『アルコブロイ』

 1567年から創業する南ドイツ、バイエルン地方屈指の伯爵階級醸造所。

 バイエルン産のモルト、ドイツ公認のホップはHallertau産(バイエルンにある世界最大級のホップ栽培場。世界のビールに使われる3分の1を占めるホップがハラータウで栽培されています)の最高級品、酵母。

 厳選された原料と醸造水は深さ96mからくみ上げられる地下水からアルコブロイのビールは生まれるそうだ。

「おい、オレの喉。このビールを飲むのかい飲まないのかい、どっちなんだい」
「飲ーむー」

 そういうわけで、新幹線に飛び乗りました。

 猛暑猛暑といっていたと思ったら、すっかり蝉の声は鈴虫の鳴き声に変わり、風は秋の気配を帯びてきました。

 九月の吉原ジャズ研。講義テーマは『秋の夜長のジャズピアノ』で開催したいと思います。


 過ごしやすくなった秋の夜を、美しく、麗しく、隠微なピアノの音色でお過ごしください。

講師(DJ):カルロス、ヨッチャン、チク
日時:2014年9月27日(土曜日)20:00~
場所:ライデン(RAIDEN)静岡県富士市吉原2-6-15
料金:ミュージックチャージやエントリーフィーはありません
オレは良質な音楽が大好きだ。いい音を聴くと、心が躍り、体が疼く。車椅子に乗っているから、せいぜいビートに合わせて体を揺らすくらいなのだが、まったくフラストレーションなど溜まらない。なぜなら、オレの視界で踊っている老若男女を見ているだけでも、十分すぎるほど嬉しい気持ちになるからだ。

 この夜も、決して例外ではなかった。

 まるでCDJという楽器を駆使して独創的な音楽を奏でているような菊地成孔のプレイに、フロアにいる誰もが度肝を抜かれ、それに呼応しようと血をたぎらせていた。

 オレの隣にいたボーダーのワンピースを着た女の子は、水田に引かれた水が、若々しい苗の間を流れゆくように、しなやかに体を揺らしながら、少しずつフロアーの中央に移っていった。

 また一方では、小さな身体をダイナミックに振り回して、情熱という言葉を動きに変えている女の子もいた。同じくらいの背丈の連れの女の子に時折凭れている姿が、とても愛らしかった。

 改正された風俗営業法の都合で、かつてのディスコやクラブでは考えられない時間にイベントはお開きとなったが、その不完全燃焼の思いは、夜の蝶たちとの会話で癒された。
「ずっと踊りっぱなしだったね」
「え、見てたの?」
 オレの唐突な問いかけに、ボーダーワンピースの女の子がはにかんだ。
「ああ、見ていたとも。むしろ、君の踊りに目を奪われるなというほうが難題だ」
「ほんとに、そんな風に思ってる?」
「もちろん」
「うれしい。ありがとう、話しかけてくれて」
 オレたちはそんな会話をした後、優しい握手をして別れた。

「竹本さん。遠いところ、来てくれてありがとう」
 その声に振り替えれば、そこにはDJの大塚広子がいた。
 フロアではピットインのスタッフが椅子や機材の片づけに奔走していた。菊地成孔はフロアの中央で知人たちと雑談に没頭していた。
「立ち話もなんだから、座りなよ」
 オレはフロアに残っていた椅子を示し、大塚広子をそこへ導いた。そして、思いがけず、そのシチュエーションがかつて見た艶やかな夢の再現であったことに狼狽えた。
「わたし、もっと頑張んなきゃって思うの」
「十分頑張ってるじゃないか。仙台や福岡をはじめ、日本全国からDJの仕事で引っ張りだこだと思っていたけど」
「それはとても恵まれていると思う。でも、自分がやりたいことはそうなのかと言われると、やっぱり心のどこかでノーっていうのよね」
 頬擦りしたり、頭を撫でたりすることはなかったが、大塚広子とそんな会話を持てたことがオレにとってはうれしいことだった。できることなら、ここの片づけを終えたら、彼女と新宿の街に繰り出して、猥雑な飲み屋でハイボールかなんかで改めて乾杯をしたいところだった。しかし、仮にも彼女はこのイベントのホステスである。そこはぐっとこらえて、オレは店を出た。

 意外にも店先まで見送ってくれたのはKEMONOのボーカル、青羊(あめと読む)ちゃんだった。ライブの歌声やMCと同じく、背伸びをせず、かといって大げさな謙遜も他人行儀な敬遠もない人当りに、オレはすんなり打ち解けることができた。彼女と話をしていて、この夏には、東北へ行ってみようと思った。会場に置かれていたチラシの中に寺山修司の演劇のものを見つけただけでなく、加えて青羊ちゃんが宮沢賢治の歌を歌ってくれたからだと思う。

 通りに出てみれば、どこからともなく新宿二丁目独特の喧騒が耳に届いた。駅のほうに戻って、始発までどこかのバーで一人飲んでもよかったが、オレの本能がそれを許さなかった。オレは足を(正しくは車輪を)二丁目の奥へと向けて、歩き出した。

 つづく・・・。