第124話 最後の夜
「直樹、明日ね~、おばーちゃんが実家に泊まりに来るんだって。
だから私も実家に泊まってこようと思って。」
「そうか。 俺も結婚前におばーちゃんに挨拶しておくかな。
仕事終わったらそっちに行こうか?」
「ううん、明日はいいよ。またの機会でさ
私も実家に帰るのは久しぶりだし
家族水入らずでいろいろ話たい事もあるんだ。」
「そう? わかった、じゃ俺はそのまま自分の家に帰るわ。」
「うんうん、そうしてね。」
明日は初めてのAV撮影の日だ。
さすがにAVに出た後に
直樹の顔を見るのはきついと思い
私はまた嘘を重ねた。
いつもどおり
ソファーに並んで座り
直樹の肩に自分の頭を置いて
上の空でテレビを見ている。
直樹は背が高いから
チビの私が少し首を傾げると
ちょうどそこには直樹の肩があり
そこはとても心地よい私だけの場所だった。
こうやっていられるのは
一体あとどれくらいだろう・・・。
ふとそんな風に思って
むしょうにさみしくなる。
「直樹、お願いがあるの。 今日さ、うちに泊まってよ!」
「んー? 週末まで我慢しろよ。 約束はちゃんと守らないとな。」
「うん・・・ でもね、今日はなんか一人になりたくないんだよ・・・。」
「なんで? なんかあったの? まさかマリッジブルーとか?」
「ううん、違うよぉ~。 そうじゃないんだけど・・・
ねぇ、いいでしょう?!
今日だけ我侭聞いてよ! 一生のお願いだからさ!」
私が『一生のお願い』をつかう時は
そのお願いを聞いてくれるまで食い下がる事を直樹はよく知っている。
「困ったやつだなぁ・・・。 今日だけだよ? じゃ、おふくろに電話かけちゃうな。」
「うん! 良かった・・・。ありがとぉ、直樹。 大好き!」
それから私達は
ベットに入り
私は何度も何度も直樹の事を求めた。
「まりも、今日はどうしたの?」
「うん? だって平日に直樹がうちに泊まってくれるなんてうれしぃんだもん。
ずっとくっついていたいのよ~」
「そっか。 でも俺・・・眠い・・・はははは」
「あは、 寝ていいよ。 ねね、今日は朝まで腕枕してて。」
「いいけど、どうした? 本当になんかあったんじゃないの?」
「別に何もないよ! ただ甘えたいだけだってば。」
直樹が寝息をたてはじめても
今日ばかりは私の心が平穏になる事はなかった。
結局私は朝まで一睡も出来ずに
直樹の朝食を作り始めた。
直樹と結婚したら
こうやって毎日朝ごはんを作るんだろうな。
そう思いながら
ベーコンを焼いて
フライパンに卵を落とす。
直樹がとても眠そうに
寝ぼけながら朝食を食べているのを
切なく眺める。
私は何も喉を通りそうにないから
牛乳をたっぷりいれたコーヒーだけを飲んでいた。
直樹を会社に送り出す時
「行かないで!!」
と、心の中で何度も叫んだけれど
その叫びが私の口から出る事はなく
笑顔で見送った。
それからしばらくして
ジイヤが家まで迎えに来たので
私はAVの撮影現場に向かった。
私は一体どうしたかったんだろう?デタラメな自分に嫌気がさす・・・
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