家に帰ろう。 | ママ、わたしは生きていくよ。

ママ、わたしは生きていくよ。

バリキャリ母と、平凡娘ひとり。
母子家庭を襲った母の癌。
闘病3年9か月で風になった母。

母の知らないわたしを徒然したためます。

荷物がすっかりまとまって

あとは葬儀社からの迎えを待つのみ。

 

  ママ、家に帰ろう。

  ずっと帰りたかったよな。

母の冷たい手をさすった。

 

母と一緒にいたいけれど

ジッとはしてられなかった。

 

眩暈のせいで派手にこけて

よろけてばかりなのに止まっていられない。

 

  荷物、、、車に積んでくるわ。

大量のトートバックを両肩、両手に下げ

歩いて10分の駐車場へ向かった。

 

外に出ると土砂ぶり。

 

  そうやった。

  ママが嵐やって、言ってた・・・。

 

そう呟きながら構わず歩き出す。

濡れることも

その後のことも考えられなかった。

 

ずぶ濡れになって車に着いたとき

叔父から葬儀社の到着を告げられ

  もう、、効率よく動けてないやん、わたし!

自己反省しながら慌てて踵を返す。

 

地下の霊安室に移動していた母は

主治医から病院からの別れを言われ横たわっている。

 

生きていたら

なんやのん、こんなわざとらしい儀式!

なんて言いそうだなぁと思いながら眺めていた。

 

雨なのか涙なのか汗なのか

わからないものが頬を絶えず濡らす。

 

黒い長い車に乗りこみ

病院を後にする。

 

もう夜の10時前。

真っ暗な道をこんな形で母と家路につくなんて。

ぼんやりしていると、ふと気づく。

 

あ。わたしもうここには来ないんだ。

 

決して病院通いが好きなわけじゃなかったけれど

3年続いた習慣が途絶える。

母がもういないことを突きつけられた感じがした。
 

外を眺め涙をぬぐった。

 

 

家の前にはもう親友が傘をさして待っていてくれた。

 

  中に入っててくれていいのに。

力なく笑うわたしに「ええから」と言ってくれる。

 

なんだか思考回路がうまく回っていなかったわたしは

車のカギを叔父に託したときに

家の鍵も一緒に渡していた。

 

あーあ。しっかりしてよ。と自分を叱責しながら

夫がいるんだからと扉をあけようとすると

カギがかかっている。

 

明かりがついているのに

1階に人の気配がない。

チャイムを数回鳴らすと

階段を駆け下りてくる音がする。

 

夫はパジャマを着て2階でもう寝ていた。

 

母を連れて帰るから片付けをお願いしていた。

目の前に広がる家の中は

ムスメーズのおもちゃ

お風呂上がりのバスタオルが3枚床に点在し

3人分の洋服が 食器が

それはもう人様を迎え入れられる状態ではなかった。

 

そうやった。

わたしの現実をすっかり忘れていた。

 

遠路はるばる来た親友には申し訳なかったけれど

  Y子、ごめん、頼む。

 

そう言って2人で片付け

母を寝かせられるスペースを作った。

 

「ほんま、なんやのん」

母のため息交じりの声が聞こえた気がした。

 

無事母を迎え入れ

叔父夫婦といとこが到着。

12時まで叔父とわたしとなぜか親友とw

葬儀の打ち合わせをした。

 

土曜日が終わった。

 

夫は早々に就寝し

親友Y子と少し話して

Y子に着いた早々の無礼を謝って寝てもらった。

 

ママとふたり。

 

やっとまっすぐ上を向いて寝られるようになった母。

 

祭壇があるだけで

ただ寝ているだけじゃないかと

思わせるような穏やかな表情になっている。

 

  ママ。

  ママ?

母の頬にもう一度触れてみた。

 

驚くほどの冷たさに背筋が凍った。

硬くて冷たくて動かない。

 

結局我慢できずに朝5時まで泣き続けた。

疲れ果てているのに、

寝ることなんて出来なかった。


母の側に行っては泣き崩れてはなれる。

それでも母の側にいたい。

もしかしたら息を吹き返すかもしれない、

そんな妄想に取り憑かれながら

子供のように泣くことしか出来ない。

 

家に帰ろうって言ったけど

こんなんわたし やっぱり嫌や。


ほら、ママ。

ママがおらへんかったら、わたしひとりやん。

 

ひとりでないとさらけ出せない本音を

もう答えてくれない母に浴びせ続けた。