浅田真央選手の軌跡を描く朝日新聞デジタル「ラストダンス」ができるまで | 浅田真央さん&浅田舞さん 応援ブログ

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浅田真央選手の軌跡を描く朝日新聞デジタル「ラストダンス」ができるまで 新聞社にしかできないコンテンツ目指して
(ITmedia ニュース 2014年03月09日11時06分)

 「浅田真央 ラストダンス」。ソチ五輪・フィギュアスケート女子の試合終了から約24時間後の22日未明、「朝日新聞デジタル」に浅田真央選手の歩みと五輪での演技を紹介する特設ページがオープンした。デザイン性が高く、写真や音楽を用いた読み応えのある内容は、まだ昨夜の熱狂が残るファンのあいだですぐに話題になり、一気にSNSで拡散。ページビュー(PV)は3日間で100万を超え、Facebookのシェア数は7万以上、ツイート数は1万以上に上った。

 「新聞社にしかできないWebコンテンツを目指して」――制作を担当した同社デジタル編集部の古田大輔さん、白井政行さん、佐藤義晴さんに、込めた思いを聞いた。

●「浅田選手の“ラストダンス”を飾りましょう」

 「やっぱり浅田選手でやりましょう、“ラストダンス”を飾りましょう」――デジタル編集部の記者、入尾野篤彦さんから企画が持ち上がったのは昨年11月ごろ。ソチ五輪の結果をリアルタイムに入れ込み、ニュース性とデザイン性が両立した特集コンテンツ──というプランだ。通常、同様のコンテンツは数カ月~半年程度の時間をかけて制作されるケースが多いというが、ソチ五輪の熱気の渦中に公開することにこだわった。企画が立ち上がった時点で残りは3カ月。プロジェクトのとりまとめることとなった古田大輔さんとデジタル編集部にとっても大きな挑戦だった。

 思いを込めて制作するテーマとして、この五輪を“集大成”として掲げていた浅田真央選手の過去と現在を選んだのは自然な流れだった。ソチ五輪に至る彼女の姿、これまでのスケート人生を読み物でなぞり、ビジュアルで“ラストダンス”をあますことなく見せる。3部構成とタイトル「ラストダンス」はすぐに決まった。

 目指したのは、とにかくシンプルであること。技術的に高度なことを追求するのではなく、浅田選手を応援する多くの人が共有している物語と世界観を表現し、没入してもらいたかった。実際に制作を始めたのは1月末。公開まで約1カ月というスケジュールで完成させられたのは「ここまでデジタル編集部が重ねてきたノウハウ」と話す。

●「日本の新聞社ではやらないのか」と聞かれるが……

 視覚的なギミックを盛り込んだWeb特集の世界的なテンプレートとなっているのは、米New York Timesが2012年12月に公開した「Snow Fall」だ。同年5月にワシントン州で起こった雪崩事故に関して、ドキュメンタリー風の記事、数多くの写真や動画、地図やCGなどを駆使し、縦に長くスクロールするパララックスというスタイルで迫っているこの特集は公開直後から話題を呼び、昨年5月にはピューリッツァー賞を受賞した。この成功をきっかけに、世界各国のメディアで同様の試みが登場している。

 朝日新聞が「Snow Fall風」のWebコンテンツを初めて掲載したのは昨年5月、瀬戸内国際芸術祭の特集だった。技術的にチャレンジングな要素を入れながら約半年をかけて制作したという。その後もいくつかの事例で同様のページを作成し、制作ノウハウを貯めてきた。

 「海外の事例を引き合いに出し『日本の新聞社はやらないのか』と言われることも時たまあるが、日々積極的に取り組んでいる。とはいえ、まだまだ認知度が低いのも事実。国民の関心が高く、物語性も強いフィギュアスケートはこの形式で伝える題材としてぴったりだと思った」(古田さん)。

 かくして、デジタル編集部の記者とエンジニアに加え、数年にわたりフィギュアスケートの取材を続けているスポーツ部の後藤太輔記者、普段は新聞紙面に携わるデザイン部、現場の温度感や緊張感をよく知る写真部――など、部署を横断的に巻き込んだプロジェクトは動き出した。

●記者、デザイナー、カメラマン、エンジニアが一緒に

 開発は、デザイン部の寺島隆介さんらのラフをベースにデジタル編集部のエンジニア陣が具現化するというプロセスで行った。一見、要望に応えてコーディングするスタイルに見えるが、より効果的な伝え方を記者やデザイナーと相談しつつ検討するため「むしろ自分のやりたいことや挑戦したい技術を入れ込める自由さがある」と以前はカーナビシステムのUXデザインに携わっていた佐藤さんは言う。

 現在同社で特集ページをはじめとした制作に関わる開発エンジニアは6人。前職はゲーム開発という白井政行さんは「テキストではなく視覚でどう伝えるか、一瞬で理解してもらうためにビジュアルとアニメーションをどう使うか。前職とジャンルは違うが試行錯誤の根源は同じ」と話す。

●物語に引き込む最初の5秒

 とにかく、ページを開いた瞬間の動きに徹底的にこだわった。最初の数秒で「これは何かが違う」と思わせたい。権利的・技術的にできることとやりたいことの狭間でさまざまなアイディアが飛び交う中、普段は新聞紙面を制作しているデザイン部から出てきた案が「線画アニメーション」だった。真っ白な背景に浮かび上がる鉛筆の線画。64コマ、5秒間で浅田選手がショートプログラムの演技開始位置につくまでの流れるような仕草を描いた。物語のスタートだ。

 「演技動画がWebで使えないために行き着いた案ではあったのですが、結果的に線画アニメーションの方がずっとよかった。映像はテレビで何度も流れるし、ネットでも公開されている。すでに読者の記憶にあるものをそのまま二番煎じで見せてもここまで印象に残らなかったはず」(古田さん)

 アニメーションが終わると、演技開始直後の浅田選手が氷上に立っている。この“立っている”静けさを伝えるため、画面サイズに関わらず必ず中央に彼女の写真が来るように、周囲の余白にスケートリンクが映えるように調整した。開発エンジニアの1人、佐藤義晴さんは「一番苦労したのはこの一連の始まり方。スクロール型のリッチコンテンツは最初のつかみで読者に前のめりになってもらうのが重要」と振り返る。

 没入感を高めるため、左にテキストが流れ、右の写真が切り替わってくスタイルを守った。目線を移動させることなく、全3章で計5000字にもなる文章を読みきってもらうためだ。浅田選手の幼少期や10代の頃の写真を交え、本をめくるようにストーリーは進行していく。

 物語は、リンクに次々と花束が投げ込まれて終わる。実際のフィギュアスケートと同じ光景だ。ラストの締め方を悩んでいたところ、「現場一番印象的なのはやっぱり」と写真部から出てきたアイディアだった。現場に居合わせ、被写体を追いかけているからこその発想だ。当初は写真1点を想定していたが、開発陣の熱意によりスクロールに合わせて複数の花束が投げ込まれるようなアニメーションに決まった。

 過去の記事や資料を元に、事前に制作できる部分を仕上げ、当日を待った。彼女の演技の写真とコメントが入らなければ完成しない。浅田選手はショート・プログラム終了時点で16位。その試合をリアルタイムに社内のテレビで観戦後、粛々と準備を進めるチームに一抹の不安がよぎった。「フリー、出ないなんてことがあったら」――。

●圧巻の演技、公開までの怒涛の24時間

 21日未明、女子フリー。浅田選手が「自身の集大成」と何度も語っていた演技のテーマは「今までの人生」だった。深夜1時過ぎ、古田さんは前日と同じように社内のテレビを見つめた。4分超の演技を終え、彼女は泣いて、笑った。「完成した」。ラストを飾る浅田選手のアップの写真は1枚の予定だったが、2枚に変更した。「うれしかったです。うれし泣きと笑顔と、同じ意味だと思います」「自分の中で最高の演技ができ、たくさんの方に恩返しができました」――試合後のコメントから、2つを選んだ。

 明朝、現地から送られてきた浅田選手の写真は数百枚。表情や動きに変化がつくよう選び抜いた34枚の写真によるスライドショーは演技の時系列順に並べている。1枚5秒、約3分。演技に使われたラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」をBGMに、彼女の言葉を振り返りながら、読者自身の頭の中で4分の演技を再生してほしかった。映像ではなく写真で振り返るからこそ、一瞬ごとの美しさを堪能できる。試合後に実際に投げ込まれた花束の写真の1つを末尾に加え、「ラストダンス」は完成した。

●「新聞がネットでできること、やる意味のあることがちゃんと形に」

 競技終了から約24時間後の22日未明、ページを公開した。週末を迎えたばかりの深夜にも関わらず、公式のアナウンスを待たずにじわじわと広がっていった。「すごいものができてる!」「演技を思い出しながら泣いてしまった」「新聞がネットでできること、やる意味のあることがちゃんと形に」――TwitterやFacebookで拡散の輪は広がっていった。

 3日間で100万PVを超え、うちスマートフォンからのアクセスは65%を占めた。ユニークユーザー(UU)がPVの半分以下の40万に留まったことも特徴で「スマートフォンでアクセスして『あとでPCの大きな画面で見よう』という人、最後まで見終わってから『もう1度最初から』と複数回読む人が多かったようだ。PVのインパクトも大きいが、離脱率が低かったことも印象的」(古田さん)

 SNS上をはじめ、社外からの反響は大きい。古田さんは「マスコミはどうしてもネット上では悪く言われることが多いじゃないですか、『朝日新聞、やるじゃん』という声はうれしいですね」と笑う。過去の膨大な資料や記事と、デザインや写真を含む各分野のプロフェッショナルを抱える新聞社の強みを十分に生かせた点で社内的にも意味があるプロジェクトだったと言う。今後、社内の他部署ともさらに連携を深め、次につなげていきたいと先を見据える。

●長年の資産をデジタルに“翻訳”する責務

 同社を含め、世界各国のメディアは無料・有料の会員制度を含めたWeb版のマネタイズの方向を模索している途中だ。「ラストダンス」に寄せられた感想は通常のニュースへのリアクションに比べ、若年層や女性のコメントが目立つなど、既存読者と異なる層にリーチできた手応えがあるといい、「リッチコンテンツは有料で」ではなく、まずは知ってもらうこと、親しんでもらうこと、「マルチメディア企業」として認識されることを目指していきたいという。New York Timesも、続々と発表する特集ページの多くを無料で公開している。

 「紙面でできないことをWebで、と言ってもなかなか体感的に理解してもらうのは難しい。メディアのデジタルへの対応は独立して存在するわけではなく、長い歴史の中で培ってきた資産をどう“翻訳”し活用するかが僕たちデジタル編集部の腕の見せどころ。新聞社だから生かせるデータ、できる表現を追求したい」(古田さん)
http://news.livedoor.com/article/detail/8613137/