はじまりは 着付けが気持ちいい!?という発言から
『気持ちいい。エステを受けているみたい』
はじまりは2014年。
研修中に 見本として着付けを見せていたときに言われたひとことからすべてが始まりました。
そのときの発言主の投稿より。
それまで『着付け』と『気持ちいい』が結びついたことがなかったのと
気持ちよくなるように着せようといったことを思って着せているわけではないので
意外すぎる発言にただただびっくりしていました。
名前をつけておこう 「無重力着付け」の誕生
そこから講座に来てくれた生徒さんにお願いをして 着付けをさせてもらい感想を集めていきました。
おおむね好評で みなさん口をそろえて『軽い!』と言う。
うーん、どうやら 当時の教室でお伝えしていた着付けと自分がやっている着付けは少し違うみたい。
だとしたら
名前をつけていたほうが区別がついてわかりやすいかも となりまして
(このときなぜこういう行動に出たのかは今となっては謎すぎます…)
生徒さんたちの意見を参考に出てきた候補は
真空着付け
なんか苦しそう(笑)ちょっと生鮮食品の雰囲気もあるし・・・
結局、最初から心の奥にずーっと浮かんでた無重力着付け と名付けることに決定。
このネーミング のちに ものすごく褒められることになります。
2016年に商標を申請し2017年に登録完了しました。
ただきれいに着られるだけでいいのかと悩む日々
最初に 気持ちいい と言われたとき 正直これに再現性を持たせることは難しいだろうと思っていました。
そもそも気持ちよくなってほしいと思って着付けしてなかったし(笑)
講座にしようなんて思ってもみなかったし深堀りして検証することもありませんでした。
2016年ごろに 無重力着付けやりたい というリクエストをいただき、「着物を軽くする着付け」ならできるなと思い
(いや それも変なのは今ならわかります 笑)人に着せる講座のみ数回開催しました。
その当時はまだまだ 「無重力着付け =軽い」という認識だったんですよね。
2017.6.2日のfacebook投稿より
ある日ふっと 紐を一本も使わなくても着せられるんじゃないかって思い立ってやってみたらできた!という動画。
なぜそんなことを思い立ったのか・・・というのは わかりません
ちょうどそのころから 着物をただ着られるようにすることをお伝えする というだけでいいのだろうか それがいったい何の役に立つのかと思い悩むように。
それまでだって 難しいとされていた着付けを どなたでもできるように手順を整理し
シンプルな手順なのにたくさんの人が悩んできたことが解決してしまうのが 目からウロコ と評判になり全国からたくさんの方が受けにきて
喜んでくださっていたことで十分役に立てていると思えていたんです。
だけど それだけじゃ 何かが足りない。
着物を着る順番をお伝えする というだけでは 足りない
なぜかはわからないけど これじゃないというのだけわかるというのはとてもつらい状態でした。
試行錯誤しても光が見えないので、今やっていることを全部やめてみよう
とすべての講座の募集を辞めるなどという 経営者としてあってはならない行動までとってしまいました。
家賃 お給料 どうするねん・・・という不安はありましたが
それ以上に 同じことを続けることのほうが無理。ええ アホですね(笑)
着付け教室じゃないのかも とまで思いつめましたが
お友達の占い師に相談したとき「ちいちゃん 無重力着付けってすごいよ がんばってみたら?」と言われ
うーーん でも着付けやで。今更着付けをやったところで何の役に立つのさー
と、若干やさぐれながらも 信頼できる人のアドバイスは受け入れる主義。
だけどいざ、がんばるといっても、無重力着付けでなにをやったらいいのかさっぱりわからず。
とりあえず100人着せてみようか
と思い立ち まずは無重力着付けが苦しくないのか 楽なのか いや ほんとうに気持ちいのかをたしかめてみることからはじめようと思い立ったのです。
ここから 着物に眠る驚くようなポテンシャルが次々と明らかになりその後の運命を大きく変えることになります。
気持ちいいどころじゃなかった
100人着せがスタートして 最初にいただいた感想にびっくりします。
2018.07.20
・エステみたい
・身体と脳のリラックス具合がマッサージの比じゃない
・ハグされているみたい
・着物って安心と自由をくれる衣服なんだと思った
・電車で立ってるのも運転もめちゃ楽
・ずれていた歯のかみ合わせがぴたっとあっていた
などなど。
想定の範囲をはるかに超えた感想と報告がどんどん届いてしまい 驚くやら ドン引きするやら(笑)
こんなの人に言ったって気持ち悪がられるに決まってる。
それと同時に わたしは着物への絶大な信頼感を持っているので そっちかー!と想定外のところからすごさを見せてくる着物に興奮し
これまでずっと埋められなかった「きれいな着付けの定義」の定義にある閃き
を得たのです。
着物には体を整える力が内包されるのかもという閃き
これまでの10年以上の着付け講師の仕事を通じてすでに
着付けで大切なことは 衣紋が抜けているとか おはしょりがまっすぐであるとか 衿が決まっているとか
そういう表面的な見た目だけのことではなく
着物の構造に従って布目を活かして その人の体の造りに合わせて着ていくことが大事なのであって
そうすればおのずと美しい着姿になるというところにはたどりついていました。
布×身体×場=きれいな着姿
かつての講師養成コースでも必ずお伝えする大事な基本で、目からウロコと言われたゆえんです。
ただ この公式にあてはめて考えると
いくら着物がパーフェクト(100点)だとしても体が整っていない(0点)と 100×0=0になる。
要するに 姿勢が悪いときれいな着姿にはならないことになる。
だからわたし自身 姿勢が悪いこともあって 姿勢づくりはずっと自分のなかの宿題として残っていたので
勉強したいという想いはずっとあったのですが
なんというか 着物をきれいに着るために 姿勢を整えるって もはや何屋さんかわからないので自粛しておりました(笑)
悩んでいるときに作ってもらった画像。それぞれの要素の相関関係が迷走しています
それが 着付け体験のみなさんの感想と これまでの考察を重ね合わせて
もしや!着物にはすでに体を整えるという要素が含まれているのかもしれない!
と思い至りました
(なんで思い至ったのかというツッコミは受け付けません (笑))
これはひさしぶりの
ウォーター体験でした。
さっそく 実験開始。
着物に身体をゆだねるための簡単な動きをしてもらったところ
2018.07.29
こんな変化がありました! 明らかにすらっとしました。
ビンゴ!
そのころは 無重力ストレッチ?そんな名前いやだーと言いながら みんなでその動きをしていました。
首元に注目 顔の位置に変化があります
反り腰が伸びたのと 首が前にでてたのがまっすぐに
同時に100人に着せてみようチャレンジも進行中だったため
着せながらなぜ整っていくのかを観察しながら少しずつ解明してきました。
すると もう 無重力ストレッチをしなくても 着せ終わるころには整うようになり
再現性も見えてきました。
肩の位置腰の位置両足の位置にねじれがあったのがまっすぐになっています
無重力着付けは着物のポンテンシャルを開く着付け
では 着物がすばらしいのに なぜ今誰も着物を着ないのでしょうか。
たまに着ても 窮屈、苦しい、崩れるといった とてもネガティブなイメージになってしまっているのは なぜなんでしょう。
それは 今のわたしたちが洋のライフスタイルにどっぷりつかっている中で
そのポテンシャルを開く着方を忘れてしまったから いや、もっと言うと ポテンシャルがあるという概念自体が消えてしまったから。
紐を一本も使わずに着せました。着物本来の着心地を味わっていただくのが目的です。
それは料理で考えたらわかりやすいかもしれません。
素材の味を引き出すのは料理の役目。
素材の持つ味わい、栄養素が活かされるのか損なわれるのかは料理で決まります。
そして日本には日本の料理の仕方があるように
日本の衣服の着かたというのがあるはずです。
生まれたときから洋服を着て生活している私たちは
洋服を着る、洋服を着ている上で行なう動作を
何千回、何万回と繰り返し、洋の身体の使い方 考え方をを自覚無くインストールしています。
知らない間に洋の動き方、洋の考え方がわたしたちの土台になってるんですね。
着物が苦しかったり着崩れたりするのは その動き、考え方で着付けをしている洋の着付けだからです。
無重力着付けは着物に残されたわずかなヒントを紐解いて、着物の持つポテンシャルを引き出す着方をすることで、その日本人本来の身体の使い方、考え方を取り戻すことができる いわば 和の着付けです。
重大な勘違い ~家の中でこそ着物
着物がいったい何の役にたつのか 私を悩ませ続けた問に 明るい光が見えてきたことは大きな前進です。
だけど、ちょっと意外な組み合わせすぎるのと
いままでやってきた 着付けという自分のジャンルの外すぎて
だれになにをどうやって提供したらいいのかがわからなくなりました。
一難去ってまた一難。
ヨガ教室みたいな雰囲気で 着付けをしにきてもらうのか?
施術のような感じで 着付けをしてあげるのか?
いやいや それこそ何屋やねーん。
ぐるぐる考えているうちに 着物に対する重大な勘違いに気が付きます。
それは 着物は外出着である という思い込み!
当時開催していた 着付け初級コースは 着物でお出かけができるようになる ということを想定したコースでしたし。
家に帰れば 着物を脱いで洋服に着替える と考えるのが当たり前。
家のなかで 着物を着る人は 『家の中でも着物』という認識。
でも 少し前まで 日本人は 365日ほぼ24時間着物を着ていたわけで
普段着もお出かけも寝間着も着物だったんですよね。
家に帰って洋服に着替えるなんていうことはなかったはず。
もし 着物が苦しくないだけではなく 気持ちよくて そして 身体が整うのだとしたら
これはもう
家でこそ着物をなのでは?
あぁ、なんで気づかなかったのか…10年以上この仕事やってる中でほんとうにショッキングな気づきでした。
2018.09.25 着物の神様を祭った神社があると教えてもらいました。知らなかったよ。
「暮らしきもの」波平さんライフスタイルの提案
家の中で着物を着るときは 長じゅばんを省いたらどうやろう
ってスタッフに相談したら
「いいと思いますけどせっかくの無重力着付けがイロモノ扱いされませんか?」
という心配からはじまった暮らしきもの。
そう、暮らしきものは わたしが勝手に考えたスタイルです(笑)
社会に生きているわたしたちは 自分の都合だけで服装を選ぶのは難しく、着たくても着る機会がない という方が多いです。
だったら
外では洋服 家では和服 にするのが暮らしきもの。
食の分野では、外食でイタリア、フレンチ、インド料理などさまざまな国の料理を食べることが多くても
家ではご飯を炊いてお味噌汁とお漬物が落ち着く
というのを
衣の分野でやってみるのです。
無重力着付けは 着たほうがラクで おまけにいろいろ整うのだからぴったりです。
そして 着付け講師的には なにより着付けを忘れないのがいい(笑)
気持ちいいから着る 楽しいから着る
2018年の11月に講座がスタートして以来 たくさんの方が無重力着付けで暮らしきものを実践してくれています。
家の中でも着物が楽しめるのがうれしい
毎日着てはないけど 着たくなるから自然と手が伸びます
これまでの着付けで困っていたポイントが解決できました
毎回 おはしょりがびしっと決まるので気持ちいいです
という ものから
肩こりが解消された
睡眠の質があがった
水泳で息切れがしなくなった
生理痛がなくなった
というような変わり種まで 驚くほど多種多様な感想をいただいています。
たまたま1年前の同じ日と同じコーデをしていた画像。無重力着付けを暮らしで実践して半年くらいでしょうか。
左がビフォー右がアフター。傾いていた身体の軸がまっすぐになっています。その結果なのか 週に一度は整体にいかないといけないほどつらかったのが いつの間にか行かなくなっていたそうです。
着付けからはじめる和の文化の継承
以前は 着物は滅びゆくもので、さみしいな という気持ちはもちろんあるけど それは仕方がないものだと思っていました。
日本人のほとんどが 着物に袖をとおしたこともないはずだから 文化としてはすでに滅んでいるようなものなのかもしれない。
着付けが難しいからとか 呉服の売り方が悪いとか いろいろと表面的な理由はあるかもしれませんが
この流れは日本人の総意だと思っていて どうやってもあらがえない無力感がありましたし
明確に残すべき理由も提示できませんでした。
だけど 無重力着付けを通じてわかってきたことは
着物には日本人が積み重ねてきた和の文化の智慧が圧縮された膨大なデータとして残されているということ。
そして 無重力着付けはそれを引き出すカギなんだということ。
和の文化の恩恵を受け取ることができるものなのです。
これは失ったらあかんやつやん・・・
じゃあいったい何ができるのか。
大きなことも小さなことからコツコツと。
ただ気持ちよく着ること。それだけ。
子供がいるいないにかかわらず 大人たちが着ること。
もちろん 和の着付けである無重力着付けで です。
2019.8.11 お母さんと一緒にわたしも練習する!と帯締めを上手に結ぶ女の子
2019.8.18お着物で寝たいんだけど ママも寝てるでしょ~!と男の子
大人が着ていたら 子供たちにとってはそれがあたりまえになります。
さあ 洋服を脱ごう
さて ものすごい長文を久しぶりに書きました。
お読みいただいた方はありがとうございます。
衣服を着るということの本質的な意味を考えたら
少し 洋服を着ている時間を割いて 和服を和の着方である無重力着付けで着るという時間をとって
日本人としてのポテンシャルを開いていきましょう。