リストラ父と思春期の娘  | 人生を変える小説 by 魔法のネコ

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ミナは、高校一年生の女の子、彼女は今、父親が世界で一番ウザいと思っている。彼女が特にむかついてるのは、言っていることがとにかく矛盾

していることだった、昔は早く起きろって言っていたのに、仕事が変わった途端に、自分は遅く起きるし、とにかく人をイライラさせることばかり言う。

 

この間も、自宅で焼肉をしていて、楽しく食べていたら父親がお母さんに

「おい、なんでカルビがないんだよ!カルビがない焼肉は焼肉じゃないだろう」と言ってきた。これを聞いた娘は

 

一体何様のつもりといらついた。「カルビが食べたいから、今度買ってきてください」ってやさしく言えばいいじゃん。

 

他にも不満がたくさんある。お母さんだって、あいつが嫌いだと思っていた。嫌すぎてどうしようもない。一人で悔しくて泣いたこともある。一人暮らしを夢見ている高校生だ

 

娘は最近になって、出来れば父を殺したいとさえ思っていた、そんな殺意を覚えていたのだ。娘の気持ちは限界だった。

 

反対に父親も娘の気持ちが全く分からないでいた。父親の高田は、夜の交通整理の仕事をしていた。最近まで、大手の家電メーカーに勤めていたが、経済危機のため、リストラをされてしまったのだ。仕事が変わり、朝は遅く起きて、夕方から出勤に出る日々だった。

 

自分へのストレスから、娘や妻に当たることも多く、家族は不穏な空気に包まれていた。

 

その日も、雨の日に父親は工事現場にいた。雨のため、工事が早く終了して11時には上がることになった。娘はおそらくまだ起きてるので、また顔をあわせるかと思うと憂鬱だった。

 

その時、高田はちょうど自宅途中の公園の横を歩いていた。すると、茂みの中から何やら声が聞こえた。最初は、カップルがいちゃついているのかと思ってむかむかした。

「まったく最近の若い奴らは」そんな中年のため息をついた。

 

しかしなんだか様子がへんなので、少し聞き耳を立ててみた。

どうやら揉めてる様子だ。

 

これは襲われてるのだ。

 

ようやく事態を理解したが、高田は動けなかった。

 

こんなのに関わってもし相手が暴力団だったらどうする。

まっさきに頭に浮かんだのは、自分の身の安全だった。

 

そして、そのまま無視をしてその場を去った。

 

警察に電話をしてあげようか?

いや、もし電話をして自分が不審者になったらそれこそ会社を首になる。

 

徐々に女性の声が小さくなってきた。

 

高田は足を止めた。そして自問自答を繰り返した。

本当に立ち去るべきなのかどうか。

 

私にはそんな勇気はない。私は格闘技もやっていないし、

第一、この女性とはなんの関係もない。

仕事もリストラされたし、だめな人間なのだ。

 

そこでこんなシーンがよみがえってきた。

自分が課長時代、後輩と飲みにいった。

そこで、目の前で喧嘩がはじまった。

 

自分が躊躇していたら、すぐに後輩が間に入って止めた。

それを見ていた女子社員がみんなその後、私の言うことを

きかなくなり、後輩の意見ばかり聞くようになった。

 

やっぱり、男は強くなきゃ。そんな強いリーダーシップが

まぶしかった。

その後、勢いを失った高田はリストラされて、後輩が

課長となった。

 

こういう状況であの時のことを思い出していた

そして、なんて自分はなさけないのかと思うと、

悔して涙が出た。

 

まだ自分は40歳。やり直せる。いや、やり直すのだ。

家族とも、自分自身とも、

 

そして、高田は握りこぶしを握ったまま、

持っていた鞄を放り投げて、先ほどの公園の茂みに

戻った。

 

そして無我夢中で、相手の男にしがみついて、女性を引き離した。

 

男性は、高田を殴り倒してきた。しかし高田はめげなかった。

むちゃくちゃだったが、相手にくってかかった。

 

とうとう、そのしつこさに、参った男性は、その場から立ち去った。

殴られて顔をはらしたまま、女性のところにかけよった。

 

女性は木陰でやぶれた服で、震えてしゃがんでいた。

暗くて、相手の顔がよくみえない。

 

「大丈夫ですよ。怖くないから。もう奴はいなくなりましたから」

 

やさしく声をかけた。

 

沈黙が続いた後に、声が聞こえた。

「お、おとうさん????」

 

木陰から顔を覗かせたのは、なんと娘のミナだった。

高田は、自分の作業用ジャンパーを彼女にかけて、そのまま肩を抱いて

一緒に自宅へ帰った。

 

「あなたどうしたの、喧嘩でもしたの?」

妻から高田は言われたが、なにも答えなかった。

 

翌日の夜、高田は会社が休みだった。

家族で、焼肉をやることになった。

高田がテーブルにつくと、ミナは、そっと声をかけた。

「お父さん、これカルビと、ビールよ。」

 

高田は満面の笑顔でそれに答えた。

 

 

 

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