電人少女まみり  第29回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能人の追いかけを、やったりして、芸能人のことをちょっとだけ知っています、ちょっとだけ熱烈なファンです。あまり、深刻な話はありません。

第29回
「王警部、どうしたかなり」
まみりは自分の携帯で王警部に話し掛けているとその声がどんどん大きくなる。
そしてまみりとランチ石川の座っているヒマラヤ杉の幹の裏から、携帯をかけながら王警部が現れた。
「王警部、うしろにいるなら、わざわざ携帯で電話をかけてくることもないなり。
でも、どうやってこのハロハロ学園の中に入ったなりか」
「わたしも、驚いたわ」
給食王石川もアンパンを囓りながら王警部のほうを振りむいた。
「ふたりとも、これがあれば簡単さ」
王警部は自分の警察手帳をまみりと石川に見せた。王警部もまみりと石川の横に腰掛ける。
「探偵高橋愛がいないみたいだね」
「あの女、最近、モータウンとか、ミュージックティービーとか、そんなことばかり言っているなり」
「それにこの前は強羅の高級温泉旅館に行って来たと言って温泉饅頭を持って来たわ」
貰うものならなんでも貰う石川はあの温泉饅頭の独特の苦みを思い出して、また食べたいと思った。
しかし、そんなことには興味がないという様子で、王沙汰春は少しむずかしそうな顔をした。
「最近、不思議な事件が起こっているのを知っているかい」
「急にそんなことを言われてもわからないなり、矢口くんは警察関係者じゃないなり」
「そうよ。そうよ。まみりの言うとおりだわ」
都内にある深海魚を飼育しているプールがつぎつぎと壊されているんだよ。
プールに毒を入れられたり、網で救われた深海魚がアスファルトの道路に放置されたりで、都内から深海魚が姿を消そうとしている」
「都内で深海魚が飼育されているなんて初めて聞いたわ」
石川は知らなくてもまみりはその事実を知っている。ハロハロ学園の内庭で見たものがそれだったのだから。
「それで、この人物を知っているかい」
王警部は服の内ポケットから男の写真を出した。石川はその顔をのぞき込んだ。
「結婚詐欺師みたいじゃないの」
「そうなり」
矢口まみりも同意する。
「誰なりか」
「実は日本人じゃないんだよ。日系二世、新庄芋という男だ」
「警部はこの男を追っているなりか」
「そうだよ。まみりちゃん」
「その深海魚が関係しているプールが壊される前には必ず、この男の影がある」
「じゃあ、この男が深海魚を殺して歩いているんですね。警部」
「そうだろう。でも、何故、この男がそんなことをしているかということだ。
実はこの男の身元を僕は知っているのさ」
「何者なり、警部」
「同業者だ。しかし、やり方は僕らとはだいぶ違っている。
それに興味のあるのはこの男が現れるときにはいつもハロハロ学園の女子生徒が現れることだ」
新庄芋の写真をしげしげと眺めていた石川はあわてて王沙汰春の顔を見上げた。
「誰、誰なんです。警部」
「探偵高橋愛だ」
「うっそう」
「信じられないなり」
びっくりしたびっくり坊主石川は手に持っていたあんぱんのあんこを地面に落とした。
すると新垣が近寄って来てあんこを口に運んだがあまりにもびっくりしていたので矢口まみりも石川もそのことに気づかなかった。
しかし、新垣は目に喜びをたたえてあんこを自分の巣に運んだ。
「探偵高橋愛の変化に君たちは気づかなかったかい」
「そう言えば、探偵高橋愛は最近、おかしいなり。ブリトニー高橋愛と呼べと新垣に宣言していたなり」
「探偵高橋愛が悪の道に進まねばいいが」
石川りかはまるで小悪人を見つめる正義の味方のように呟いた。
「理事長のお知らせだよ。理事長のお知らせだよ」
瓦版やの吉沢が声を張り上げてまみりたちの横を通った。
「理事長は深海魚を集めていらっしゃる。
深海魚をハロハロ学園に持って来た者にはどんな深海魚だったって三十円を下さるというおふれだよ」
吉沢はちらしをまいていた。
「ここでも深海魚か」
王警部はつぶやいた。
「きみたちに新庄芋のはなしをしたろう。その新庄芋が探偵高橋愛と一緒にある男のところを頻繁に訪れているのだ。
その男というのも疑いのある男でね」
「どんなふうに疑いがあるなり」
「墨田の方で釣り堀やをやっていた男なんだが、十年以上前にその釣り堀やも廃業している。
そしてその空き地を使って毒蛇だとか毒とかげだとかを飼い始めたのだ。その直後に殺人事件があってね。
それには毒蛇の毒が使われていた。
警察内部でもその男が関わっていたのではないかという噂が立ったが、証拠もなかったのでその男は網の外に逃げた。
何年か前からか大きなステンレス製のタンクを買い込んで、中で何かを飼い始めたらしいんだよ。
そのタンクの外側には空気ポンプがつながれていて酸素を送り込めるようになっているんだ」
「あやしいなり」
矢口まみりも同意した。
「その男のところに新庄芋ときみたちの同級生の探偵高橋愛が足繁く訪れているんだよ。それだけじゃない。
その男は最近、新聞広告を出しているんだ。深海魚のご用命は当方まで、毒蜘蛛育成園ってね」
「まみり、探偵高橋愛に問いつめなければだめなんじゃない」
「そうなり」
「もし、探偵高橋愛が何かやましいことをしようとしているなら、そんなことをすればかえって逆効果だ。
とにかく、毒蜘蛛育成園に行ってみようと思うのだがきみたちも来ないか」
「行くわよ。もちろん」
暇をもてあましている石川りかが答えた。
「矢口くんも行くなり」
「まみり、あれ、ゴジラ松井くんが帰って行くわよ。珍しいじゃないの。クラブ活動もしないで。
なんだか、ゴジラ松井くん、疲れているみたい」
校門を出て行く、ゴジラ松井くんを見ながら石川りかがまみりに同意を求めた。
 三人が行った毒蜘蛛育成園は年代物の鉄道の高架をくぐった畑の中にぽつんと雑木の中に囲まれてあった。
中に入ると平屋の横に生け簀をコンクリートの蓋でうめたような跡があって、
その上にステンレス製の大きな円柱のかたちをしたタンクが横に三本並んで置かれていた。
三本とも上の方に潜水艦のハッチのような蓋がついていてそこからタンクの中に出入り出来るようになっているらしかった。
「まみり、気味の悪いところね」
石川りかが毒蜘蛛育成園と書かれた木製の看板を見ながらつぶやいた。
「どんな人間が出入りするか、あそこに建設業者がうち捨てて行った小屋があるから、あそこに隠れて観察しよう」
ふたりは王警部の提案を入れてその小屋の中に入った。三人がその小屋の中で身を潜めて毒蜘蛛育成園の方を伺っていると、
入り口のドアのところに人影がにゅうと立った。
「はるら先生」
石川りかが井川はるら先生を見て小さく声を上げた。
「ここにいるととにかく目立つ、中に入ってください」
王警部に言われてはるか先生も作業小屋の中に入った。
「なんで、はるら先生はここにいるんですか」
「わたしの悪魔コレクションのひとつ、月の光投影機を買って行った人間がいるのよ。
その人が何をするのかと思って、こに来るのか、わかっているから待っているのよ」
「月の光投影機ってなんなり」
「まみりちゃん、それは月の光と同じ光の粒をふりかけるものなのよ」
「それを買って行ったのは誰なり」
「まみりちゃん、あなたたちのお友達よ。探偵高橋愛なのよ」
「それは奇遇ですな」
王警部も話に参加してきた。
「実はわれわれも探偵高橋愛の行動を監視しているのですよ」
そこで四人はその小屋の中でやはりそこを見張っていることにした。
すると一時間くらい経ったところで昼日中だというのに黒装束に身を固めた集団が手にスパナやナット回しを持って現れて
あのタンクの上に上がるとあのハッチのようなものを開けようとこころみた。
すると平屋の中から百道三太夫みたいな顔をした老人が出て来て、どなりつけた。
するとその集団は雲散霧消して畑の方に逃げて行った。畑の方で、今はやばい。
夜になって暗くなってから決行しようというような声が聞こえる。それなら喫茶店で夜になるまで時間をつぶそうなどと言っている。
そして首領らしい人物が黒頭巾を脱いだ。子分たちも次次と黒頭巾を脱いでいく。驚いたことに首領は飯田だったのだ。
保田も小川も辻も加護もいた。そしてその中には剣聖紺野さんもいた。不良グループたちは駅の繁華街の喫茶店にでも行ったようだった。
それから小一時間が経った。
「あれを」
井川はるら先生が指さした毒蜘蛛育成園の玄関のところには探偵高橋愛が立っている。
そしてその横にはエフビーアイ捜査官、日系二世、新庄芋も立っているではないか。
そこで彼らは立ち話をしてから家の中に入って行った。
 数時間が経った頃だろう。畑の方でたき火の煙が上がっている。また見ると黒装束に身を固めた怪盗たちがたき火にあたっている。
みんながそれぞれ棒みたいなものを持っていてそのさきにはさつまいもがついていた。怪盗たちは焼き芋を焼いていた。
 あたりが暗くなったあたりでトレンチコートを来て、帽子を深々と被った男がひどく疲れた足取りで毒蜘蛛育成園の玄関を尋ねた。
すると中から探偵高橋愛と新庄芋が出て来て二言三言話して、急に探偵高橋愛が懐中電灯のようなものを取り出すと光を当てた。
すると、男のトレンチコートはエメラルド色に輝いた。探偵高橋愛は今度はポケットの中から銀色に輝くものを取り出すと男に向けた。
男は両手を挙げて降参の意思表示をした。そして探偵高橋愛と新庄芋は男を裏の畑につれて行った。
畑のやぶの中では怪盗たちが身を潜めている。四人は小屋を飛び出し、畑の方に行った。
「やめないか。探偵高橋愛、きみはまだ高校生だろう。拳銃をかまえているのは、きみは殺人者になるつもりか」
王警部が大声で叫んだ。騒ぎが起こったので茂みの中から黒装束の集団も出てくる。
「きみたちもくだらないことはやめろ。きみたちが誰かわかっているんだぞ」
黒装束の連中のなかでひとりが頭巾を脱いだ。
「オヤピンがクストー理事長が深海魚を買い上げてくれるから、盗もうと言ったピン」
「加護、余計なことを言うんじゃないよ。でも、正体がばれたみたいだね」
怪盗たちは頭巾を脱いだ。そこにはハロハロ学園の不良グループたちが立っている。
剣聖紺野さんも秘宝剣、紀伊白浜丸を背中に背負ったまま立っている。
「誰から何も、言われる筋合いはないよ。実際にはハロハロ、不良団は何もやらなかつたんだからね」
「紺野さんは凶器準備集合罪にとらわれるなり」
まみりはつぶやいた。
「王さん、ソレナラ、探偵高橋愛とわたしはなおさらのことデス」
「民間人がピストルで人間を撃っていいという法律は日本にはない」
王警部が断言した。
「ニンゲン」
「フハハハハハハハ」
新庄芋と探偵高橋愛はこんなにおもしろいことはないというように声高らかに笑った。
誘われて石川も笑った。探偵高橋愛はやはりまだ銃を構えている。フロックコートの男は黙ったまま立っている。
探偵高橋愛は男に銀色のコルトを構えたまま王警部の方を向いた。
「この銀のコルトの中にふつうの弾丸がこめられているならこの男もすぐに、このブリトニー高橋愛に飛びかかってくるわ。
でも、この中にははるら先生が呪いの術をかけた銀の弾丸が入っている」
探偵高橋愛は拳銃を構えたまま男がかぶっていた帽子を引きちぎるように取った。
その場にいたものは一斉に声を上げた。なんにでもサポーター石川はいつもやるように手を合わせ身もだえをするように歓声をあげた。
「ヒーロー、ゴジラ松井くんだわ。ゴジラ松井くんだわ。ハロハロ学園のヒーローのお出ましだわ」
黒頭巾を脱いだ不良たちもうっとりとモテモテゴジラ松井くんを見つめた。
その中でももっとも熱い目を持ってゴジラ松井くんを見つめていたのはもちろん、矢口まみりである。
その場にいた女たちがうっとりした視線をゴジラ松井くんに投げかけていたのを探偵高橋愛は冷ややかな目で見つめていたが、
今度は懐中電灯のようなものを取り出した。
「探偵高橋愛は月の光、投影機を取り出したわね」
井川はるら先生がぽつりと言った。
「この男がヒーローだって」
また探偵高橋愛はこの世界を支配したように笑い出した。新庄芋も薄気味悪く笑っている。
「人間をピストルで撃てば罪に問われるでしょうが、人間でないものを撃ち殺してもなんの罪にも問われないわ。ほら、見て」
探偵高橋愛はその懐中電灯のようなものの光をゴジラ松井くんに当てる。するとどうだろう。
ゴジラ松井くんの身体はエメラルド色に輝きはじめたではないか。その輝きもじょじょに明るくなっている。
そしてゴジラ松井くん姿は変わっていった。まず、あの隠密怪獣王に変わったのである。
それからまみりがハロハロ学園の秘密のプールで見たエメラルド色の爬虫類に変わった。
ゴジラ松井くん自身にパワーがないのか、あの巨大な姿ではない。人並みの大きさである。
そして光が当たっているあいだゴジラ松井くんの姿は隠密怪獣王の姿や、ヒーローゴジラ松井くんの姿や、
あの気味の悪い爬虫類の姿なんかにくるくると変わっていった。そして爬虫類の姿に変わったとき、
ゴジラ松井くんの前に小さな野ネズミが走ると理性を失っている
ゴジラ松井くんはその野ネズミをぱっと飛びついてひとのみにしてしまったのである。
「きゃあー」
その姿を見てフリフリスカート石川が叫び声を上げた。その場にいた女たちも悲鳴を上げた。
そして女たちのあいだにざわざわとしたささやきが聞こえたとき、不良たちのあいだから抗議の声が上がった。
「金、返せ」
「ゴジラ松井って本物の怪獣じゃねえのかよ」
加護愛がよたった。
「もう、お前なんか、ハロハロ学園のヒーローじゃねえよ」
「怪獣映画にでも出ていろ」
不良グループたちの罵倒は相変わらず続いている。
探偵高橋愛は得意気な表情をした。
「もう、おわかりだね。ゴジラ松井くんの正体も、一般のみなさまのお考えも。
ここで怪獣が一匹、死んだところで誰も悲しまないんだよ」
探偵高橋愛は得意気に笑った、そしてゴジラ松井くんの心臓に狙いを定めてコルトの引き金に指をかけた。
あやうし、ゴジラ松井くん、「やめるなり~~~~~~~~~」
大きな叫び声がして矢口まみりが飛び出す。
もうすでにこの矢口まみりの奇妙な性癖についてながながと話してきたから明らかなことだが、まみりは気味の悪いもの、
奇妙なものがたまらなく好きだった。
あの秘密のプールでエメラルド色の肉食恐竜を一目、見てからすっかりと心を奪われていたまみりだったが、
その正体がゴジラ松井くんだと知ってますますゴジラ松井くんのことが好きになってしまったのである。
そのゴジラ松井くんが野ネズミを一のみにしたときなど胸がふるえるほど感動したのである。
しかし、探偵高橋愛の構えた銃の弾道のゴジラ松井くんの前にはまみりがいた。まみりの前で火花が散った。
剣がひらめいた。まみりは死んだと思って地面を見ると銀の弾丸がふたつに切り落とされて地面に落ちている。
そばには鞘の中に秘宝剣を収めた剣聖紺野さんが立っていた。
「ライバルが弱っているとき、倒そうとは思わぬ」
紺野さんは一言だけ喋ったが、まみりはこのときはじめて紺野さんの話す声を聞いたのだった。
すっかりと弱った様子のゴジラ松井くんは片膝を立てながらまみりに言った。
「矢口くん、僕はきみのことを好きになるのは許されないのだ。きみのパパは僕の仲間をメスで刻んだ」
「うっそなり。うっそなり」
「いや、本当だ」
「そうよ。まみり、本当よ。この恋、あきらめなさい」
ロンリーウルフ石川が口を添える。
「いやだなり。いやだなり。まみりは、まみりは。ゴジラ松井くんと結婚するなり~~~~~」
そのとき、畑の横の農業用水の管の中から変な生き物が顔を出していた。毛だらけな顔をした新垣である。
新垣はさかんに手招きをしている。その様子を見てゴジラ松井くんは新庄芋や探偵高橋愛の目をかいくぐって
その農業用水の管のところにいった。そしてたった直径が二十センチしかない管の中に入ると新垣とともに消えてしまったのである。
 その次の日からゴジラ松井くんはハロハロ学園に姿を現さなくなった。
 あの元気だったまみりはすっかりと暗くなった。
まみりのお婿さん候補ナンバーワンのゴジラ松井くんがハロハロ学園からいなくなったからである。
「パパ、パパはメスでゴジラ松井くんの仲間を切り刻んだことがあるかなり」
「なんや、急におそろしいことを聞いてくるんやなあ」
「パパ、正直に答えてなり。まみりはまみりはもし、そうだったら、パパと親子の縁を切るなり」
横のソファーでジェスチャークイズを見ているダンデスピーク矢口がにかにかしている。
「まみり、まみりの悲しい気持はわかるでぇ。まみりはゴジラ松井くんとお似合いだったからなあ。でも、本当のことを言おう。
パパは金髪でホストみたいななりをしているけど正真正銘の発明家だ。発明家がそんなアホなことするか。
発明家というのは魚をさばいたり、鶏肉を切り分けたりなんてことは、よう、しない。機械油で手を汚しているものや」
「つんくパパは死ぬほど好きになった人がいたかなり」
まみりはダンデスピーク矢口を無視してつんくパパの方を見た。
しばらく、つんくパパは物思いに耽っているようだったが、昨日見た甘美な夢の世界を思い出すように話し始めた。
「パパもそんな昔があったがな。まみりのママと違う女の人を好きになったことがあったさ。ママと知り合う前のことやがな。
ママも死んでしまったからまみりに話してもいいやろう。その人の名前は府下田恭子ちゃんと言ったんやで。可愛い子やった。
しかし、府下田恭子ちゃんはもう死んでしまったんや」
「パパ、どういうことなり、もっと詳しい話しを教えて欲しいなり」
ダンデスピーク矢口は皮肉な顔をして笑っている。
「府下田恭子ちゃんはミュージカルが好きだった。パパと二人でニューヨークにミュージカルを見に行くことにしたんや。
ふたりで船旅をすることにしたんや、楽しい旅やった。
夜中にふたりでベッドに入って寝ていると急に船がぐらぐらと揺れ、船室の前の廊下を人が行き交っている。
パパは眠い目をして起きると府下田恭子ちゃんを起こした。船の中は大混乱やった。
その船旅にはここにいるダンデスピーク矢口もつれて行ったんやけどな」
老猿、ダンデスピーク矢口は歯をむき出しにして笑った。
「船の底に穴が開いたぞう。船が沈むぞ」
「パパはそこで府下田恭子ちゃんの手を取って甲板に上がって行った。
しかし、途中で府下田恭子ちゃんとははぐれはぐれになってしまったんや。
そのあとすぐに近くを航行していた貨物船にパパたちは助けられたんやけどな。
恭子ちゃんの姿は見つからなかったや。恭子ちゃんはきっと海の底に沈んでいるはずや」
つんくパパは沈痛な表情をした。
(小見出し)ほ-ちゃん く-ちゃん
 それからハロハロ学園にも平和が訪れた。あの隠密怪獣王が姿を消したわけだから当然だったが、
そしてハロハロ学園のヒーローモテモテゴジラ松井くんも三年馬鹿組の教室から姿を消した。
一階にある校長室の掃除を村野先生から頼まれた矢口まみりと石川りかは校長室の豪華なソファーに腰掛けた。
実は三人でこの部屋の掃除をしているのである。新垣はふたりがさぼっているのにもかかわらず窓のさんのところを雑巾がけしている。
ソファーに座っているふたりには背を向けている。
「探偵高橋愛、今日もハロハロ学園に来ていないみたいじゃない」
「探偵高橋愛はモータウンからレコードを出すと言っているなり、その準備で忙しそうなり」
「でも、まみり、探偵高橋愛もあんまりじゃない。あの女のためにゴジラ松井くんはハロハロ学園からいなくなったわけだしぃ」
「ゴジラ松井くんはどうしているなり」
まみりは遠くを見つめるような目つきになった。
「またまた、まみりはオセンチになってる。もう、ゴジラ松井くんのことは忘れた方がいいわよ。
まみり、人間と怪獣が結婚出来るわけがないなり」
「ゴジラ松井くんは怪獣じゃないなり。恐竜なり、まみりの大事な大事な初恋の人なり」
「まみり、あんまり思い詰めない方がいいわよ。テレビでもつけるわね」
石川りかはそう言って校長室の少しだけ立派なテレビのスイッチをつけた。
まみりも石川もそのニュースにあまり興味がなかったのだがその内容はびっくりするものだった。
つい一週間前にアンデス山中から超古代マヤ人が掘り出され、
彼らが息を吹き返したという信じられないニュースを聞いたばかりだったが、そのふたりの超古代マヤ人が姿を消したというのである。
「まみり、あの超古代マヤ人が姿を消したんですって」
ブラウン管の中では超古代マヤ人の研究者でもあり、通訳でもある日系南米人の徳光ぶす夫が涙ながらに訴えている。
「ほーちゃん、戻って来ておくれ~~~。くーちゃんも戻って来ておくれ~~~」
「勝手に超古代マヤ人に名前をつけているわよ。この男」
石川りかがブラウン管に映っている日系南米人に向かって指さした。
「もう、狂言を仕込んだりしないから」
やはり徳光ぶす夫は涙目である。
「まみり、この男が超古代マヤ人に狂言を仕込もうとしたから超古代マヤ人は嫌がって逃げちゃったのよ」
「石川、あれ、あれ」
まみりは石川に窓の方を見るように目で合図した。さっきまで新垣が窓のさんを掃除していたはずだと思ってその方を見ると、
新垣にそっくりの、それでいて新垣よりも少し年をとっている毛だらけの顔をした人間がこちらを見ている。
最初新垣だと思ったのだが新垣は向こうを向いている。彼らはまみりたちのわからない言葉で何か話している。
まみりと石川がそのそばに行くとその侵入者ふたりは首を引っ込めた。
まみりと石川は新垣のところに行き、窓の下のところを見たがその姿はもうなかった。
「あんた、誰かと話していたでしょう」
石川が新垣に詰問した。
「嘘を言うとためにならないなり」
まみりが新垣の肩を持って激しくゆさぶった。新垣は首を振る。新垣の目は涙目になった。
「まみり、前のニュースで言っていたじゃない。
あのふたりの超古代人はハロハロ学園に自分たちの子供がいるって、それで会いに来たのよ」
「でも、どうやって会いに来たのかなり。何千キロも離れているなり」
そのとき新垣のまわりは無重力状態になり、ふらふらと新垣は空中に浮かぶと窓から外に出て行った。
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