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遠野郷は、今の陸中上閉伊郡の西半分を指し、山々に囲まれた平地である。
一つの町と十の村に分かれ、最近は西閉伊郡ともいい、少し前は遠野保と呼ばれていた。
郡の役所がある遠野町は、郷の中心になる町で、南部家一万石の城下町でもある。城の名前は横田城という。
遠野町に行くには、花巻駅で汽車を降りて、北上川を渡り、支流である猿ケ石川の渓を伝い、約50㎞東へ進んでいかねばならない。
山奥には珍しく、人の多いところであった。
遠野郷は、大昔は一面の湖水だったという。
その湖水から、水が猿ヶ石川へ流れ出て、自然にこのようになったといわれている。
そのため、多くの谷川はこの猿ヶ石川に合流し、俗に「七内八崎あり」といわれる。
「内」というのは、沢とか谷という意味で、奥州の地名には多くつけられているのである。