映画『ぼくのお日さま』
『ぼくのお日さま』
(上映中~:J-MAXシアターとやま)
公式サイト:https://bokunoohisama.com/
北国の田舎町の小学6年生のタクヤ。
地域の少年団の野球の練習中、打球も見ずに初雪を眺めています。
冬になると野球からアイスホッケーに変わりますが、
ゴールキーパーを押し付けられ、パックに反応せず失点しまくり。
吃音もあって、普段から意思表示もハッキリとはせずにいました。
そんなある日、アイスホッケーの練習後、フィギュアスケートが始まり、
そこで練習している中学生と思しき女の子、サクラの演技を見て、
タクヤは心を奪われ、見よう見まねでスピンの練習を始めました。
その様子を見ていたのが、フィギュアスケートコーチの荒川。
普段はサクラのコーチを務めていますが、
練習が終わってから、タクヤに一から手ほどきをするようになります。
そして、荒川コーチはタクヤが少し成長したところで、
サクラに「アイスダンスでタクヤと組んで欲しい」と提案しますが・・・。
北国は間違いなく北海道ですが、各所でロケを行っているので、
その辺りは濁しています。ただ、やはり冬はかなりの雪が積もっています。
そのひと冬が描かれているのですが、その中だからこその温もりもあれば、
一方で複雑な感情がもたらす切なさもある、そんな物語でした。
ドビュッシーの「月の光」が効果的に使われています。
そして、最近このことについて書くことが多いですが、
本作も説明的な台詞、そもそもの台詞が少ない、私好みの脚本でした。
言葉にはしづらい、でも分かる。いや、分かった気になってるだけかな。
しかし、それこそが映画の面白さ、脚本・戯曲の面白さといえます。
奥山大史監督作品は初鑑賞。脚本・撮影・編集も担当されてます。
荒川コーチ役は池松壮亮さん。ザ・池松壮亮って感じの役でした。
タクヤ役は越山敬達さん。サクラ役は中西希亜良さん。
中西さんは演技の経験はなかったそうですが、
フィギュアスケートの経験が豊富で大会の出場経験もあります。
ということは小芝風花ちゃんの系譜と同じになりますね。
いや、初々しい演技ながらも女優然としたたたずまいがありました。
越山さんも出演作は多くないですが、彼もスケート経験者です。
タクヤは滑れないシーンも必要で、逆に難しかったのでは。
あと、池松さんも経験者なのかな?と思ったのですが、
簡単な検索の結果ではそういう記述はなく、
でも、コーチらしい滑りで、俳優さんの努力は本当に凄いです。
(以下、“適度以上”にネタバレしています。ご了承ください)
タクヤは今まで自分が本当にやりたいと思うことがなかったようです。
そんな中、フィギュアスケートに、サクラの演技に魅せられてしまった。
コーチの教えも上手く、どんどん上手になって手ごたえも感じている。
でも、アイスダンスをすることになり、サクラさんはどう思っているだろう?
嫌じゃないのかな?それでも僕はフィギュアスケートが上手くなりたい・・・。
彼には吃音の悩みもあります。これが状況で違ってきます。
家族や親友との会話の時はそれほどでもない。緊張すると出てくる。
その辺りの出し入れが絶妙でした。
サクラの方が感情は複雑です。
これまでの練習で、彼女はコーチの顔をまともに見られませんでした。
少し“ませて”いるところもあるからこその意識かもしれません。
コーチはコーチでクールに接しています。ザ・池松壮亮な感じで。
なのに、タクヤに教えている時のコーチはちょっと楽しそうです。
微妙な嫉妬心が湧いているところに、アイスダンスの打診があり・・・。
なんで私が・・・。でも、実際に練習してみると、タクヤは頑張り屋だし、
コーチの「シングルにも役に立つから」という言葉を信じてみようかな。
って、気がついたら、タクヤと息が合うようになってきた。
コーチが「タクヤが頑張れたのはサクラのおかげ」と言ってくれた。
嬉しい・・・と思っていたところに、コーチのある事実を知ってしまい、
理解が追いつかない中で、もうコーチとは一緒にいられない感情になり・・・。
荒川コーチはもともとは東京を拠点にしていましたが、
恋人が故郷の北海道に戻ったことで、自分も移住してきました。
タイミングよく、サクラの母からコーチの依頼をされ引き受けました。
そんな中でタクヤと出会った。ここでの教え子では唯一の男の子。
フィギュアスケートの世界は男子の競技人口が少ない。
だから教えてみようという純粋な気持ちだったと私は感じましたが、
ある事実を知ってしまったサクラはそうは思えず・・・。
いや、本当はその嫌悪感ではなく、溜まっていた嫉妬の爆発、
自分のほのかなコーチへの想いが叶わないものだと知った切なさ、
そういったものも複雑に絡んでいるような気もします。
これ、さっきも書きましたが、台詞ではほぼ何も説明してません。
なので、感情に関しては私が勝手に解釈してるところもあります。
他の人が観たら、また違う受け止め方になるかもしれません。
物理的な事実として、サクラにだけないものがあります。
彼女には同世代の理解者がいないのです。
女子の練習仲間はいるけど理解者ではない。悩みは打ち明けられない。
母親は味方ではいてくれるけど、あくまでも親です。大人です。
荒川コーチには恋人がいました。
と言っても、大人同士には大人同士の難しさもありますけどね。
恋人はスケートとは関係のない人。荒川は実績を残した人。
その辺りをどう感じているのでしょうか。
この恋人役を実力派の若葉竜也さんが演じています。
正直、私にはもうこれも「普通」の一つという認識ですが、
サクラが理解するにはまだ難しいことだったかもしれません。
そして、タクヤには親友のコウセイがいました。
この子は本当に優しい子です。ずっとタクヤの理解者でいます。
タクヤがフィギュアスケートを始めて、自分といる時間が少なくなって、
寂しさとか嫉妬心とかないはずないと思うんですが、
タクヤとサクラがコーチ抜きで演技練習を終えた時に拍手してました。
曲は「月の光」でも、お日さまの光がリンクに差し込んでいました。
春になりました。タクヤは中学生になりました。
3人それぞれ、別の道に進んでいくようです。
雪が解けた歩道でタクヤとサクラが向かい合ったところでエンドロール。
二人がまたアイスダンスをすることはあるのかな。ないのかな。
多分ないんだろうけど、バッチテストをキャンセルしたわだかまりも、
雪と共に解けてしまったんじゃないかな・・・と、
これももちろん、台詞もなければ描かれてもいないけど感じたことでした。
そして、そうなるかならないか分からないけれど、
サクラがもう少し大人になって、コーチの事情を理解した時に、
あの時の自分の言動について自分を責めないで欲しい、
これから先の人生の中で優しくできればいいんじゃないかと思いました。
にしても、台詞の少なさが魅力の作品なのに、
ダラダラ長い感想を書いてる私はアホなんじゃないだろうか(^_^;)