「登れど 登れど なお わが身体 頂上に至らざり ぢっと足元を見る。」
石川マキチャントッシュ啄木、渾身の一句(?)です。頂上は見えているのに何と近づかぬことか・・・。
このころになると再び渋滞が激しくなり、岩場も増え、
数歩進んでは止まり、数段登っては止まり・・・という状態になりました。
空気はより一層薄くなり、身体の疲労は極限状態で、意識も薄らいでゆくほど。
でもなぜか、「リタイヤする。」 という考えは浮かびませんでした。
もう、“ 無心 ” に近い状態で、ただひたすら歩きました。
後で聞いた話ですが、
顔洗えてないし、化粧もしてないし、イッちゃってる目をして無言で歩く私を見て、K課長、
「ココでリタイヤするって言われたらどうしよう?!」 って、
内心ではすごく不安になっていたそうです。(苦笑)
いよいよ頂上が近づいてくると、苦しみの中でいろんな考えが浮かびました。
33歳の年に子宮筋腫の手術をしてから6年9ヶ月と30日、
37歳で乳がん手術をしてから2年5ヶ月と26日、
あの辛さとこの苦しさを比べることはできないけれど、
でも、富士山に登れるくらいまで元気になったんだ!
家族や友達、K課長、山岳部君、ディレクターさん、(練習登山に2回も連れて行ってくれた)Tさん、
みんなのおかげで、ここまで来れたんだ!
結婚も妊娠も出産も叶わなかったけれど、「富士山登頂!」 という願いはもうすぐ叶うんだ!
そう思うと胸が熱くなって、目がウルウルしました。
頂上に至る最後は岩の階段になっていて、
あと3段、2段、1段、そして・・・
39歳7ヶ月と22日。
2012年8月5日日曜日、午前8時40分。

吉田口五合目から17時間40分かかりました。
んが。
あまりの人の多さに、喜びと感動に浸る時間はありません。
この写真1枚を撮るのがやっとで、すぐ移動。
次々と人が押し寄せてくるのです。
なんでも、富士山頂上のキャパシティは3000人なのだそうで。(それでも大した人数だと思うけど。)
この日はそれを超える人が登っている、と山小屋のスタッフが言っていました。。。

少し横へ移動した場所でもう一枚。パチリ。
本当はもっとたくさん、いろんなポーズでいろんな写真を撮りたかったけど、
それは許されないような状況でした。
実はココ、富士山の頂上であってもいわゆる “ 日本の最高標高地点 ” ではありません。
標高3776メートルの場所は、
山頂の火口の周り(一周3キロ、約1時間半くらい。)の途中にある剣ヶ峰(けんがみね)です。
この “ お鉢めぐり ” をしないと、本当の頂上には行けません。
もちろん私は行くつもりでした。
でも、どうしてもどうしてもど~しても、無理でした。
身体が。
歩いている途中できっと、「も、ヤだ。山岳部君、おんぶ。」 って言うに決まってる。(笑)
なので、私はココでみんなを待つことにし、私以外の3人はお鉢めぐりへ向かいました。
私はトイレへ行っとこ♪
トイレの横には小高い丘があり、そこで自衛隊が訓練?登山に来ていました。

迷彩服ってスゴイよね。
数十人いるの、わかりますか?
後で聞いて知ったのですが、
この丘に登ると “ お鉢 ” =火口&剣ヶ峰が見えるのだそうです。
そうとは知らないこの時の私は、「この丘すら、もう、登れない・・・。」 って登らなかったのですが、
やっぱり、せめてお鉢は見ておきたかったなあ。
そうそう。
富士山のトイレって有料です。
山小屋でもね。
場所によって金額は違いますが、頂上のは300円でした。
本当に水が貴重な場所なので。(飲料水は500mlペットボトルで500円します。)
どこもほとんどが洋式便器なのだけど、半水洗。
柄杓(ひしゃく)で水を流したり、水鉄砲みたいなので流したりします。
使用済みのトイレットペーパーは流さず、便器の横に置いてある大きなゴミ箱へ捨てます。
でも生理用品は捨てられません。(自分で持って下山します。)
トイレを済ませて歩いていると、驚きの光景が!
富士山の頂上には “ 海の家、山バージョン ” みたいなのが何軒かあるのです!

で、ラーメンとかいろいろ売ってる!
私は混みあうその店先の椅子に座った途端、横になって寝てしまいました。
カマボコ(=板にベッタリとへばり付く擦り身肉)でゴメンナサイ!でも、譲れません!って。(笑)
頂上には自動販売機もありました。

登頂を果たしたからか?ここで休憩している人たちは意外と元気で、
ビールを飲んだり、(←気圧が低いところでは地上より酔いやすいのに。)
ラーメンを食べたり、(←あんなコッテリして味の濃いもん、よく喉を通るよ。)
たばこを吸ったり、(←酸素が薄いところでもっと酸欠になりたいって、どゆこと?!)
私なんか、飲むゼリーを飲むのがやっとなのに。
お父さんに買ってあげたかった、頂上にある神社 “ 富士山頂上浅間大社奥宮 ” のお守りひとつ、
おばあちゃんに出したかった、山頂限定販売の絵ハガキ1枚が買えないくらい、
それくらい疲労困憊、意識朦朧とするくらいなのに。
富士山の頂上でやりたかったことがいくつかあって、
1.「いよッ!日本一ッ!」 って叫ぶ。
2.「でも、二度と来るもんかーッ!」 って叫ぶ。
3.おにぎりを食べる。
童謡 「いちねんせいになったら」 の歌詞のとおり、一年生になったら 一年生になったら 友達百人できるかな
百人で食べたいな 富士山の上で おにぎりを
ぱっくん ぱっくん ぱっくんと
おにぎりを食べる。
でも、どれも出来んッ!
どぉ~しても、出来んッ!
シンドイんよぉ~!!!
そんなことを思いながらカマボコになること2時間。
K課長と山岳部君、ディレクターさんがお鉢めぐりから戻ってきたので、11時、下山開始です。
おっと、物語(?)はこれで終わりじゃありませんよ?
地獄の苦しみはまだまだ続きます・・・。