打ち上げ会で聞いた話
~三途の川の「渡し船」は三人乗り
 
平成26年の水泳大会も無事に終了し、役員である我々は2週間後に大会の反省会を催した。会場は水泳部として毎回利用している市内の某居酒屋。
その時、Kさんにも協力者の一人として参加してもらった。大会の日には招集係り、記録証係りとして協力いただいたのだった。
Kさんは自分のお子さんが水泳大会に参加していて、Kさん自身、子供が所属している水泳クラブの会長も務めるなど大変に責任感のある女性だ。Kさんは会場に来ると、この大会が終わってからの2週間、勤めている職場でこんな話があったの---と話しはじめた。直接体験した当事者でありながら信じられない、と首をひねって語りだした。
 
Kさんが勤めている病院は介護が必要な老人を収容する看護施設である。自宅介護では家族に負担がかかり、そのためにある期間病院で老人を預かり面倒を見るのだが、入院してくる患者には高齢者が多い。そのため施設で亡くなる方も多いという。Kさんは呆れたような口調で
『この2週間で6人も亡くなって-―――』
席に着くと、思わずつぶやくのだった。
『6人も亡くなるなんて。それにしても、病院のベテランたちはあと何人亡くなるだろうって予測する人がいるのだからいやになっちゃう』という。
『何それっ?』一緒に来た同じグループのOさんが脇から突っ込みを入れる。
『いやねっ、亡くなる時は3人が一週間内に亡くなるっていうのよ』Kさんはいかにもいやそうな表情で、その病院の先輩たちの言い伝えを打ち消したい様子だ。
『先週に3人が亡くなったと思ったら、今週に入って一人が亡くなったの。----そしたらベテランの看護師さんは「あと二人亡くなる」っていうの』
『何、それ?---あーっ、そうか。危ない状態の人がいるっていう訳でしょ?ベテランなら患者の先が無いかどうかわかるでしょ』
『うーん、それが違うのよ』
先週、一週間のうちに立て続けに3人もの入院患者が亡くなった。それでしばらくは亡くなる方もないだろうと思っていた矢先、Kさん担当の患者が急に昨日亡くなったのだという。ベテラン看護師の予測に反発を感じていたが、元気だった自分の患者が突然亡くなりこの週に入って二人になってしまった。
 
ベテラン看護師たちの間では、あの世への「渡し船」は三人乗りだという。
3人とか6人とか3で割り切れる人数が一週間の間に立て続けに亡くなるのだという。きっとあの世への渡し船は定員が3人と決まっていて定員が埋まるのを待ってその週末に三途の川に出発するのだろう、ベテラン看護師たちは今までの経験からまことしやかに話しているのだとという。そんな先輩看護師たちを縁起でもない、とKさんは思っている。
 
Kさんの担当だった患者は、それまで何の変化もなく元気だったという。
病院の出入り口には室内と外部を隔てているガラスの戸があり二重になっているという。内部ガラスドアは患者が勝手に開けて出られないように暗証番号を入れないと開かない仕掛けになっていて、外から入るガラスドアも看護士が室内から操作しない限り開かない仕掛けになっているという。そのガラス戸が受付で見ていると、誰も外にいないのに何度も勝手に開いたり閉じたりを繰り返していたという。
『なんだろね、センサーが故障かしら?』
Kさんが不思議がってガラス戸に調べに行くとドアのセンサーには何も異物はなく異常もなかった。その時、ベテランの看護師が「きっと、誰か亡くなるので迎えに来ている」と言ったそうだ。
霊魂など信じないKさんはそんな馬鹿なと打消し、翌朝を迎えた。
『そしたら今日になって一人亡くなったの。今週3人亡くなったのよ』
-------信じようが信じまいが。
(了)