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前回のお話の続きです。

(↓)バックナンバーはこちら。

 

その①

その②

その③

 

 

警官の霊との出会ってから、2カ月ほどの間。

私は時折、彼の様子を伺っていました。

完全に悪霊化しかかっていた霊ですので、一筋縄では行かず、最初のうちは、

 

<どう?少しは反省した?>

≪…何だお前、偉そうに≫(←若干覇気が無い)

<まだそんな口を利くの。頭を冷やし足りないみたいね>

≪……(むっすり)≫

 

こんなやり取りが、幾度か続きました。

 

まぁ、あんまりチラチラ様子を伺ったら、彼の思考に水を差してしまうかもしれないな。

そう思った私は、彼の様子を伺うのを、一旦やめることにしました。

 

そこから、更に半年ほどの月日が経過した、とある日の真夜中。

 

「ぅう~……」

 

隣で眠っていた歩人が、唸り声を上げました。

その声音から、霊夢(心霊的存在の介入によって見せられる夢)を見ているのだという事が、はっきりわかります。

 

「歩人、大丈夫?」

「あ…はい」

「霊夢を見てたでしょ」

「そうですね…。起こしてくれてありがとうございます」

 

歩人はそう言って、再び眠りに落ちました。

霊視してみると、悪意的な女性の霊が、歩人にちょっかいをかけようと、傍に立っているのが解りました。

 

<歩人の安眠を妨害するのは、やめてくれるかしら?>

 

私の言葉に、しかし女性の霊は、身を引く様子はありません。

 

「(こんな時間に、大きな声でお経を唱える訳にも行かないし…どうしようかな)」

 

私は少し考えて、ふと警官の霊のことを思い出しました。

 

<──出ていらっしゃい>

 

私の呼び掛けに、警官の霊がどこからともなく現れます。

 

<反省したのね>

≪…はい。その節は、ご迷惑をお掛けしました。

これから、貴女の元で学ばせて頂きます。宜しくお願い致します≫

 

おやまぁ、謙虚な態度。

まだ彼の中には、迷いやわだかまりのようなものが残っているのが感じられますが、とりあえずは私の提案を受け入れる事にしたようです。

 

<では、あなたに眷属としての名前を授けましょう。

あなたは元々、とても強い信念を持つ人です。

そしてこれから、あなたは正しきを学び、貫くべき信念を築き上げていく。

そこから、〝信(シン)〟と名付けます>

≪はい≫

<では、信さん。初任務です。

あの霊が歩人に近付かないよう、警備してちょうだい>

≪承知しました≫

 

信さんが、警棒を持って女の霊の前に立ちはだかるのが、私の脳内スクリーンに視えました。

これで歩人が霊夢を見なければ、信さんのガードがきちんと働いている証拠です。

 

 

……次の日の朝。

 

「歩人、あれから霊夢はどうだった?」

 

起きてきた歩人に、私は尋ねました。

 

「そういえば、あれからは何も無くて、ぐっすり寝られました」

「そう!良かった。

警官の霊が、正式に眷属になってね。ガードしてもらったのよ」

「えええ!本当に眷属になったんだ…。

僕が最初に見た時は、あんなにヤバい雰囲気だったのに」

 

歩人は改めて、悪霊化しかかっていた信さんが、自分の呼び掛けに気付いて近付いて来た夢を思い出し、身震いしました。

 

「あの時は、本当に怖かったです。

僕は、霊に対して何もしてあげる事が出来ないのに、声なんて掛けるんじゃなかった!取り返しの付かない、とんでもない事をしてしまった!って。

まおさんはいつも、あんな世界を独りで視て、独りでリスクを背負って、独りで何とかしてるんだなって思うと…尊敬します。いつもありがとうございます」

「はっはっは、気分が良いぞ。もっと褒め称えたまえ!」

「…照れ隠しですね」

「うっさいな」

 

霊能者の視ている世界は、通常は他の人には見えません。

私と同じ景色を、一緒に視て共感したり、共有出来る人が居ない。それは結構寂しいですし、不安でもあります。

しかし歩人は、私が視ているものの全てが視える訳では無くとも、その一部を共有してくれたり、理解してくれる貴重な存在です。

歩人のお陰で、私は孤独にならずに済んでいるのだと思います。心強いなぁ。

 

<信さん、お疲れ様。よくやってくれたわね。

これからも宜しくね>

≪はい≫

 

私の言葉に、信さんは素直に頷きました。

霊の強さとは、イコールこころの強さとも言えます。

信さんの魂は、これから更に成長していく事でしょう。

 

 

どんなに清く正しく生きているつもりの人でも、何かの切っ掛けで道を踏み外す可能性は、あります。

「自分はいつも、正義を貫いている」…そう信じて疑わない人ほど、危ない。

信さんも生きていた時は、常に自分が正しい道を歩んでいるのだと思っていたのです。

自分とは違う方向を向いている人を、愚かで浅はかだと思っていたから。道を踏み外しているのは、実は自分の方だった…なんて、思いもよらず。

それに気付かぬまま、生を終え、そして死して尚も、知らず知らずのうちに地獄への道を歩いていた。

 

生きている人間も、亡くなった人間も等しく。例え魂が闇に堕ちかけたとしても、こころの軸を手離さなければ、人は正気に戻って来れるのです。

闇から這い上がるチャンスを、正気に戻って来れる切っ掛けを、逃さないようにしたいものですね。

その為にも、自分のこころや行いを客観的に顧みて、素直に反省出来るよう、日頃から練習することが重要なのだと思います。

 

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