「・・・ここか」


紅の軍服を身にまとった女性は心から

信頼を置く二人の家臣を後ろに控えさせ

目の前の重い扉を開けた。


そこは数々の本やペン、机、椅子が浮いており

その本が浮いている場所の真ん中に

目的の少女は魔術を唱えてながら座っていた。


「不思議な魔法だな・・・」


女性の名はアーテム。アーテムは静かに呟くと

アーテムに気づき魔術を唱えることを

やめた少女へ近づく。


少女はまるで汚いものを見るかのような目で

相手を見つめるが、すぐに「歓迎」の目へとかえた。




「こんな時間に来館客なんて珍しいじゃない。

初めましてアーテム・グロズヌイ・ギャロル。


ここはオズの図書館。さあ、ギャロルはなにをお求めかしら」



そういった少女の口元は口が裂けてると思うほど笑っていた。





それが


西大陸最強であり、アルマンディ王国ギャロル家当主

『アーテム・グロズヌイ・ギャロル』と


世界のすべてを記憶し絶対的魔法能力を持つオズの弟子

『ドロシー』の出会いであった。



――――――――――――――――――――――――




「ドロシー」


いつも通り魔術を唱えていると、毎月一度本を借りに

くる武人、ギャロルが一冊の古びた本を持ちながら

あたしに微笑みかけている。


ああもう一か月たったか、と私は思うと魔術を唱えるのを

やめて、落ちてきた本に「戻れ」と命じ本棚へ戻らせる。


「こんばんは、本を返しに来たよ」


「毎度毎度同じ時間帯に同じ表情とあいさつで

やってくるのね、ギャロル。ごきげんよう」


あたしはギャロルから本を受け取ると、目を開き直し

金色の瞳に移しかえ、中身をチェックする。


破損はないか、偽造はされていないか、約束通り

ギャロル以外の生物が手を付けていないかなどを調べる。


「今回も完璧ね。禁術書庫0006。返却を確認しました」


そういうと、本は勝手に元の本棚へ戻っていく。

あたしは一つ息をつくと、相手を睨む。


「ギャロル。いい加減魔術を唱えている時に邪魔するのは

やめてもらえない?仕事が進まないの」


「申し訳ない。だが、この時間帯しか空いていなくてね」


苦笑するギャロルは本当に申し訳なさそうに謝るため

今日は心の広いあたしに免じて許してあげる。


するとギャロルは突然言葉を言い始めた。


『無知とはいったいなんであるのか』


それを聞いた途端、あたしは何が言いたいのかわかったため

代わりに文をのべる。


「『それは世界でもっとも恐れるものなり』・・・。

禁術書庫0147番の本ね。今回はそれがお望み?」


また、息を吐きそう聞くと、ギャロルは「感がいいね」と短くいい

小さくうなずく。あたしは、そこでギャロルにいった。


あたしは禁術書庫を貸し出すとき必ず一つ問いかけをする。

その答えが私の納得のいくものだったなら貸し出す。


軽い遊びだ。



「三人の男は同じモノを見つめて言った。


一人の男は「あれは金髪の女性である」と。


一人の男は「違う。あれは兎である」と。


最後の男は「あれはどちらでもない」と答えた。


なら、三人の男が見たモノはなに?」



くすくすあたしが楽しんでいると、ギャロルは考えもせずに

あたしへ即答した。


「ドロシーにしては簡単な問題だ。

それは『月』だよ。金髪は月の色を示し、兎は我々からみた

月の模様のようなものだ。どうだい?」


ギャロルの返答にあたしは文句ひとつなかった。

いつもギャロルはあたしを飽きさせない。


「正解。少し簡単すぎたわね。それを即答できるとまでは

思ってなかったわ・・・不気味」


「ほめ言葉として受け取っておくよ」


きっとあたし以外の女であれば即落ちするレベルの笑顔を

あたしに向けると、あたしはそれをうっとおしがりながら

呟く。


「おいで」


すると遠くの方から一冊の鎖に結ばれた本があたしの手元へ

やってくる。それを見つめ、禁術書庫0147と確認すると

もう一度違う言葉を呟く。


「禁術書庫0147番をアーテム・グロズヌイ・ギャロルへ

貸出をオズの弟子の名において許可します。いきなさい」


命令をするとそれ通りに本は動き、アーテムの手のひらへ乗る。


「っと・・・重いな・・・。サイレンから聞いてはいたがここまで

分厚いとは思ってなかったよ」


本の埃を払いながらギャロルはそう言う。


「たっぷり禁術が乗っているから仕方ないわ。

さてギャロル。そろそろオズが帰ってくる。国へ戻りなさい」


あたしは椅子に座り、散らばった書類を片づけ始める。


「オズにもいつか会ってみたいものだ」


「やめときなさい。オズは人間が大嫌いだから

絶対笑顔で「ザクロ口に突っ込んじゃうよ!!」って叫ぶわよ」


「う・・・」


ギャロルは珍しくおろつくが、すぐに冷静にもどり、少し

考えごとをし始めた。


「・・・たいしたことではないんだが、ドロシー。

なぜ君は、わ、私がザクロが嫌いと知っている?前もそうだった。



名乗ってもないのになぜ、君は私の名前を知ってい?」




あたしはギャロルの言葉に返答はせず、ゆっくりと

扉に「開け」とめいじ、開かせる。


そしてそちらを指さしながら短く「早く帰りなさい」と

合図する。ギャロルは無駄だと思ったのか苦笑する。


「ドロシー。最後に一つおせっかいだが言わせてもらいたい。

君はもう少し子供らしくするべきだ。外へ出てみるといい


それと、次はアーテムと呼んでくれ」


ギャロルは最後にそう言い残すと手を振って扉から出て行った。



―――――――――――――――――――――――――




ギャロルがいなくなった場所で、あたしは魔術を唱えだす。

しかし、なかなかギャロルの言葉が離れない。


―子供らしく―


遠く遠くあたしとは無縁の言葉。

だってあたしは子供じゃない。あたしはオズの弟子。


外へなんて出たくもない。汚い空気を吸い、汚い人間たちを見て

汚い世界の土に立つことに、なんの意味があるのか。


「・・・集中できない」


口を閉じ、ばさっと落ちた本を拾い上げると同時に

あたしの頭には色々な過去の「歴史」が見えた。


あたしがギャロルを知っていた理由の一つ。



そしてあたしはずっとあんたを見ていた。



あんたは人間のなかで、なぜかとても綺麗に見える。


だからこそ、あたしはあんたに力を与えるんだ。



「ただいま、ドロシーちゃん」


考え事をしていたやさき、あたしの師匠が魔法陣から

光の粒のように現れた。




「おかえりなさい、オズ」




あたしはまた、子供らしくない表情でオズへ笑った。




(終わり)



「シトリーパパァァァァァァ!!助けてネぇぇ!!」


「しばくぞ千橙」


真っ赤な服を揺らしスタンヴォード帝国皇帝シトリーに

抱き付こうとするのは凱歌の千橙。


もちろんそんな気持ち悪い行為に答えてくれるわけもなく

シトリーは思い切り千橙の顔を蹴り飛ばした。


「い、痛いネ!」


涙を浮かべながら倒れる千橙にとどめとでもいうように

歩いていたリヴェーラのマシューが顔を踏みつける。


「ネぇぇええええぇえぇえ!?(訳: 痛いィィィィィィ!?)」


「ああ、ごめん、ごみをふんじゃったみたい」


「ゴミ!?扱いもうゴミネ!?」


「はは、冗談に決まってるだろ、たぶん」


腕を組みながらシトリーはなおも千橙を踏み続ける。

マシューも全力で踏みつけていた。


そこに同盟国であるラフィンティ王国のシリカと

初国の椿が軽蔑ともいえる目で千橙を見ているのを

千橙は踏まれている隙間から見た。


「み、見てないで助けるネ!!」


「シリカ、ごみが、ごみがしゃべってるわ」


「そうね、椿、粗大ごみかしらね」


女性にまで言われるとさすがにかわいそうと思った

シトリーは足をどけ、マシューに停止を呼びかけた。


マシューもシトリーの命令だということで足をどける。

千橙はネぇぇええと叫びながら涙を流していた。


「私の扱いが最近ひどすぎるネぇぇえ!」


「そういう扱いされるの好きなんだろ?」


「そんなわけないネ!シトリーパパ!!」


「しばくぞマジで」


「すみません」


そろそろ話の本題を戻してほしいのか、椿が口に

扇を当てながら言う。


「で、千橙、なんでそんなに騒いでいるの」


「あ!そうネ!ちょっとかくまってほしいネ!」


がばっと起き上がり、千橙は青ざめながら全員に助けを

求めた。あの千橙が青ざめるなんて久々にみたため

全員が真面目になる。


「なに?敵?」


マシューの言葉に千橙は首を人間とは思えないほど

回してうなずく。


「て、ててて敵ネ!おそろしい敵ネ!」


「それは大変。椿、戦える?」


「愚問ね。もちろん戦えるにきまってるわ」


二人は立ち上がり、マシューも武器を構える。

だが一人シトリーがいつもの笑顔で千橙に言った。


「ああ、わかった。お前側近から逃げてるだろ」


「はあ?側近?」


マシューたち三人は頭に千橙の側近を思い浮かべた。

そういえば千橙が青ざめる行為をするやつはその

側近以外いない。それに気づいたとたん千橙以外の

全員がためいきをもらす。


「次なんの機械開発しようかな」


「ご愁傷様ー♪」


「シリカ、お菓子を食べましょう」


「見捨て方ひどくないかネ!?」


千橙が助けてネぇえぇ!と騒いでいると、シトリーは

背後の人物に気が付いたらしく、苦笑し、千橙に

やさしさともいえる忠告をした。


「千橙気を付けろ」


「ネ?」


「きゃァあああ!千橙様愛してますわあああ嗚呼!!」


「ネぇぇえぇえええええええええ!!(訳: キタァァァァアア)」


背後から顔がもう化け物のようになりながら千橙を

追いかけてきた少女、ハティがいた。

その光景をみた瞬間千橙は泣きながら全力で

走り去っていく。


「まってくださいましィィィ!!アイラブユーですわぁああ!」


「くんなまじでお前くるなキモイ!キモイィィィィィ!!」


「千橙語尾忘れてるぞーはっはっは」








「あの子愛されてるわねえ」


「あ、あれは愛されてるに部類されるのか?」


シリカの一言に、マシューはただただ愛を考えさせられた。

シトリーはそばにいた側近のムートに話しかける。


「側近がお前でよかったよ」


「?」


今日もみんな、平和な一日をすごしています。


妄想パロです。

ひたすらに私の妄想をぶつけました!b











「・・・まったく、今日は寒いな」


僕はそういうと自分の両肩をさする。

そして目の前の一つの墓に積る雪を払った。


墓には「シリカ・ラフィンティここに眠る」と書かれ

青い花が一輪飾られている。


「半年ぶり・・・ハクサだ、シリカ」


腕に抱えていた赤い花束を青い花のそばに置き

そこに自分も腰を落とした。


「青い花はフレアか。姉思いのいいやつに育った」


シリカが死んでから早くも半年がたった。

ラフィンティの王族や貴族たちは今、別の国に身柄を

確保されている。


中でも一番血のつながりのあるフレアはいまだに

牢獄で暮らしていると聞く。


きっと墓参りだけは外出許可が下りたのだろう。


「フレアのこと、見守っておいてやれよ」


墓を撫で、微笑むがただ花がなびくだけだった。


しばらく沈黙してから、たまらず僕は震えた声で

シリカに言ってしまう。





「どうして・・・自分勝手に逝ってしまったんだ、シリカ」




雪を握り締め、歯から音が聞こえるほど食いしばる。

シリカは革命で魔力暴走を起こし死亡した。


あれほど東を滅茶苦茶にして、西にも迷惑をかけ

たくさんの命を奪ったお前がどうして誰よりも早く逝く。


ふっと目を閉じると思い出すことがある。

小さい頃、まだ母親を慕っていた頃、シリカはこう

言っていた。


―私は国を守りたい、お母様のように―


スイン王妃はとても平等という言葉が好きな人だった。

数々の小国をまとめ、西との仲もできる限りで回復させていた。


しかし、それをシリカは受け継ぐのをやめ、壊してしまったのだ。


「お前はバカ野郎だよ・・・迷惑ばかりかけて・・・!」


目がかすむのがわかる。だが、シリカの墓に握っていた

雪を投げつけ、俺は眉を吊り上げるとともに叫んだ。



「償いもせずに死ぬんじゃねえよ!くそ女!!」



まるで狙っていたかのように突風が吹き荒れ、青い花の花びらが

二、三枚ほど舞った。そして落ちた花びらの一枚を踏みつける。


「お前のせいでどれほどの人間が不幸になった!

その重みを残された僕たちはたまったものじゃない・・・っ」


そんなことより、僕がお前に一番怒っていること。

幼馴染として、昔同じようにスイン様に憧れていたお前に


なによりも言いたいこと。


「僕たちがお前を愛しているということを・・・死んでまで否定するなよ」


シリカが死んだ日、サクリエと密会して聞いた。

【王女は最後まで、私たちの思いを認めてはくださいませんでした】と。


そのあとサクリエは魔力の後も、なにもかも痕跡をなくして

今日まで行方不明になっている。


あいつはきっともうこの世にはいないだろう。


「セニーも椎名も・・・お前が奪った。

最後の友人のサク・・・ニアナも、お前の死のせいでもういない」


これで僕は本当に。


「独りぼっちになってしまった・・・」


両手でこぶしを作り、目から出る涙を腕で受け止める。

それから僕はずっと泣いた。思いを叫んで。


何時間か泣いた後、僕は無理やり自分の顔を拭い

シリカの墓に投げてしまった雪を払う。


そして持ってきた和傘をさして、僕はシリカに背を向ける。



「結局お前は、僕との約束は守ってくれなかったね」



歩き出したときに見上げた空はどうしてか、汚く見えた。



――――――――――――――――――――――――



これは遠い過去。


「ハクサ、私ね・・・立派な王女になって国を守りたい」


「いいんじゃないかな。僕も、シリカと同じくらい立派になりたい」


小さいころの、もうかなわない約束。



「なら約束よ!一緒におばあちゃんやおじいちゃんになるまで

ずっと国を支えていきましょう!ずっと、ずっとよ!」




シリカ、お前はこの約束を覚えていたのか。






(終わり)