繰り返される口付けに酔いしれる。
久しぶりに感じた安堵感に何もかも言いたくなってしまう。
けれど、それは許されない。
「んんっ・・」
角度を変え、繰り返す口づけに咲弥はめまいを覚えていた。
こんな形で彼に出会いそして激しく、優しい口付け。
やがて唇が離れ、閉じていた瞳を開くと
目を細めて微笑みを浮かべている弁慶の姿が視界に入る。
「そんな顔で、僕を見ないでください」
耳元でそっと囁かれ、少しくすぐったくて身体を離そうとしたが
それが許されるはずもなく、顔を上げると
くすりと笑みを零した彼に同じように笑みを落とした。
「べ・・」
「弁慶様?どちらにいらっしゃいますか?」
口を開きかけた咲弥は
耳に入ってきた声に身体の動きを止めた。
「どうしました。咲弥さん?」
「・・・・・ごめんなさい」
「咲弥・・さん・・どう」
微笑を崩すことなく、尋ねる弁慶の声に俯き
抱きしめられていた腕を離す。
急な彼女の行動に弁慶は怪訝な表情を見せる。
「用向きでここへこられていたのに・・」
「咲弥さん、何を?」
「弁慶様」
ガサガサと掻き分けてこちらへ向かってくる気配とその声の主を感じながら
咲弥は弁慶との距離をとる。
手を伸ばした弁慶に軽く首を振ると、くるりと向きを変え走り去る。
背後から弁慶の声が聞こえるが、返事を返すことは出来ない。
(バカね・・・・。この世界に来た意味を忘れるところだった・・
そして彼の今の立場も・・)