「甘く見過ぎている。職業柄渡辺さんもストーカー被害や性犯罪は目にしてきてるだろ」


はい。というか、一方は当事者です。…とは言わない。

知っているから大丈夫だと分かっているんです。…とも言えず檜山さんを見たまま黙っていた。


「男嫌いなら俺も嫌だろうけど事情を知ってるだけマシじゃないか?俺を盾にして受けるストレスや危険を回避すればいい」


「待ってください。私は今はもう男嫌いというか、男の人に対して普通にできています。4年前に檜山さんにしてしまったという態度はもうしていませんし、昔ほどストレスもないです」


今は普通にできている。これだけは言っておきたかった。

私に男の人への苦手意識はある。けれど昔ほど酷くはない。


私だって無駄に歳を取ったわけではないのだ。ベテラン事務員にしごかれて辛かったけれど精神面は鍛えられた。そして法律事務所ということで事件や事故を多く目にしてきた。そのお陰で自分の過去を俯瞰できた。善し悪しはともかく、私みたいな過去はよくあることで特別なわけではないと諦められた。だから昔みたいな男の人への拒絶は出ていない。


「…男嫌いはもうないってこと?」


「…はい」


「外回りの業務が加わって男と話す機会が増えてキツいんじゃないのか?俺は渡辺さんの服装の変化よりも、最近表情が固くなっている方が気になるけど」


「歩き回るという運動量が増えて体力的にキツいだけです」


男の人の苦手意識は消えない。でもそれはここで言ったら負ける気がした。


「男嫌いはないんだな?」


そう檜山さんは再び繰り返す。


「そう言っているじゃないですか。そうじゃなかったら檜山さんと二人だけで食事になんて行きませんよ!」


同じ質問にむきになって答えた私に、檜山さんはじゃあと言って私の目を強く捕らえた。


「建前抜きで言う。お前が好きだ。恋人になってほしい」


…今度は、声が出なかった。






===============


最初の1ページ目はこちらです

⇒ 1-1 過去と決意