お祓いの予約日まで、あと2ヶ月。

その間、霊的現象に何とか耐える為、父のつての霊能者さんにお会いしに行った時の事を、お話します。




その霊能者さんのお宅は、当時の私の家から、車で2時間ほどの場所にありました。

霊能者さんは女性の方で、飲食店を経営されていたので、お昼ご飯を注文して食べた後、霊視して頂く運びとなりました。


「(…この霊能者さんは、果たして本物なのだろうか?

この人の言う事は、何処まで信用できるんだろうか?)」


私の心の中は、正直警戒心でいっぱいでした。

高校生でも、世の中に霊感商法というものが蔓延しているという事ぐらいは知っていますし、今日初めて出会う、赤の他人が相手なのですから、警戒するのは当然です。

その警戒心を、出来る限り表に出さないようにと、振る舞いにはとても気を使いました。


「いつも、ここから霊が出てくる気がするんです…」


家相を見て下さるとの事だったので、母が持参した家の間取り図をテーブルに広げ、私は自分のベッドの横の壁(女の首と両手首が出ていた場所)を、指差しました。


この事を霊能者さんにお話するのは、とても勇気が要ったのを、今でも覚えています。

ここから出てくる霊に、散々苦しめられていたという事を、『気のせいじゃないの?』『そんな訳ないでしょう』と突っぱねられたら…と思うと、本当に話し辛かったのです。


「そりゃあ、そうでしょう。そこは鬼門ですもの」

「えっ、そうなんですか?」


霊能者さんの言葉に、私も母も驚きました。

『鬼門=霊の通り道』という知識くらいはありましたが、私たちはそれまで家相を気にした事は無かったので、家の何処が鬼門なのかは全く知らなかったのです。


「(昔からの言い伝えっていうのは、馬鹿に出来ないものなんだなぁ…)」


自分の感覚を否定されなかったという事と、鬼門と心霊現象の関連性に対する納得とで、私にはこの霊能者さんに対して、少しだけ信用する気持ちが生まれました。


「やはり、古戦場の傍のアパートの鬼門というのは、〝出やすい〟ですよ。

それにあなた方は、そうしたいわく付きの土地に、呼ばれてしまう性質を持っているのです」


それを聞いて、母は頷きました。

引越しが多かった我が家ですが、母は引っ越す先々で、様々な心霊現象に遭っているのです。


「お嬢さんのお部屋に居るのは…お母様のお祖母様の霊ですね」

「えっ?ばぁちゃんですか!?」


母は、素っ頓狂な声を上げました。


「ええ。成仏していないので、供養してあげて下さい」

「まさか、祖母の霊だったなんて…思いもよりませんでした。

解りました、供養します」


母のお祖母さん…つまり私の曾祖母の事は、私はあまりよく知りませんでしたが、大変な苦労人であったという事は、少し聞かされていました。


「(やっぱり苦労が多いと、成仏し辛いものなのかなぁ…?)」


私は内心、そう思いました。


「それにしても息子さんは、とても霊格が高いですね。

お坊さんになると良いですよ」


当時中学1年生だった私の弟を見て、霊能者さんは微笑みました。


「(弟は霊格が高いから、あんまり心霊現象に遭わないのかしら…?

逆に言えば、私の霊格が低いから、私ばかり心霊現象に遭うっていう事??)」


私は、漠然とした不安に襲われました。

母も時折、金縛りなどの心霊現象に遭っていましたが、その頻度は私の3分の1程度でした。

弟も父も、殆ど心霊現象には遭わず、心霊現象に酷く翻弄されていたのは、家族の中で実質私だけだったのです。


「あの…。私には、守護霊ってついているのでしょうか」


霊格が高くないのは仕方ないとして…せめて私を守ってくれている人が居たら、心の救いになるのだけれど。

私はそう思い、不安感を払拭したくて、聞いてみました。

すると、霊能者さんから出た言葉は……


「そんなもん、居ない!」


それは、まるで吐き棄てるような、攻撃的で強い口調でした。

私はあまりのショックに、暫し言葉を失いました。


「そう…ですか。一人も居ないんですか…?」

「ええ、一人も居ない!」


私は俯き、肩を落としました。


この時期の私は、心霊現象だけで無く、学校生活や私生活の中で、色々と辛い事がありました。


〝だけど、目には見えなくても、守護霊という存在が私に付いていてくれて、守ってくれているんだよね…?〟


私はそんな風に考えており、どこかそれを心の支えにしていました。

しかしこの瞬間、その支えは脆くも崩れ去ったのです…。


「あの…息子や、私や主人に、守護霊は…」

「あなた方には、ちゃーんと守護霊がついていますよ」


躊躇いがちに聞く母に、霊能者は優しく微笑んで言いました。


「(…ああ、私だけが守られていないのか。

きっと私が、心掛けの悪い、ろくでもない人間だからだろうなぁ…)」


私は暗澹たる気持ちで、その会話を聞いていました。

涙が出そうになるのを堪えるので、必死でした。


「今から、良い〝気〟を入れますので、順番に此方へどうぞ」


霊能者さんは、先ずは父を自分に背を向けて座らせ、背中をさすりました。


「はい、いいですよ。次はお母様、どうぞ」

「…ああ、暖かい…!」


霊能者さんに背中をさすられた母は、心底ありがたそうに呟きました。


「次、どうぞ」


弟も霊能者さんに背中をさすってもらい、最後に私の番です。

しかし、背中をさすられても、母の言っていた〝暖かい〟という感覚は解らず、通常の手の体温しか伝わってきません。


「(これは私が、霊格が低くて、守護霊も付いてくれないようなダメ人間だから、〝気〟の恩恵に与かれない…という事なのかしら??)」


私は背中をさすられながら、悲しい気持ちでいっぱいでした。


「──もっと素直になりなさい!!」


バシンッ!


「痛っ…」


私は、霊能者さんに突然怒鳴られ、背中を勢い良く叩かれました。


「(素直に?素直にって…どういう事?)」


何故怒鳴られたのか、何に関して素直じゃないと叱られているのか、全く解らない私は混乱しました。

混乱しながらも、私は霊能者さんの〝気〟の恩恵を受けようと、大人しく背中をさすられていましたが、結局最後まで、母の言った〝暖かい〟という感覚が解りませんでした。


「はい、いいですよ」

「ありがとうございました…」


守護霊など居ない、とキツく言われたのも、背中を叩かれて怒鳴られたのも、きっと霊能者さんの能力によって、自分の中のダメな部分・ろくでもない部分が、視えたからなのだろう。

私はそう思い、落ち込みながら帰り支度をしました。


「あの、霊査料は…」

「いえ、今日はいいですよ」


お代を支払おうとした父に、霊能者さんはそう言いました。

その口ぶりから、いつもは有料で心霊相談を受けているという事が伺えました。


「ありがとうございました」


私たちはお礼を言って、帰路につきました。

しかし私の心は、霊能者さんのもとを訪れる前よりも、ずっとずっと重くなっていました…。




今日は、ここまでです。

う~ん。当時の気持ちを思い返すと、未だに気分が滅入っちゃいます(^_^;)

暗いシーンになっていますが、勿論ハッピーエンドに終わるので、ご安心下さいね(^▽^;)










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