『分かつもの』≪三話≫ | Eimi企画のオフィシャルブログ

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物語を作っています。コンセプトは「心を豊かにする物語作り」です。小説、動画、ボイスドラマ、自然、愛犬、題材は様々ですが、紹介とお喋りのブログです。

『分かつもの』    ≪三話≫
 
 
 夜中の兵舎に、少年兵達が雑居している。

 彼らには徴収令状を受け取ってきた者も、自ら志願した者もいる。
 だが、ついこの間まで普通に暮らしていた者がほとんどで、終わらない戦火に全員が心を痛めている。
 
 部隊を分けられ友人と離れ、それでも厳しい状況が続く。
 帰りたいと思っても帰れず、もし脱走すれば恥となり、また前線に近い場所にいる自分らに、逃げる場所などないことは誰もが知っている。
 前線に出たくないと思いながらも、自分が行かないと国は滅び、家族が死ぬのではないかと不安で揺れ動く。

 一週間前、幼なじみが配属された部隊が出動したが、未だその時の作戦は続いている。
 彼が生きているかどうかも分からず、あるいは、今度は自分ではないかといった思いで、毎日ほとんど眠れず、兵舎となった建物の中で待機させられる。
 
「作戦は失敗。先陣の部隊は、特攻部隊となった。戦闘機に乗れた少年兵に、敵艦への特攻命令が出されたのだ」
 報告を耳にした少年たちは、顔を青くした。
 
 絶望の淵に立たされたと感じる。

 それでも、数人は勇猛な表情へと変わり、敬礼の後、部隊長の下へ向かった。
 自分たちも役に立てると、気持ちを奮い立たせ、先に向かった彼らを急いで追いかけようと、力強く闊歩した。

 操縦訓練を終えている少年たちは、既に戦闘機に乗り込み戦地へと赴いていた。
 
 残りの八割の少年は輸送機で移動した。
 地上戦に備えてのことだった。

 彼らも言葉にこそ出さなかったが、誰も口の端をぎゅっと結び、緊迫した空気が流れる。

 輸送機内にいる全員が、不安と畏れで、胸が押しつぶされそうだと感じていた。

 再び脳裏に「帰れたら」と言う言葉が浮かぶが、そうはさせてくれないようだ。

 そのときだった。
 最後尾に座っていた少年が顔色を変えた。
 その様子に、向かい合う兵士たちが少年の視線の先へ顔を向けると、そこには、輸送機の船尾で何かが揺らぎ、彼らの最後尾に黒いものが現れてきた。

 『彼の者』がゆっくりと姿を現したのだ。

「っ!?」

 驚きはしたものの、誰も声にならなかった。

 少年兵の向かいに座った少し年上の青年が立ち上がり、腰に差した刀を構えて、黒い影のような『彼の者』の急所と思しき場所に突き刺す。

 だが寸前、刃を掴まれてしまった。
 振りほどこうと、引っ張り、力を入れるが、全く動かない。
 動揺が周囲へと広がる。

「帰りたいですか?」

 黒いローブを目深に被る『彼の者』が、一番手前の少年に問いかける。
 突拍子もない問いかけに、その場にいた数人の少年兵達は息を飲んだ。
 数人は直ぐに表情を引き締め、残りは「直ぐに帰りたい」、「戦わないと家族に被害が・・・」という葛藤で迷っている。

「俺は……!」

「そんな男に載る必要は無い」

 問いかけられた少年は、自身の心に打ち勝てず屈するところだった。前方から『彼の者』を完全否定する声が飛んだ。
 周りの少年達はその声の方へと視線を向けると、輸送機内の最前列にいた少年が大股でやって来たのだ。
 その男もまた少年兵だった。
 
 その少年を見つめ、『彼の者』は、掴んだ刃を最初の青年ごと突き飛ばした。

「死にたいのですか? 帰りたくないのですか?」

 兵士としての意識を持っている者からすれば、国を護ろうとする自身の畏れが見せる幻覚のように見えていた。
 幻覚だ。こいつこそ死神だ。
 恐怖心が見せる悪夢に違いない。
 上空を飛ぶ輸送機の中に突然現れた以上、これが人間だとは、誰も思わなかった。

 声を上げた少年は怒りを胸の内に秘め、一言言った。

「俺たちは、神兵だ……!」

 この言葉だけでその場の兵士たちは皆、ハッと自分たちの役目を思い出し、先ほどまでの弱々しい表情は見せなくなった。
 この国は神が創生した国だ。この国を守る者は少年であろうと「神兵」と言われて命を賭しても、国を守るのだ。
 その台詞で、全員が自分たちは「神兵」だと思い出したのだ。
 

「そうですか……。では、帰りたくなったら思い浮かべなさい。私はいつでも貴方方の傍にいますよ」
 

 そう言い残し、『彼の者』は再び影の中へと姿を消した。
 
 

 その後、到着した場所で奮戦し、国のために命を費やした少年たちの誰も『彼の者』の幻覚を見たものはなかった。

 ただすべてが終わった灰の街で、漂う黒い影を見た者はいた。

 離れがたいように、いつまでも、……ただいつまでも、影は街をうろつき、歩き続けていたのだという。
 
 
 
 
 
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