第065話 フラッシュバック
夕飯を食べ終え
自分の部屋に戻って
これからの事を考え始める。
家族はみんな優しくて
たしかに感動的な再会だったけれど
私の心は満たされてはいなかった。
家族の前では明るく振舞ったものの
一人になると心の空洞が広がっていく。
とりあえず優弥に電話をして
今日の事を話さないと。
もう店には出勤しているはずだ。
電話はリビングに一つだけしかない。
昔はリビングと2階に切り替え式の電話があったが
中学の時に男の先輩と二階で話していたら
お父さんが電話線を引きちぎってしまった。
それ以来
家の電話はリビングに一つだけとなった。
お母さんはいつでも私の電話に
聞き耳をたてている。
聞かれない様に
どれだけ小声で話しても
お母さんは絶対に聞き逃さない。
お母さんは電話での会話について
私を怒ったり責めたりするから
「盗み聞きしてんじゃねーよ!」
と親子喧嘩がはじまる事が
何度もあった。
家で電話するのは無理だな。
と諦めて
公衆電話に電話をかけに行く事にした。
「ちょっと電話かけてくるね。」
お母さんに一声かけると
「ここでかければいいでしょう。」
とお母さんは訝しげな表情を浮かべた。
「うーん…。公衆電話でかけてくるよ。」
「親に聞かれたらいけない様な話なの?」
「うーん…。別に…。」
「だったらここでかけなさい!」
いつもこうだ。
お母さんは親の権限を笠にきて
私を思い通りにしようとする。
私はお母さんの言葉を無視して
近くのスーパーの公衆電話に向った。
優弥の声が早く聞きたい。
コール音を聞きながら待ちきれない想いだ。
『優弥早く電話に出て!』
私は優弥に
今日一日の出来事を報告した。
「まじで?大変だったね…。
それじゃ、しばらくは家でゆっくりしてなよ。」
優しい優弥の声を聞いて私の心は充足していく。
「嫌だよ、優弥に逢いたいよ。」
「でも久しぶりに家族のとこ帰ったんだろ?」
「…やっぱり今からそっち行くよ!」
「うーん。いいけど、大丈夫なの?」
「うん。どうにかする。」
「無理するなよ?」
「どうしても優弥に逢いたいもん。」
「いつでも会えるだろ?」
「今日逢いたいんだからしょうがないじゃん!」
「でもさ・・・。」
「嫌なの?優弥は私に逢いたくないの?!」
「・・・わかったよ。じゃ待ってるから。」
「うん。」
「気をつけてくるんだよ?」
「うん。」
電話を切ると
私の気持ちは一直線に優弥へと向った。
何が不安なのかはわからないけれど
胸が締め付けられるような不安で
いてもたってもいられない。
一日でもディスコに行かないと
せっかく手に入れた私の居場所が
なくなってしまうかもしれない!
と脅迫的な焦りも感じる。
いつも通りのメイクアップをして
ボディコンに着替え
ココシャネルの香水を振りかける。
階段を下りていくと
出かける気配を察したのか
すでにお父さんとお母さんが待ち構えていた。
「どこに行くの?!」
と高圧的に嫌な空気を流すお母さんと
「なんなんだ!?その格好は!」
としかめ面をするお父さんに
行く手を阻まれる。
うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。
頼むから私の邪魔をしないで!!
「ちょっと遊びに行ってくるから。」
「どこに行くの?」
「渋谷だよ。」
「渋谷のどこに行くの?」
「友達のとこ。」
「どういう友達なの?」
「別に、普通の友達だよ!」
「なんていう子なの?」
「・・・美咲って女の子だよ。」
男の名前を言えば
面倒くさい事になると思い
美咲の名を使う。
この質問攻め。
子供の事を
全て把握してなきゃ気がすまないのか!
とイライラする。
「うざいなぁ・・・。」
完全に昔の感情がフラッシュバックしてしまい
私は切れる寸前だ。
強行突破をしようとした私に
「こっちに来なさい!」
とお父さんが私の腕をつかみ
部屋に押し込もうとする。
「痛い!やめてよ!!」
大きな声を出して抵抗したけれど
お父さんの力にはかなわない。
さっきまでの
優しくて和やかな家族の時間は
なんてあっという間だったんだろう・・・。
また始まるのか・・・。
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