『困ったな・・・』
【スペイン階段】の上のテラスからの1本道を
どんどん進むと【ピンチョの丘】にある
【ナポレオン1世広場】と名付けられた展望代に着く。
この展望台からは【ポポロ広場】を見下ろすことが出来る。
道中、右側に見える【ボルゲーゼ公園】にも少し
立ち寄りながら展望台までゆっくり歩いて来た。
「バビントンティールーム」でだっぷり紅茶を飲んだ後、
寒空の中を延々歩いたからか、もよおしてきてしまった。
『何処かトイレないかな?』
見渡すとトイレの標識が目に入った。
『よかった~』っと思い標識の矢印の方向へ
坂の小道をくねくね下って行くと・・・
「あった!」っと思ったのも束の間、
何と?!トイレの扉は鍵がついて閉められていた。
グルッと周囲を回ってみたものの、
入ることはできないようだ。
「どうしよう・・・」
このまま道を下って行ってもトイレはなさそうなので、
元来た道を戻ることにした。
【ボルゲーゼ公園】にならトイレがあるかもしれないが、
広大な敷地内の何処にトイレがあるのか?
あったとしても、また扉が閉められているかもしれない。
それを承知で探し回る余裕は私にはなかった。
こうなったらトイレのあるお店に入るしかない。
だがヨーロッパの場合は、日本やアメリカの様に
デパートやスーパーマーケットがそもそも余りなく、
街中でトイレのあるお店を探すのは
とても大変なことなのだ。
しかも展望台からお店がある通りに出るには、
さっきとは別のくねくねした坂道を下って行くしかない。
実はこの時点で結構きわどい状態だったので、
あまり刺激を与えないように小走りで坂道を急いだ。
途中何度か『木の陰や茂みにかくれて・・・』
と思ったが、何とかこらえた。
あまり考えないようにするのだが、生理現象は
いやがおうにも迫ってくる。
下っていくにしたがって、木陰や茂みが無くなってきた。
『こんなことならさきっきの木陰でやっちゃえばよかった』
とさえ思えてきた。
大きめのカーブの辺りまで来ると、
水は出ていないが、大きな箱石の様な噴水があった。
『あっ、もうダメだ』と思い、お恥ずかしい話だが
『石の陰に隠れてやってしまおう!』と本気で思った。
それくらい切羽詰まった状況だったのだ。
周囲に人影はなかったが、まだ少し高台なので、
カーブの反対側の建物から『見えてしまうのでは?』
と思い、ギリギリのところで大胆な行動に出ることは
何とか思い止まった。
しかしここまでくると、もう走ることさえ出来ず、
できるだけ静かに大股で歩くしかなかった。
もう我慢の限界はとっくに超えていた。
『いよいよもうダメかも・・・』
っと思った頃、やっと【ポポロ広場】に続く
大きな通りが見えてきた。
『あとちょっと』と我慢に我慢を重ねて
一番近くのバールに駆け込んだ。
だが全てのバールにトイレがある訳ではない。
『お願いだからあってちょうだい』
っと、すがる思いでカウンター越しの店員さんに
「トイレ?」と聞くと、無言でお店の奥を指さした。
本来は注文してから行くべきだが、
そんな余裕はとてもなかった。
本当は駆け出したいくらいだったが、
ここまでくると少しの振動でも危険な状態だった。
周囲の人達にはそこまで緊迫した状態だということを
悟られないように平静を装って、静かにトイレに入った。
この時は体の中心に棒を突き刺され、
脳天から天空に引っ張られる様な感覚だった。
気を失って「バタンッ」と倒れても
おかしくないくらい我慢の限界だった。
やっとトイレに入ることができて
「ホッ」とするかと思いきや、
ここからも大変だった。
便座に座ろうと少しかがむと
「パキッ」と腰が鳴ったような気がした。
『このままの勢いで座ったら、
ぎっくり腰になっちゃうかも?!』
っと思い、両手を壁に当てて体を支えながら
そーっと座った。
実際、腰も膝もバキバキに固まった様になっていた。
何とか便座に座ることができたので
『ここでやっと・・・』と思いきや、
あんなにもよおしていたのに何と?!出ないのだ!
目を閉じてゆっくり少しづつ息を吐くとやっと
「チョロチョロチョ・・・」
「は~っ」
全身の力が抜けていく感じがした。
と同時に「ジュワーッ」と
熱いお風呂に入った時の様な解放感があった。
自分では意識していなかったが、寒さと我慢で
体が相当硬直していたのだろう。
そう言えば、ウィーンで湯舟に浸かって以来、
かれこれもう1ヶ月以上お風呂に浸かっていなかった。
毎日お風呂で温まることが出来たら、
きっと体もこんなにパキパキにならなかっただろう。
シャワーはリフレッシュできるが、
お風呂に浸かった時の様にリラックスできない。
西洋人は日本人のように自宅で入浴する習慣がないが、
「湯舟に浸かることは身体にいいことだ」
とつくづく思った。
そしてトイレに関しては、
「我慢をしすぎると、勢いよく出してスッキリする
ことは出来ない」のだと学んだ。
ベルリンで体験した
「本当に喉が渇ききると、飲み物を口にしても
がぶ飲み出来ない」と学んだのと同じくらい
どちらも体に良くない学びではあるが・・・・・
海外のトイレ事情は良くない。
この後の旅でも特に後進国やヨーロッパでは
何度かトイレで大変な思いをした。
「我ながらよくここまで我慢したと思う」
この時が、海外のトイレで困った
はじめての体験だった・・・・・