映画館(1)私の育った町にはすぐ近くに映画館が3軒もあって、小さい頃は見知らぬ大人の横についてこっそり忍び込んだものです。目当ては映画館売店の駄菓子。でも時々はおもしろそうな映画を大きな椅子にすっぽり納まって薄暗い映画館の中で、まるで岬から遠くの海を眺めるような気分で見ていました。映写機の音と埃を浮かび上がらせる映写光の帯。そして脳裏にくっきりと刻み込まれた「東映」のロゴマーク。三角岩に砕け散る波のかなたから、東映の三角マークが迫ってきます。