読む価値があると思いました。

 

 

 

 

 

最後に載っている編者による後書きに「本書に先立ち、より一般の書籍として『人類大移動ーアフリカからイースター島へ』も出版した」とあり、「そういうことは先に言わんかい」と思いつつ、次にその本も読んでみました。

 

 

 

 

確かに本作と比べると随分わかりやすかったので『移動誌』が難しく感じられた方はこちらのほうがおすすめですが、でも個人的に一番わかりやすくて面白かったのはやっぱり『移動誌』の最後の座談会なのですよ。