白天花




とんでもない
俺は心の中で呟いた

「とんでもない」

だが、声は意図せず漏れ出てしまった

「強かったですか」

トクマンは慌てた様子で俺の顔を覗きこむが
その心中など俺の絶望感と比べれば一つも慌てる事ではない

「いや、もう解け」
「はい。隊長・・・昼間の結び方にご不満があったのですか」
「うるさい、早く解け」

両手を寝台に縛りつけられた状態のまま、俺は上半身だけ浮き上がらせた
もう少し力を入れればこの程度の寝台なら壊れてしまうだろう

「医仙の結び方は、緩すぎました」
「黙って、解いていればいい」

右手首を縛めていた腰紐をトクマンが解ききったのを見張らい
俺はその手でトクマンの頭を軽く払った
縛られたままの左手首は、自ら揺すぶり緩ませ輪を広げて抜きだす

「あ・・・隊長、跡がつきます」
「お前がもたもたしているからだ」

いや違う、違う
俺は、確認したかった
あの時に感じたあの感覚が、一体何であったのか

「縛らねば治療が出来ぬ患者など、医仙さまに診て頂かなくても」
「あの分からず屋、王様を診るのも民を診るのも・・・まして罪人を診るのも医員の役目とか言い出しやがって」
「隊長、どうしました。いつもの事ではないですか」
「もういい。部屋から出ていけ」
「・・・何ですか、寝ている私を起こして縛れと言ったのは隊長です」
「お前そのような口を俺に聞くのか」

苛立ち紛れに握りしめた右拳がワナワナと震え
トクマン目掛けて飛びだす寸前に

「もう縛ってくれ!などと言わないでください」

トクマンは小走りで扉に体当たりするように部屋から飛び出た
鼠のようなすばしっこさだ

「しかし」

俺は両手首を交互に両手でさすり、どうしたものかと
あれは昼間の事だ、俺と医仙は口争いをした
いつものこと、そういつもの事だった
しかし、俺は引くに引けなくなった





「では、俺が罪人だとします」
「あら、罪人だとします?私を攫ってきたんだから、ホンモノの罪人よ」
「なんだと」
「ちがうのかしら?」
「くっ・・・いいです。俺の両手を縛って治療をしてご覧なさい」
「拘束はね、意外に得意なのよ」

俺は診察台に大の字に寝転んだ
すかさずあの方が自らの腰紐を勢いよく解き俺の右手を掴んだ
女の薄い爪が俺の手首に食い込む

「じっとして」
「罪人はおとなしくなどしませんよ、イムジャ」
「うるさいわね、病人だからもう少し元気がないものよ」

あの方は不思議な締め方をし俺の右手首を診察台の脚に固定した
残った左手を自らの小脇に挟み

「トクマン、あなたの腰紐を貸してちょうだい」
「はっ、はい」
「見惚れてないで、手伝って・・・この人の体を押さえていてよ」
「わっ私がですか」
「そうよ、こんな時はあなたか、トルベが必ず私の傍にいるはずよね」
「そうですね、では隊長ご覚悟を」

俺の腕が折れるんじゃないかと思う力で締め上げた
一体何の罰だ

「どう?隊長。私でも出来るでしょ・・・」

満足そうな顔をし医仙は見下ろしている
鼻が上を向いちまっていた

「あ・・・ちょうどいいわ。健康診断をするわ」
「なに!(貴女は何を言い出すんだ)」
「悪いわね。トクマン典医寺から出て」
「わかりました。隊長の体面もあります」
「良い部下を持ったわね、チェ・ヨン近衛隊長」

トクマンは、寝台に縛られたままの俺を残し典医寺から出て行ってしまった

「医仙、この間の・・・」

侍医が反対側の扉から顔を半分ほど出し覗きこんだが、動きが止まった

「先生、罪人を診察するシュミレーションをしているの」
「罪人を・・・何をするですか」
「だからシュミレーションって、そうよ、模擬体験、模擬体験よ」
「は、で・・・隊長は何ですか」
「罪人、罪人の役。ほら見て悪い顔をしているでしょ?」

医仙は人差し指で俺の顎を持ち上げ、不敵に笑った
なんて女だ
貴女の方が、罪人ではないのか

「分かりました。邪魔はしません。ですが」
「なに?」
「お手柔らかに・・・優しく診察をしてあげてください」
「もちろんよ。やさしく診てあげるわ」

俺の肩のあたりが粟立った