「いや、渡辺さんの会話は聞き上手なだけ。それを勘違いをするのは奴の方がおかしい。俺が休憩室で言いたかったのは、会話の方法とかじゃなくて、男からの誘いの断り方」


食事を終えた檜山さんはお水を飲むと腕時計の時間を見た。


「さっきも言ったけど、 どうせつくならもっとそれらしい嘘をつけって事。クライアント先だからはっきり断れないのも分かるけど」


「...そうですね。でも田村さんは多分もう大丈夫ですよ。檜山さんが現れたときに顔色変わってましたから。田村さんのところはいつも他に社員さんがいますから私が訪問しても二人きりにはならないし」


私も食事を終え手を合わせてごちそうさまでした、と言った。


「じゃあ帰るか。駅降りたらコーヒー付き合って」


「駅を降りて?」


事務所の最寄り駅近くのお店に入ったのでまだ帰りの電車には乗っていない。


「多分、渡辺さんと俺、家の最寄り駅は一緒」


「え、××駅なんですか?今まで一度も会ったことないですね」


今のマンションに引っ越して1年は経ったけれど一度も駅で檜山さんに会ったことはなかった。帰りの時間帯が違うのは分かるけれど、朝は一度くらいあってもよさそうなのに不思議だ。


檜山さんは席を立つと私を促し店を出た。





檜山さんの提案はいきなりだった。


家の最寄り駅で降りてその駅ビルにあるチェーン店のコーヒーショップに入った。檜山さんはコーヒー、私は紅茶を持って横並びの席に着くと、体を少し私の方に向けた檜山さんがいきなり言ったのだ。


「渡辺さんの恋人、俺にしといて」


「は?」


思わず素の低い声が出てしまった。その声と驚いた私の顔が変だったのか檜山さんはくっと笑い声を上げた。


「渡辺さんの恋人を俺に...」


「聞こえてますっ。何ですかいきなり」


私は背中を引いて横に座る檜山さんから離れた。固定されたイスだからイスごとは離れられない。





===============


最初の1ページ目はこちらです

⇒ 1-1 過去と決意