近ごろ、ポピュリッチなる聞き慣れない言葉が飛び交っている。意味を知ればなるほど聞き慣れないのも当然で、今まで、いやこれから先も小生の人生には無縁の言葉であるからだ。日経流通新聞が名付け親のようで、なんでもポピュラーリッチという新興勢力のお金持ちたち、「新富裕層」を指すらしいのだ。このような紳士淑女の御歴々は、豪華クルーザーやお城までお求めになるというのだから、いやはやなんとも、あるところにはあるものだ。


今読んでいる『文士のいる風景』に数多くの文士が登場するが、その多くが慎ましやかな生活を送っている。稲垣足穂も登場するが、彼の作品『少年愛の美学』が新潮社の第一回日本文学大賞を受賞したときの逸話がオモシロイ。受賞で得た賞金百万円の使い道について、「二人の孫にオモチャの汽車か自動車を買ってやれ。俺には床屋の五百円と風呂賃を呉れさえすればよい」と言ったとか。足穂の生き様を垣間見ることができるようだ。小生のような俗物が足穂の域に達するのは難事であろうが、そんな生き方を選べることに羨ましさも感じるのだ。