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やまのぼり⑫槍ヶ岳北鎌尾根2010/10/9~11(2日目中巻)

最初は少しだけでした。





上空を覆っている雲の切れ目から射し込んだ日光は、
あっという間に厚い雲を掻き分けて、
一気に気持ちのよい秋空に装いを変えてしまいました。






リーダーの予言は見事的中。
さっきまでの煮え切らない気持ちも、
もうどっかに息を潜めてしまいました。






あれだけ葛藤した分、迷いは一つもありません。
遅れた分を取り戻すべく勢いよく沢へかけおります。






photo:09









へたれてた自分が嘘みたいにエネルギーが湧いてきました。






今の僕ならアンナプルナくらいならいけんじゃね?
ってくらいいい気にもなってきます。







天候の好転がよい山行を予感させる事も大きいですが、
何よりもその時の僕は興奮してました。





憧れの場所にいること。

あの状況から前に進めたこと。

未知のコースに進めること。

北鎌に挑む自分に酔っていること。

状況が好転していること。






僕の経験上、ハイになってるときはリスクが見えてないだけです。
そんなに続く筈もない唯一のハイな時間は、
それでも僕の身体と気持ちを解してくれ、
一気に距離を稼ぐ事が出来ました。







photo:03








☆行程☆
槍沢小屋跡~(水俣乗越0915~北鎌沢出合1045)~北鎌沢コル~P8~P12






まずは北鎌沢出会への到着がミッションになるんですが、
枯れた沢やら現役の沢やら枝分かれした箇所に気をつけて、
ひたすら岩場を進みます。





難点は普通の登山道みたいに整備されていない事や、
通る人がそんなに多くない事から、結構浮き石やもろい岩が多く、
意外と歩が進みません。







普段の登山道なら安心して体重を乗せられるような、
身体くらいある岩が突然滑り落ちたりします。
今まで誰も踏んだ事がなかった岩だったんでしょう。









当然、看板など無いのでコンパスと地図を便りに歩くんですが、
簡単な直線さえも不安になって何度も地図を確かめる為、
徐々にスピードも落ちてゆきました。










はい。







無敵タイム、終ー了ー。






なんか、






あれやね






テンションが上がった後は、
一気に気分がなえますね。







天候のせいもあり、今回は異常に人がおりません。
前を見てもひとっこひとり見当たりませんし、
この時間から登り始める人もいる筈がないので、
今日はさっきのパーティーを除いて僕1人でしょう。






急にさみしくなってきました。







そういや今回の山行でまともに会話したのはリーダーくらいです。







あんだけ甘えない頼らないって豪語してましたが…







休んだふりして待ってみようか。





だって、
さみしいんやもん。






photo:08








30過ぎのおじさんに求められて可哀想ですが、
ふと、後ろが気になりました。







あれだけ必死に進んだんでもうちょい差をつけたかと思いきや、
彼らはすぐ100メートル後ろにいました。







パーティーは先行2人にその後を5人が一列で進んできます。
トップはリーダーがとって足場を確かめながらルートをとっており、
後方は1人がビデオで撮影し、その後ろをサブリーダーみたいな人が
皆をチェックしながら結構なペースで歩いてきます。






やつら、やっぱり玄人ですよ






ぼくは休憩のフリをしながら彼らを待ちます。







ふと、水俣乗越での変な空気を思い出しました。






彼氏との待ち合わせに先に着いちゃった女の子ばりに
待ち遠しい気分の自分が、急に恥ずかしくなります。
だって、彼らを待って何をするわけでもないですし、
さっきは冷たくされましたから。







あたいは、そんなに安い女じゃない!







ゼッタイあたいからは声かけないんだから!







ツンデレでいく事に決めました。







そして彼らはやってきたんです。












リーダーは他の隊員を先に行かせ、僕の側で立ち止まりました。








「ここ、初めてですか?」






「は、はい」ドキドキ






「初めてで、単独…ですか。」






「は、はぁ…」ドキドキ







「今年、もう、単独の人が二人も行方不明になってます。」







「…は、い?」ドキ







「気を付けてください。」







「…は」







リーダーは少し怪訝そうに言葉を吐き捨て、さっさと先へ行ってしまいました。







「…」







少し呆然としてしまいました。







優しい言葉を期待した僕が馬鹿だったんです。







例えるなら…






「やることやったし帰ってくんない?
おれ1人で寝たいんだよね」







といい放たれた女の子の気持ちです。
















くやしい










それはもう、必死で後を追いました。
僕だって小さなプライドがあります。






君らのペースは余裕だぜ!
くらいに着いてってやるのがせめてもの意地です。






実際はなりふり構わず着いて行くのがやっとで、
つまずいたり、川に落ちかけたり、
それはもう、無様な姿だったと思います。





パーティーも僕が必死で追ってたのは気付いてたみたいで、
リーダーの彼女的ポジションの娘がチラチラ後ろを気にしてくれてました。






ちょうど水俣乗越を出てから1時半くらい、
急にパーティーは足を止めました。






辺りにはいくつものケルンや焚き火跡があります。
どうやら、いつの間にか北鎌沢出合に着いちゃったみたいです。






パーティーは荷物を下ろして休憩に入る様子でしたので、
同じ場所で休憩するのもあれなんで、少し先まで行くことにしました。






photo:06








さっきは意地になって追いかけちゃいましたが、
同じ時間を共有しただけあり、もう、僕は勝手に
仲間の気分になってました。






後から彼らの足取りを見てると、
長いキャリアを感じる事ができ、
逆に尊敬するような気持ちさえ起きていました。






自分が歩く方向に地図を広げます。
今後は北鎌沢出合にぶつかるその沢を登って行くルートです。
遂にここから北鎌尾根へとりつく訳ですよ。










そのなかなか勢いのある沢は、5メートルくらいある岩の上から
水が流れて来ています。


 


これ、あがんの?





地図あってんの?






うーん。
5分は見上げてました。
今までのコースではこんな道がないとこは行きませんし。






とりあえず上がってみるかなぁ…











「ここ、右から巻けばいいですよ。」






リ、リーダー?!
いつの間にか、彼は傍に立っていました。






「この上を少し登ると、沢が二股になります。」





(リーダーもツンデレなんだろうか?)





「そこで気をつけなきゃ行けないんですが、
 その二股の右の方は今の時期は水量が少なく枯れたようにみえますけど、
 よく見ると少しだけ水が流れてます。」






「は、はい」






「本流が左に伸びてるんで、二股に気付かずにそのまま左の沢をのぼって
 く人が結構いるんですが、左を無理に登って行くと、最悪、滑落か遭難します。」






「え?」






リーダーが教えてくれたのが有名な最初の二股でした。
僕は事前に集めた情報ではそんなに水量が減ってるとは知らなかった為、
多分、一人だと左俣と気付かずに登ってたでしょう。





なんか、すごく嬉しくなりました。





はじめて僕から話しかけます。





「今日は、どこまで行くんですか?」






「…いや、僕らはここまでです。」






「へ、そうなんですか?」






「今日は仲間を追悼しにきたんですよ。」







「…え?」







「4月に遭難して、やっと先日みつかったんです。
 だから、みんなで来ました。」







思い出しました。
5月に北アルプスデビューした際に、現地での張り紙や、
ネットでの写真で、一時すごく騒がれていました。






多分、あの時期に登った人はみんな知ってると思います。






「彼はあの左俣から登って遭難しました。
 その先のから無理矢理尾根に取り付こうとしたんだと思いますが、
 そこで滑落したみたいです。」




何度も北鎌尾根を単独で登っているようなベテランだったそうです。
故意に左俣を登ったのか、道を間違えたのかは
今となっては解りませんが、ここはベテランでも死んでしまう場所だって事です。





リーダーはそんな仲間に重ねて、単独の僕が気になってたらしいです。















その岩を登りきると、目の前には大小の岩と沢でできた、
結構な角度のダンディーコースが尾根に向かって伸びていました。
自分の知るような登山道はどこにもありません。





最後にもう一度振り向いて、ベテランパーティーに手を振ります。
今度はみんなあったかく見送ってくれました。





リーダーが言うには、最初の二股を超えた後もいくつも二股が出てくるが、
尾根の沈んだところ(北鎌沢のコルと天狗の腰掛けの間)を目安に
ひたすら登れば良いらしいです。





さぁ、ここからは本当のひとり。





時間は11時前。





煙草に火をつけて北鎌尾根を見上げます。





むふふ





これからの山行を考えると、わくわくしてしょうがない。










2日目後半へ続く


photo:10











やまのぼり⑫槍ヶ岳北鎌尾根2010/10/9~11(2日目前半)

目を開けているのか閉じているのかも曖昧になるくらいの暗闇でした。




ふいに目の前に現れたまん丸の白い塊は、
さっきからテントの中を右へ左へと駆け回っています。




キャッキャキャッキャの声が聞こえてきたお陰で、
もう朝で、それが誰かのヘッドライトが射し込んだ光だって事に気がつきました。





愛用のプロトレックを見ると時間は5時前。
いつもの時間の感覚と外の暗さが一致しないため、
息を潜めて外の様子を探ってみます。




小さくて多い雨の音。




考えてもしょうがない。






ガスバーナーに火を入れてテント内を暖めつつ、
朝ご飯の用意をします。


ゆっくりとラーメンとカレーを平らげた後、
20分ほどかけて濡れた服を着る決心をしました。



photo:10


(注)カメラ破損のため参考写真




外に出てみると、すぐ隣の3:3のコンパパーティーが山を降りる準備をしてました。



このテン場は、槍ヶ岳へ向かうコースのテン場でもある為、
わいわいがやがやな人も沢山います。




ベテランのパーティーは凄いですよ。
まるでどこかの特殊部隊です。


音もたてずに、無言で支度して、
あっという間に闇の中に消えていきます。







今日は大半のテントがまだ残っていました。



雨が落ち着くのを待ってる方が多いみたいです。





僕もしばらく小雨にうたれて考えます。






とりあえず行けるとこまで行こう。






photo:11







☆行程☆
槍沢小屋跡~水俣乗越~北鎌沢出合~北鎌沢コル~P8~P12





今回の山行の概要は、2日目の北鎌倉尾根の11時間コースに向けて、
1日目にどこまで行けるか?がキーポイントでした。


①上高地から距離を稼ぐ
②北鎌尾根(メイン)
③槍ヶ岳からバスまで


欲を言うと、水俣乗越を越えて北鎌沢出合あたりで一泊をするべきでしたが、
諸々の事情から乗越まで2時間手前のテン場までしかいけませんでした。



ついに2日目スタート。





photo:12








小雨だって、人が少ないのだって、昨日の夜に比べたらましです。




テン場を出で小1時間くらいで、ニコニコ槍ケ岳コースから、
ダンディ水俣乗越コースへの急登がはじまります。



位置としては、横尾から槍ヶ岳までの一般的なコースと、
尾根を通る見晴らしの良いコースを突っ切る格好です。

ここは地味に辛いです。




photo:13


(注)カメラ破損のため参考写真




尾根に上がる手前くらいには、雲の切れ間から久々の青空がのぞめました。
雨もスチーム状になり、暑くなってきた体に気持ちよいくらいです。



山に登り出してからよく感じるんですが、ほんと太陽は偉大です。
彼がいるだけで一気にモチベーションが上がります。

なんか今日はイケる気がしてきました。



テン場から2時間程。
なんとか、今日のスタート地点の水俣乗越に到着しました。



荒々しくて、雄々しくて、かっこいい。



今まで何度も妄想した北鎌尾根は、悠然と目の前に姿を現しました。



ここが憧れたきたかま!
文太郎の終の場所!




ミーハーなぼくには感涙ものでした。






でもここは尾根で、
天候の変わりやすい山です。




ものの数分で雲が再び空を覆いました。



急に沢から吹き上げだした風が、
あっという間に僕の気持ちと体温を持ってっちゃったんです。



行くか行かないかはここに来て考えようとしてた僕は、
ここでやっと現実と向かい合いました。




photo:14


(注)カメラ破損のため参考写真






ひとりはあぶないだろ?

じかんがたりないだろ?

ぬれたふくしかないだろ?

くらいみんぐなんかできんやろ?

そうなんするよ?

かえってよくない?

きょうはあんぜんこーすでよくない?

ごはんもたりんやろ?

どうせあそびやろ?

よくがんばったやろ?

あめふっとうやろ?

いくきはあったやろ?

みんなきょうはだんねんしとうやろ?

にげてもだれもみとらんよ?

しぬかもよ?




弱音が一気に転がり出します。

北鎌尾根に向かう一歩が出ません。




行きたいけど行けない。

その時の僕は、憧れと、意地と、弱音と、軟弱さに、
完全に混乱してしまいました。




自分の中の決断を待つために、しばらく休憩する事にしましたが、
寒さを凌ぐ為のバーナーに火を着けようにもライターが湿って着火せず、
濡れたウェアは体温を奪うばかりです。




結局、震えながら30分は体育座りをしてました。




時間は9時過ぎ、もう、このコースではあり得ない時間帯です。







そんな時です。
彼らがやって来たのは。





男女4.2のコンパパーティーが楽しそうな声を上げながら現れました。





すかさず見栄っ張りな僕は体操をしてるフリをします。




単独行はクールでハングリーであるべし!
僕は、彼らが行くまでは北鎌を狙う猛者でなければいけません。




しかし、驚いたことに彼らは同じ場所で準備を始めました。





へ?

このまま槍に向かうんやなくて?





よく見ると装備も慣れた人が選ぶものを着けており、
いい具合に使いこんだ感じです。
そう、同年代のベテランさん達も北鎌尾根に向かう様です。








「今日は単独ですか?」





不意にその中のリーダーらしき人に声をかけられました。

まさか声をかけられると思ってなかったので、
慌ててアホっ面をキリリに直して答えます。




「へ、へい!きょ、きょうはさむいですよね!」



あきらかに噛み合ってない答えにも、
リーダーは優しく笑顔を返してくれます。



「午後は晴れるみたいですよ。この時間からだと、途中でビパークですか?」




そう、初めの一歩さえ踏めなかった僕には考えも及ばなかった、
今日の僕に必要な情報がそこにありました。


午後は晴れ。
もうビパークする必要がある時間。



さすがリーダー!
(リーダーかどうかは不明)






photo:09


(注)カメラ破損のため参考写真





で、僕は言ってしまいます。




「いや、今日中に槍までいくつもりです。キリッ。」





また、見栄はっちゃいました。





この時間から槍まで行くのは、
ベテランタイムじゃなきゃ無理です。
ってことは、それを言いのけた僕はベテランかバカのどっちかです。




場の空気が少し変わりました。

そのパーティーの会話が一瞬止まりました。




あれ?

まずいこと言ってもうたか?




僕はいたたまれなくなって、すぐに準備を済ませます。



さっきまでヒヨってた僕が言うべきでは無いですが、
僕が単独で登るのは自分と向き合うためだし、
人に甘えずに達成するためです。

経験不足や無謀なのは自分で十分理解してるつもりなんで、
心配なんかされたくなかったんです。



心配されたくないための見栄ですが、
山家さんにとって非常識な事を言っちゃったのだろうか?




あれだけ躊躇してた一歩が、すごく軽く踏み出せました。

形はどうあれ、彼らのお陰でなんとか念願の出発ができたんです。



「では、先に行きます。」








猛者っぽいスピードで砂利の斜面を駆け下りました。



ここはかっこよく駆け抜けるべきですが、思った以上の斜面で何回かこけてしまいました。

やはり、そこはおれ。
なんちゃって猛者という事もばれちゃたでしょう。





ようやく、僕のなんじゃく単独行ミックスルートデビューが始まります。
随分引っ張りましたが、実はこっからが本番なんです。






でも、少しだけ気掛かりでした。






リーダーはなぜか寂しそうな表情で送り出してくれました。






沢へ降りながら、それだけが気になっていました。










photo:16


(注)カメラ破損のため参考写真

2日目後半へ続く

やまのぼり⑫槍ヶ岳北鎌尾根2010/10/9~11

最近の煩雑さも一旦落ち着き、やっとひと月ぶりに山に行けます。
やっぱり、たまに登らないとストレスが抜けない。


今回は



ついに



ついに!



登山をやりはじめた人なら誰もが憧れる槍ヶ岳北鎌尾根ぞーーーーーー。




photo:05






通常は、山を始めて数年してから先輩に連れられて、思い切り怖がりつくすコースです。
当然、ザイルを結んでじっくり楽しむものですが、今回は、無謀にも単独でチャレンジします。





だって、この山行でしばらく山はお休みです。
中小企業診断士の勉強に入る前にここをクリアする事が、願かけの意味もあり、
チャレンジングでなければいけなかったんです。





ここは、数々の登山家の終の地として、小説の舞台にもなるようなコースで、
昭和の時代にはこぞって冬期の登頂が注目された日本の三大岩嶺の一つです。





当然看板などない為、経験が乏しい僕はルートファイティングが重要な要素となります。





特に稜線の取りつきまでが難しいらしく毎年遭難者や死亡者を出すとの事から、
事前にネットを使って情報を収集してみました。




しかし、山行の情報は多少盛った方が面白い為か、怖い情報ばかりがクローズアップされており、
無知な僕にとってはただ恐怖を煽るだけでしかありません。





先に注射を打った友達に「痛い?」って聞く様なもんです。





ちなみに僕はニヤッと不敵な笑みを返して、「痛いよ」って言う、
憎たらしい系男子だったんですが。





☆行程☆
1420上高地~明神橋~徳沢~横尾1730~槍沢ロッジ~槍沢小屋跡2000(テン場)





三連休の初日、朝7時発のバスにて東京を脱します。
毎度の事ですがまたも睡眠無しで出発です。
小学生の遠足の前日か!





予定より2時間遅く、昼の2時過ぎに上高地へ到着。
渋滞上等の連休のバスは、考え直したた方がいいみたいです。




photo:06


photo:07






さて、一番心配した天気は見事に外れまして、3日中2日まで雨マーク。
日頃の行いがどんだけ悪いのやら。




それでも山の天気は気分屋さんなので、晴れる奇跡に期待をしつつスタートしました。




穂高行きと槍行きを分かつ横尾までは慣れた道です。



ほぼ平坦な道なんで、すいすい、どんどん、進んでいきます。


photo:09






ただ、雨がすごいのと、時間からか、もう登ってる人はほぼいません。




寒くなって寄った横尾の山小屋では、みんな、今日はここまでだねぇって
暖をとっておられました。
再度、山小屋の人に天気を確認するも、天候は変わらず。


あんぱんを頬張りつつ、完全雨装備に切り替えました。




photo:08







ここからの出発は、とても後ろ髪をひかれましたわ…



この段階で既に5時。
普段ならテントでまったりの時間ですが、今日の寝床まではあと3時間もさきです。



もともと、あまりに酷い雨の中で北鎌に臨むつもりはないんですが、とりあえず槍沢小屋跡まで行かないと、北鎌を諦める事になります。


何が何でもそこまでは行こうと、レインスーツも意味を無くすくらい、びしょ濡れでも、必死であるきました。



6時をすぎると、もう真っ暗です。


普段なら気持ちいいだろう景色も、オバケ屋敷にしか感じません。
森林限界にも達してないため、森がさらに怖さを演出してくれます。




なんできちゃったんやろなぁ




と、5分ごとに思いました。




まぁ、毎回そうですが(笑)

ちなみに、今回は数百回、後悔をしましたけんども。(引笑)





あまりに怖いので頭までレインウェアをほっかぶり、音楽を聞きながら、
軽くダッシュで歩きます。




落石などの危険を耳で察知する必要もあり、イヤホンなんて山屋さんから絶対怒られますが、
自分のチキンさには勝てません。




BGMは相対性理論をチョイス。
このシリアスなシチュエーションに似合わなすぎる感が、
とてもシュールで楽しくなりました。





ちなみに、パラレルパラレルパラレルパラレルって歌いながら登りましたよ。


半泣きで。






今回は、デポせずにアタックするつもりで、15キロくらいには軽量化
してきたのが助かりました。


って、それも軽量化のために着替えを省いた事に、後々後悔する事になるのですが…





横尾から60分くらいで、やっと登りに入ります。






まぁ、槍沢ロッジまではしっかり道が作ってあるので体力は要らないんですが、
体温の低下と、暗い山行の不安から非常に疲れます。






それでもパラレルパラレルと登り続け、小屋の灯りが見えてきた時は
どんだけ救われたか…




灯りが見えてからがまた長かったですが、受付で荷物を降ろし、
濡れた身体を拭いた時のなんと幸せな事か!




小屋の奥では、みなのディナー後のわいわいがやがやが響きます。




流石に寒過ぎてビール!って気分ではないですが、あったかいスープでもすすろうと
テント泊の申込みを済ませに行きます。





受け付けはそれはキレイなお姉さんが対応してくれました。





僕はびしょ濡れの髪を七三に直し、
キリリと申込みをします。





お姉さんの返す笑顔に負けまいと、
おれはこんな雨でもテントだぜ、と、
ハードボイルドさをアピールしながら、
キリリとテント泊の申込みをします。






が、







キリリも、次のお姉さんのセリフで固まる事になりました。








あの時のおれは、相当かわいそうな表情だったでしょう。







まさか、
お姉さんの口からそんなセリフが出てくるとは…









「テント場は、この先、30分くらい登ったとこですょ♡」









おーーーーーーい!!!!
笑顔で言うかーーーーーーーー泣







確かに、地図には小屋とテン場には微妙な距離がありました。






まさか、こんな結末だとは泣






お姉さんには知ってましたよ的な対応をした後、
トボトボとテン場まで登りました。






その後の登りは辛かったわぁ







更に酷くなる雨の中、テントを建て、暗い中の水場探しは地獄ですね。
あったかいかっこして、ラーメンをすすった時は幸せを噛み締めました。



それにしてもこれ…
大粒の雨がテントを叩く中、
今日は頑張ったけど、この天気では北鎌は無理だろうなぁって、
思いましたさ。




最後の濡れてない服に着替え、少し、横になります。




今の状況と、体力と、装備と、残りの精神力とを計算しつつ、
明日以降の山行プランを計画し直します。




頭が、
よく、働かない。





その日は、明日の天気に運を任せ、眠る事にしました。







2日目へ続く


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