2017-09-07 04:50:42

ダ・ヴィンチ・コード(上)/ダン・ブラウン 17250

テーマ:小説
ダ・ヴィンチ・コード(上)/ダン・ブラウン
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最近よく読むダン・ブラウン。
もうちょっと面白かった様な氣がするな~
と思い、最初に読んだ「ダ・ヴィンチ・コード」に戻ってみる。

ああ、これだよ、これ。

文庫本版は初めてだが、上巻からぐいぐい引き込まれる。

「黄金比」の解説が、ここまで言い切ってしまっていいのか?
とは思いつつも、実に面白い。

 黄金比。
 突然、ハーヴァードの授業の記憶がよみがえった。
 ”美術における象徴”という授業で、壇上に立って
 自分の大好きな数字を黒板に書いているところだ。

 1.618

 ラングドンは振り返って、教室を埋めつくす熱心な学生たちへ顔を向けた。
 「誰かこの数について説明できるか?」

 後方の席にいる脚の長い数学専攻の学生が手をあげた。

 「PHI。黄金比です」
 「そのとおりだ、ステットナー」
 ラングドンは言った。
 「諸君、黄金比を紹介しよう」

 「私立探偵(PI)と混同しないで下さいよ」
 ステットナーはにやりと笑って付け足した。
 「僕ら数学をやっている者はよくこう言うんです。
 黄金比(PHI)はHがあるおかげでPIよりずっと切れ者だってね!」

 ラングドンは声をあげて笑ったが、
 他の学生たちにはそのジョークが理解できないらしい。
 ステットナーは肩を落とした。

 「黄金比すなわち」ラングドンは続けた。
 「1.618は芸術においてきわめて重要な数値だ。
  その理由がわかる者は?」

 ステットナーが名誉を挽回しようとした。「美しいからです」
 笑いが湧き起こった。

 「実は」ラングドンは言った。
 「またしてもご名答だ。
  これは宇宙で最も美しい数値だと一般に考えられている」
 急に笑い声がやみ、ステットナーはほくそ笑んだ。

 スライド映写の準備を進めながら、
 ラングドンは黄金比がフィボナッチ数列から導き出されることを説明した。
 その数列は隣り合うふたつの項の和が次の項の値に等しいことで名高いが、
 隣り合う二つの項の比がある数へ近づいていくという性質も持っている。
 その数こそ黄金比すなわち約1.618だ。

 その摩訶不思議な性質についての数学的な解明はさておき、
 真に驚嘆すべきは、黄金比が自然界の事物の
 基本的な構成に深く関わっていることだと、ラングドンは説いた。
 植物や動物、そして人間についてさえも、様々なものの比率が
 不氣味なほどの正確さで1.618に迫っている。

 「黄金比は自然界のいたるところに見られる」
 ラングドンはそう言って照明を落とした。
 「偶然の域を越えているのは明らかで、
 だから古代人はこの値が万物の創造主によって定められたに違いないと考えた。
 古の科学者はこれを”神聖比率”と呼んで崇めたものだ」

 「待ってください」最前列にの席にいる女子学生が言った。
 「私は生物学専攻ですけど、
  自然界でその神聖比率とやらに出会ったことがありません」
 「そうかい」ラングドンはにっこりと笑った。
 「ミツバチの群れにおける雄と雌の個体数の関係について学んだことは?」
 「ありますよ。雌の数は常に雄を上まわります」
 「正解。では、世界中どのミツバチの巣を調べても、
 雌の数を雄の数で割ると同じ値が得られることは知っているかい」
 「えっ?」
 「そう、黄金比になるんだ」
 女子学生は口を大きく開けた。「信じられない!」
 「ほんとうなんだよ」ラングドンはことばを投げ返し、
 微笑みながら巻貝の殻のスライドを映写した。「これがなんだかわかるね」
 「オウムガイです」生物学専攻の女子学生は答えた。
 「軟体動物の頭足類で、
  殻の中の隔室へ氣体を送りこんで浮力を調節します」
 「そのとおり。どこであれ、この螺旋形の直径は、
  それより九十度内側の直径の何倍になるか想像できるかい」
 女子学生は不安げな表情で渦巻く殻のカーブを見つめた。
 ラングドンはうなずいた。「黄金比だ。神聖比率。1.618対1」
 女子学生は目をまるくした。

 ラングドンはつぎのスライドへ移った。
 ヒマワリの頭花を拡大した映像だ。
 「ここでは逆方向の螺旋がいくつも渦巻いて並んでいる。
  それぞれの渦巻きを、同様に九十度内側と
  比較したときの直径の比率は?」
 「黄金比?」全員が口をそろえた。
 「ビンゴだ」
 それからラングドンはつぎつぎスライドを入れ替えた。
 渦状に並んだ松かさの鱗片、植物の茎に葉がつく配列、
 昆虫の体の分節―すべてが驚くほど忠実に黄金比を示していた。
 「こいつはびっくりだ!」だれかが叫んだ。

 「なるほど」ほかの学生が言った。
 「でも、これが芸術とどんな関係があるんですか」

 「そう!」
 ラングドンは言った。
 「いい質問だ」
 スライドをもう一枚映す。
 黄ばんだ羊皮紙に、レオナルド・ダ・ヴィンチによる
 名高い男性裸体画が描かれている。
 <ウィトルウィウス的人体図>。
 題名のもとになった古代ローマの著名な建築家
 マルクス・ウィトルウィウスは、
 その著書『建築論』のなかで神聖比率を賛美している。

 「ダ・ヴィンチは人体の神聖な構造を誰よりもよく理解していた。
  実際に死体を掘り起こして、骨格を正確に計測したこともある。
  人体を形作るさまざまな部分の関係が常に黄金比を示すことを、
  はじめて実証した人間なんだよ」
 教室内の全員が半信半疑の面持ちを見せた。

 「信じられないとでも?」ラングドンは強い口調で言った。
 「こんどシャワーを浴びるときは、巻き尺を持っていくといい」
  数人のフットボール選手が笑いを噛み殺した。

 「肉体派の諸君だけじゃなくて」ラングドンはつづけた。
 「君たち全員がだよ。男も女もやってみるんだ。
  まず頭のてっぺんから床までの長さを測る。
  次にそれを、へそから床までの長さで割る。
  答えはなんだと思う?」
 「黄金比のはずがない!」
 フットボール選手の一人が思わず叫んだ。
 「いや、黄金比だ」ラングドンは応えた。

 「1.618。他にも例をあげようか。肩から指先までの長さを測り、
  それを肘から指先までの長さで割る。黄金比だ。
  腰から床までの長さを、膝から床までの長さで割る。
  これも黄金比。手の指、足の指、背骨の区切れ目、黄金比、
  黄金比、黄金比。
  きみたちひとりひとりが黄金比の申し子なんだよ」

 暗がりではあったが、全員の愕然とした様子がわかった。
 ラングドンはいつもの暖かい感情が湧くのを感じた。
 これだから教えるのは楽しい。
 「見てのとおり、混沌とした世界の底には秩序が隠されている。
  太古の人々は黄金比を見いだしたとき、
  神の創りたもうた世界の基本原理に出くわしたと確信し、
  それゆえに自然を崇拝した。当然だな。
  神の手は森羅万象のなかに感じられ、
  母なる大地を崇める宗教は現在でも存在する。
  われわれの多くは、異教の風習で自然を祝福しておきながら、
  そのことを知らずにいる。
  五月祭がいい例だよ。
  これは春の祭典で、大地がよみがえってその恵みをもたらす日だ。
  黄金比の持つ神秘的な特性については、はるか昔に記されている。
  人間は自然の法則に従って行動する存在にすぎず、
  芸術とは神の生み出した美を人間が模倣する試みにほかならない。
  だから今学期は、黄金比の数多くの実例を見ていくことになるだろう」

 つづく三十分間、ラングドンはスライドによって、
 ミケランジェロ、アルブレヒト・デューラー、ダ・ヴィンチなど
 多数の芸術家の作品を紹介し、
 それぞれが作品の構成において意図的かつ
 厳格に黄金比に従っていることを実証した。
 ギリシャのパルテノン神殿、エジプトのピラミッド、
 果てはニューヨークの国連ビルに至るまで、
 その建築寸法に黄金比が使われていることも明らかにした。
 モーツァルトのソナタやベートーヴェンの交響曲第五番、
 さらにバルトーク、ドビュッシー、シューベルトの作品でも、
 黄金比が構成上の大きな要素を占めている。
 かの有名なストラディヴァリウスのバイオリンが作られたときに、
 黄金比を基準としてf字孔の正確な位置が決められたことも、
 ラングドンは語り聞かせた。

 「おしまいに」ラングドンはそう言って黒板へ歩み寄った。
 「象徴の話へもどろう」
 五本の線を交差させて、頂点が五つある星形を描く。
 「この記号は、君たちが今学期最も強烈な印象を受けるものの一つだ。
  正式には五線星形、かつては五芒星と呼ばれたこの記号は、
  さまざまな文化圏において神聖で魅惑的なものと見なされている。
  その理由がわかる者は?」

 数学専攻のステットナーが手をあげた。
 「五線星形を描くと、出来上がる線分同士の比が
  黄金比と一致するからです」

 ラングドンは満足そうにうなずきを返した。
 「いいぞ。五芒星のすべての線分は互いに黄金比の関係をなすので、
  このしるしは神聖比率の究極の表現だと言える。
  だから、五芒星は女神や聖なる女性と関係づけられ、
  美と完全性の象徴でありつづけた」
  女子学生たちの顔が輝いた。

 「ひとつ言っておこう。
  今日はダ・ヴィンチについて簡単に触れる程度だったが、
  今学期中にはるかに多くを見ていくことになる。
  レオナルドは間違いなく、古代の女神にまつわるものに心を奪われていた。
  あすはフレスコ画の<最後の晩餐>を紹介する。
  聖なる女性を賛美した、驚嘆すべき作品だよ」
 「冗談でしょう?」
 だれかが言った。
 「<最後の晩餐>はイエスを描いた絵なのに!」
 ラングドンはウィンクをした。
 「象徴は思いがけないところに隠されているものだ」


こんな授業、学生だったら堪らないナ。


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