第200話 楽屋
緊張でほとんど眠れないまま
私のストリップデビューの日はやってきた。
「うわーーーーん! どうしよう! 超てんぱるー!」
私はユウに泣きつく。
「学校終わったら、すぐに駆けつけるから! 頑張って!」
ユウに励まされ
私はジイヤの迎えの車に乗り込んだ。
開演時間は昼の12時、
私の出番は2時過ぎからだった。
8人の踊り子さんプラス私という香盤で
最初からトリの私まで一巡するには2時間半かかる。
それを日に4回。
一日の最終ステージが終わるのは
夜の11時をまわった頃だ。
ジイヤが
大きなプラスチックの衣装ケースを
重そうに抱えながら運んでくれる。
「やっと来たな! 緊張しとるか?」
派手な長袖のアロハシャツを来たアリちゃんが
ヘラヘラしながら出迎えてくれた。
楽屋に入る前に
アリちゃんから簡単な説明を受ける。
「踊り子のことは~姐さんって呼ぶんやで。」
「極道の世界みたぃっすね!」
私は軽くふざける。
「楽屋にシャワー室がついとるから
出番前には必ず洗浄するんやで。」
「洗浄? あそこを?」
「まあそういうことや。」
「へぇ~・・・了解っす。」
「楽屋は地下やから携帯は入らんけど
公衆電話があるから、それを使い。
客には番号は教えたらあかんよ。」
「はーい。」
「自分の出番の前の姐さんが脱いだ衣装は
舞台袖にハンガーがあるからかけておくんやで。」
「ふむふむ。」
「化粧はうんと濃くせんとあかんよ。
今みたいに白っぽいピンクの口紅なんてつけとると
ライトで飛んでしまうからな。
舞台メイクってのがあるんや。
周りの踊り子をよく見て覚えるんやで。」
「ほぉほぉ・・・。」
「まあすぐ慣れるから、あんまり緊張せんと
なんかあったらワシに相談すればいい。」
「頼りにしてますよ。 本当に。」
「ほな、頑張り!」
アリちゃんに見送られて
私とジイヤは楽屋へ続く階段を下りていく。
「おはよーございます。」
私の元気な声が
楽屋に空しく反響する。
すでに各自の準備に追われている姐さん達は
チラリと私のことを横目で見ると
「おはよーございます。」
と興味なさそうな挨拶をして
すぐに自分の作業に戻ってしまう。
楽屋は
壁にはめ込まれた鏡が8枚あり
その前の半畳程が
それぞれのスペースになっている。
座布団にはシミがたくさんついていたので
持参のバスタオルを巻いて座る。
一番目の出番の姐さんは
すでに化粧も終わり
衣装に着替えているところだ。
クリーム色のベニヤ板で作られた化粧前に
私は化粧品や綿棒などを並べていく。
誰一人として話している人はおらず
楽屋はシンと静まり返っている。
緊張気味の私は
居心地が悪くてたまらなくなる。
閉鎖的で圧迫感のある楽屋は
想像していたものとは全く違っていた。
女が9人もいるのに
誰もおしゃべりしていないなんて
気味が悪い、と私は思う。
ギルガメの楽屋とは大違いだった。
テレビ局の楽屋に
AV女優が何人か集まると
それはそれは賑やかである。
下品なシモネタを連発しあって
ギャハハと笑いあう。
自分こそが抜き出たいという
バチバチ感こそあれ
それはある意味とても単純な欲求で
「私が一番可愛い!」
と思いあっている者同士が張り合うというのは
女にとっては楽しい刺激なのだと思う。
それはある種の緊張感を生み出し
楽屋内にはピリッとした空気が流れるのだ。
ストリップの楽屋は
それとは正反対の雰囲気に感じられた。
口紅を紅筆で何度も重ね塗りしている
隣の姐さんを盗み見ると
生牡蠣のようによどんだ目をしている。
全身から滲み出る諦観のようなものを感じて
私はジイヤにだけ聞こえる声で言った。
「なんか・・・息がつまりそ・・・。」
ジイヤは苦笑いをして
小さく頷いた。
本当独特の雰囲気なんですよねー!
あの雰囲気に一番近いのはマジで刑務所なんじゃないかな? と思うw
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