映画『ウエスト・サイド・ストーリー』 | 牧内直哉の「フリートークは人生の切り売り」Part2

映画『ウエスト・サイド・ストーリー』

『ウエスト・サイド・ストーリー』

(上映中~:J-MAXシアターとやま、TOHOシネマズファボーレ富山、TOHOシネマズ高岡)

公式サイト:https://www.20thcenturystudios.jp/movie/westsidestory.html

 

1950年代のニューヨーク、マンハッタンのウエスト・サイドには、

夢や成功を求めて世界中から多くの移民が集まっていました。

社会の分断の中で差別や貧困に直面した若者たちは、

同胞の仲間と集団をつくり、各グループは対立しあっています。

特にヨーロッパ系移民の2世たちで構成されている「ジェッツ」と、

プエルトリコ系移民集団の「シャークス」は激しく敵対していました。

そんな中、かつてはジェッツのリーダーであったトニーと、

シャークスのリーダー、ベルナルドの妹マリアは運命的な恋に落ちます。

二人の禁断の愛は果たして・・・という説明不要な物語。 古典です。

 

1961年にも映画化された名作ブロードウェイミュージカルを

スティーブン・スピルバーグ監督が再映画化というだけで鑑賞決定です。

私、1961年の『ウエスト・サイド物語』は2回かな、

オーバードホールで公演された舞台も1回観に行った程度ですが、

本作は意外とオリジナルを踏襲した演出になっていたという印象です。

なによりも、レナード・バーンスタインの楽曲がそのまま使われていて、

なんだかんだで、素敵な映画音楽は無条件に心躍ります。

 

といっても、もちろん変わっていたところもあります。

音楽はほぼそのままですが、実は歌や踊りは微妙に控えめです。

オープニングで「ウエスト・サイドの土地を行政が買い上げる」

みたいな看板が立ってまして、あんなのなかったんじゃないかな。

全体的に前作の物語として都合のいいところにメスを入れた感じです。

 

61年版と違い、シャークスのメンバーなど、プエルトリコ移民の役は、

プエルトリコ出身やプエルトリコ系アメリカ人の俳優さんが演じています。

また、開発で街が変われば、プエルトリコ系移民の方がコツコツ働くので、

ちゃんと働かないジェッツの面々は危機感を持つようになる・・・など、

もう少し物語にリアリティを持たせようとしたのでしょうか?

でも、結局は歌って踊っちゃうので、どうしようもないのですが。

 

(以下、“適度”にネタバレしてます。ご了承ください)

そもそもが、この物語はミュージカル抜きにして、途中から破綻してます。

結局、ジェッツとシャークスは決闘することになり、

その流れでトニーがベルナルドを刺し殺してしまいます。

彼は出頭しよう、でも、その前にマリアに会っておきたい・・・と彼女の家に。

すると、マリアは頑なにトニーの出頭を止めました。

殺されたのは自分の兄ですが、それでもトニーの出頭を止めました。

 

愛が倫理を凌駕しているのですが、これが私の中では美しくない。

『男はつらいよ』以外にも、山田洋次監督作品を観続けてきた私は、

トニーが再び懲役刑になっても(まぁ、それで済まないかもしれませんが)、

彼が出所して戻るまで、家の前に黄色いハンカチ揚げて待っている。

そんなんの方が、私は説得力を感じたりするのですよ(^_^;)

 

もともとは『ロミオとジュリエット』をヒントにした物語です。

シェークスピアの四大悲劇には入っていませんが、悲恋ものですかね。

といっても、愛する男女が結ばれないこと自体は悲劇ではなく、

理由はともかく、若者が命を落としてしまうことが不憫だと感じられます。

あの物語はそれで両家が仲たがいをやめ、町が平和になるのですから、

受け止めようによってはハッピーエンドといえるかもしれません。・・・嘘。

 

『ウエスト・サイド・ストーリー』は、トニーだけが撃たれて死にます

まぁ、それもまた悲しい結末ですが、真の悲劇はそこじゃありません。

そもそも、ジェッツとシャークスは争う必要がないんです。

どちらも移民の血が流れてる。ジェッツは2世だからアメリカン?

でも、シャークスのメンバーが親になれば、その子らはジェッツ?

ヨーロッパ系とプエルトリコ系の違いは小さくないにせよ、

こんなことで意地を張り、血まで流すのは建設的ではありません。

 

でも、思慮が足りないから、そういう発想にはならないんですね。

やはり、若い頃に学ぶことは大事です。君ら、学校に行きなさいよ。

私もそんなに勉強してなかったのを棚に上げて言うのもなんですが、

単純に知識量を増やすのではなく、知恵と思慮を身に着けて欲しい。

人を思いやる想像力が欠落しているのは、無学が過ぎるからでは。

 

ベルナルドの恋人アニータがトニーを「人殺しは・・・」となじりますが、

実際にはベルナルドが先に一人殺していることを知りません。

そして、アニータがジェッツのメンバーに弄ばれるところは、

なぜ、あの悲しみの中でそれができるのだ!?と怒りが湧きました。

ちなみに、その時のアニータを助ける老女を演じていたのは、

61年版でアニタを演じたリタ・モレノでした。

 

今回のスピルバーグ版でいうならば、

行政が土地を買い取ることで居場所がなくなる可能性もある両団。

国境・出自の壁を越え、力を合わせて権力に立ち向かう。

行政側も目先の利益優先ではなく、その土地の人のための開発をする。

そんなことになったら、もう『ウエスト・サイド・ストーリー』ではないけれど、

2020年代の今なら、そういう平和が描かれてもいんじゃないかと思います。

 

まだまだ夢物語ですよ。そう、平和はまだまだ夢です。

でなけりゃ、ロシアのウクライナ侵攻なんて、起こるはずもないことです。

ジェッツとシャークスの抗争と根っこの部分では同じなのかもしれません。

となると、勉強してても、アカン奴はアカンのか・・・。