篠山紀信さんの訃報に触れて、時代の鬱来を感じた。4日に、老衰でご逝去されたとのこと。享年83歳。
今回の画像は、私が実際に所有している彼の有名な写真集である。1979年に発売され、毎日芸術賞を受賞したという、お宝の写真集だ。
買った当時は、できるだけ折り目もつけないように大切に扱い、何度か見てからは丁寧に収納しておいた。コロナ禍中の大片付けで出てきた際には、その程度の良さに我ながら驚いた。買取相場を調べてみたら、かなりの金額だったので、よし、絶対に売らずに大切に保管しておくぞと固く決心したことを覚えている。
しかし、発見した際(2年前くらい?)に久しぶりにページを開いてみたら、悲劇が発生した。繋ぎ目の「のり」が劣化していたのだろうか、パキパキという不穏な音と共に、ページの根元がかぱっと開いてしまったのだ。図書に詳しい方なら、状況がわかるのではないかな。
そのまま次のページをめくれば、本が崩壊することは明らかだった。私は、開いてみたページをそっと閉じた。他のページを見ることもせずに、再びしまいこむこととした。
彼の作品は様々な物議も呼んだが、演出というポイントが幅広い世代から受け入れられて、評価もされていたのではないかとも言われている。音楽の世界に例えてみれば、私はアレンジに興味を持っていて、自らの演奏やバンド演奏でも演奏者の個性や実力に応じた演奏アレンジをしようと心がけており、常にそのことを意識している。この、音楽演奏におけるアレンジという演出方法と、写真におけるレイアウトや被写体の活かし方という演出には、大きな共通点が感じられるのである。
また、篠山さんは女性を撮影するカメラマンという認識を持たれがちだが、実は彼は、女性だけではなく、家、食、歌舞伎、テーマパーク等、国内外で365日撮影をしていたという。彼にとっては、女性の撮影ですらも、自然にあるものを写しただけという認識だったようだ。
あと、これはよく言われることだが、彼は自身の撮影に関しては利害関係や役得を嫌い、中立性と客観性を保ち続けた。つまり、公平・平等であり、安全・安心、そして、明るく朗らかであることによって被写体の気持ちを開かせることができたからこそ、評価の高い優れた作品が多数残されたのだろう。これは新聞の記事で読んだが、彼にシャッターを切られると、みんな気持ちが楽になったのだという。こんなカメラマンは、2度と現れないのではないか。
70年代、80年代を代表する、スーパーヒーローであることは間違いない。彼自身の存在が、メディアそのものだったのだ。
音楽を愛好する私としても、人との関わり方という意味で、とても参考になる点が多い。周囲に嫌な思いをさせたり、危険と思われたりするような言動を慎み、関わった全ての皆様から敬愛されるようなミュージシャンになりたいものである。還暦は控えているが、まだまだ修行の途中である。
篠山紀信さんのご冥福を、心からお祈りいたします。

