部屋から出る

定規を壁と戸の隙間にグリグリ
差し込むようにおしあてる。
戸の塗装が削れて、木肌が
みえる。
ゆっくり、定規がおれないように
奥へ奥へ、通った!
戸が定規の厚み2mmぐらいあいた。

テコにして、定規がミシミシ
音を立てる中、指も定規と壁の間に
ねじこみ力を加える。

パキンッ……

折れた。
1㎝あいたかどうか
というところだった。
そこに両手の指を全部おし込む。
削られるような痛みでジンジンしている
指に体重をかけ、腹筋に力を
いれいっきに引いた。

戸がミシミシと負荷のかかっている
音をさせて腕の太さぐらい開く。
全身に力をいれたせいで、
急に吐くものがなにもない、
からっぽな嘔吐が2回きた。

今度は両腕をねじこむ。
そしていっきに力を入れた。


ガダンッ、ドッダーーーン!!


戸は横に動かず外れて
リビング側に倒れた。

すぐ横にある充電器につないでいた
ケータイを取りタクシーを
呼ぶ。

四つん這いで、母子手帳が
入りっぱなしになっている
ショルダーバッグをリビングの
テーブル横へ取りに行き、
首にひっかけぷう助のともへ
戻る。

ぷう助を抱けない。

タオルケットを広げて
その上へ、適当に折りたたみ
厚みをだしたもう1枚の
タオルケット乗せて
ぷう助をスライド
させる。

ぷう助をのせたタオルケット
の端を掴み、ソリのように
玄関までまっすぐな廊下を、
四つん這いで進んでは、タオルケット
をゆっくりひっぱり、
ぷう助の頭が揺れていないか
確認しなが進んだ。
ぷう助はまだよく見えてい
ないであろう目を
ぱっちり開いて泣かないで
いてくれる。

玄関につく手前で、
インターフォンがなった。
ぷう助を置き、
急いで、四つん這いのまま
玄関に手をおろし
鍵をはずしてドアをおす。

開かれドアの向こうを
見上げると肩幅のがっちりした
50代ぐらいの運転手さんが
たっていた。


「子供を先に乗せてください!」


運転手さんはのけぞるほどに
驚いてた様子だったけど、
玄関の一歩奥にいる
ぷう助を両手で
絹豆腐をすくあげたかのように
そっともちあげ、腰につけた
たくさんの鍵をカチャカチャ
音をさせながら、小走りで
後部座背に乗せてくれた。

 

次に私を抱え込み
私も運転手さんの肩に
腕をまわして、サンダル
を履いた足で、なんとか
地面を踏んで足を動かしたけれど、
ほとんど運転手さんが
引きずるような形で
ぷう助の隣へ座らせてもらう。

小さな総合病院がタクシーで10分の
ところにあり、そこへお願いした。
視野は、かなり暗くなっているけど
運転手さんの気を使ってくれている
アクセルの踏み方が伝わる。


病院のロータリーに入り
正面玄関のまえで、タクシーを止めて
運転手さんが、大きな肩をゆらして
中へ走っていってくれるのが見える。
外の警備員さんが、おそらく
車を止めちゃいけないと
注意するために、運転手さんの
後を追っているようにみえた。
すぐに中から、誰かがくるような

きがした。



ここで私の記憶は
完全に途絶える。

 

※貞彦さんに特定されないようフェイクをいれています。

すみません。

※数年前の記録です。

現在は、ぷう助と幸せに暮らしています。

 

 

 

なぜあの時、救急車を呼ばなかったのか。

出産の時もですが、救急車を

呼ぶ状況の認識が甘いと思いました。

救急車を呼ぶのは、動けない時、タクシーを利用

できないぐらいひどい時だと

思っていました。

すごく頑張れば、なんとか自力でいけるなら

呼んではいけないと、

かたくなに思っていましたが、

すでに、人の手を借りなくては

動けていないのだから、呼んでよかったのだと

今さらながらに思います。

むしろ、運転手さんにはとても、

迷惑をかけてしまいました。

 

人にも社会にも

すべてに遠慮して、

それが裏目に出ている時間でした。

 

 

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