ー蝦根ー






俺の事を下心のある男として見てくれ
テーブルの上にお酒を置くなりあの人は言った
下心って何?
「別に優しくもないけど」
白い酒瓶の細い首に私は手を伸ばした
お酒が飲みたいと言えば、皆んな変な顔をする
こんな所に連れて来られて、飲まなきゃやってられないでしょ

「ですから、そのような目で見てくれと申しておるのです」

何かと言えば「・・・申しておるのです」を連呼するのね
そのような格好をしてはなりませんと申しておるのです
貴女の望みをお聞きしたいと思いますが、今は出来ぬと申しておるのです
はい、はい。わかりましたよって言えばいいんでしょう
「わかりました」
まず、お酒よ
飲んでから考えればいい

「医仙、そのような目で見て頂けるのですね」

今日の目と明日の目になんの変わりがございましょうか、隊長殿?
酒瓶の首を掴んで茶杯に注ぐ
ちょっと小さいけど、まぁいいか
「了解、見る見る」
なみなみと茶杯に注いだお酒に口を付けようと顔を近づけて唇の先が触れた

「では、俺が一番手と言うことです」
「はぁ?一番手って何」
「ですから、貴女に懸想をする者の一番手です」

唇を尖らせたままで私の体が止まった
その「ケソウ」とは、なによ
もしかして、怪訝に思う一番手と言うこと?
「そっ、そんなの最初から分かっているわよ、チェさん」
そうよ、私の事を快く思ってないなんて

「本当ですか」

なにを驚いた顔をしているの?
誰が見たってそうでしょう
あの人はホッとした顔をして、私の飲みかけていたお酒の入った茶杯を奪い取った

「喉が渇きひりひりしておりました」
「あ・・・私のお酒。ちょっと」
「お待ちください」

一気にお酒飲み干して、あの人は酒瓶を掴みもう一度お酒を注ぎなおした
今度は八分目ぐらいしか入ってない
「どうぞ、イムジャ」
「ありがとう・・・え」
「どうしました」
「あの今なんて言ったの?」
私の耳がおかしくなったんじゃないかしら

「何かおかしい事を俺は申しましたか?イムジャ」

イムジャって、イムジャって、なに?
私の頭の中であの人が言った「イムジャ」がぐるぐると回っていた
「イムジャ、もう一杯如何ですか」
飲めば飲むほどご機嫌なチェさんは、最後には私の肩に手を回して
「勇気を出し切りました」
そう言いながら私の首に顔を埋めてきた
チェさんの唇が首に触れた

「これって、告白されて了承したって事になるの」

急に動悸が止まらなくなった
首に唇が触れたせいじゃないわ
現実を受け止めたせいよ

「イムジャ、どうか俺以外の男を寄せ付けないでください」

そんな恋に魘されるような目で私を見ないで
ちがう、勘違いしないでウンス
チェさんは酒に酔って目が充血しているだけよ

「抱きしめて良いですか」

アイゴ・・・拒めない
私は人形のように頭を左右に振ってみたけれど
あの人は「照れてますね」全く勘違いをして抱きしめてきた
夢なら早く覚めてちょうだい
眠れる森の美女は、寝ている間にこんな夢を見なかったのかしら
現代に戻れるなら、今すぐ天の使者を遣してちょうだい
しまった・・・私はかぐや姫でもなんでもないわ

「ただの医者、ユ・ウンスなのよ」

戸惑っている間に体がふわりと軽くなった
なに?なにが起こったの
「イムジャ、寝ましょう・・・俺はもう酔いました」
ちょ、展開が早くない?
早すぎない、チェさんったら

「致しません、触れるだけです」

なにソレ・・・触れるって
寝台に下ろされて身動きができないくらいにホールドされた
大きな掌が私の左胸の横を撫でおろし、腰で止まる
「ちょっと、隊長」
トロンと溶けそうな目で私を見つめ唇が近づいてくる
アイゴ・・・くる、くるわ

「貴女のことを・・・」

・・・される
あの人の顔が急に逸れて、そのまま私の耳の横にあの人の頬が触れた
小さな寝息が聞こえてきたわ
「寝たのね・・・チェさん・・・寝たんだわ」
私の右胸をあの人は掌で掴んだまま

「やられる前に、窒息するわ。隊長起きて・・・起きてよ」

恋は童話のように優しくない
この人も童話に出てくる王子様のように雲を食べているような人じゃない
そんな目で見てくれと言ったのよね

「仕方がないわね」

内腿に触れていた何かが急に堅くなってきた
「やっぱり無し、無しよ」
やられる前に帰るわ