第211話 猶予 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第211話 猶予

タクシーに乗りこみ

行き先を告げ目を閉じる。


すごく疲れているけれど

神経が妙に高ぶっていて全く眠気は感じない。


今しがたの蘭華姐さんの話を消化しきれずに

切なさ、憤り、もの哀しさ、不安といった漠然とした感情が

息苦しい程に私の胸を圧迫している。


ストリップだけではなく

水商売や風俗産業で働く女達にとって

その引き際は非常にシビアな問題なのだ。


年老いてから

「おまえはもうお払い箱だ」という残酷な宣告を受けることは

女にとっては何よりも耐え難いことだろう。


そんな不条理に抵抗するかのように

蘭華姐さんは血の滲むような努力と執念で

今の地位まで登りつめたのかもしれない。


自分の幸せさえも犠牲にして。


蘭華姐さんはストリップの世界では

正真正銘のプロフェッショナルだ。


踊り子だけではなく

ストリップ小屋のオーナーや

劇場で働く従業員達からも一目おかれる存在である。


『年を取っても必要とされる踊り子の女王』


そのような自分の存在価値とプライドを保つために

今までに一体どれだけのものを諦めてきたのだろうか。


蘭華姐さんは立派で尊敬に値する人物だと心から思う。


しかし私は

蘭華姐さんのようには絶対になれないだろうし

元よりそんな覚悟はさらさらないのである。


私は何をするにも中途半端で

若い以外には何の取り柄もないくせに

どうしようもない程に貪欲な人間だ。


絶え間ない努力や

こつこつ積み上げていくといった面倒なプロセスを全て省いて

楽して大金をせしめたいといつでも画策してきた。


だからこそ私は

女という性と若さだけを利用して生きていけるこの世界に身を置いているのだろう。


私の価値は

そこそこの容姿と若い肉体

それを最大限に誇示する才能

それだけである。


そんなものを認めてくれるのは当然男だけで

その証拠に私には女友達が一人もいない。


それがどういうことなのか

少なからず自覚しているつもりだ。


そして

若さや美貌が何よりも儚く危ういもので

あっという間に損なわれ失われていくことは

自明の理なのである。



私の中で音がする。


カチコチカチコチと音がする。


猶予はあとどれくらい?


早くしないと!


どうにかしないと!



いつも何かに追い立てられるているように感じる強迫観念は

女という性に生まれついた不自由さからきているのだろうか。



そうやって考えれば考えるほど

ユウがどれだけ大切な存在なのかを意識せずにはいられない。


結局のところ

私のように何の取り柄もない女は

結婚という形式の永久就職をするしかないのだ。


そして私は

水商売の男が好きで好きでたまらないくせに

そういう男との結婚は最初から望んでいない。


それは

私の持つ幸せのイメージが

『誰もがうらやむような家庭』という幻想であるからに違いない。


だから私はヒカルよりもユウを選んだのではないか。


ヒカルのように

刺激的で、何かにつけ楽しませててくれ

話題も豊富で退屈しない男はたしかに魅力的だけれど

そういう男とどれだけ付き合っても

私の思い描く幸せのイメージには到達しないのだ。


私がユウを必要としている理由は

恐ろしくエゴイスティックなことであるように思えてくる。


そもそも

ユウを理想の男に育てようという私の計画自体が

すでに傲慢で身勝手な欲望に他ならないのだ。


ユウの人生はユウのものであるべきなのに

私はどこかでそれを許してない。


結局のところ

ユウは私の幸せを補完させるための重要な部品に過ぎないのではないだろうか。


そんな考えに行き着いた私は

自分のことが嫌で嫌でたまらなくなる。


しかし
嫌でたまらない自分から今は目を背けるしかない。


ユウを失ってしまえば

生牡蠣みたいな目をして楽屋で立てひざをついているのは

未来の私の姿かもしれないのだから。






どこまでも自分のことしか考えてない女だよね・・・。 女友達いなくてこりゃ当然だよな。

愛ってもんを全くわかってなかったなぁ・・・。 エゴの塊で自分の手にも余るかんじだったわ。

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