慣れない幸せに恵まれると落ち着かなくなる人がいる。素直に喜ばず「この先、何か不幸が待っているかも」と考える。プロ野球阪神の古いファンにみられる気質で、勝ちが続くと、いずれ調子は落ちると自分に言い聞かせるらしい。虎党の医師石蔵文信さんが著書で「阪神性不安」と呼んだ

 

▼最下位続きの暗黒期もあった球団。一つ引き分ければ優勝という残り試合、中日、巨人に連敗し巨人に連覇を許した1973年やら、新庄剛志選手らが活躍するもヤクルトに優勝をさらわれた92年やら、幾度も期待を裏切られた歴史が独特のファン心理を育てたという

 

虎党の安堵(あんど)はいかばかりか。18年ぶりのリーグ優勝が決まった▼思えば岡田彰布監督も阪神性不安を知る人。阪神の監督だった15年前、最大13ゲーム差をひっくり返されて優勝を逃し、辞任した。今季、優勝を「アレ」と言い換え意識せぬよう努めたのも軽い気持ちからではなかろう

 

▼岡田語録といえば、今季初の連敗を喫し位に肉薄された6月24日、「明日は絶対に負けられない」と水を向けてきた記者団を「勝負に絶対とか使うな」とたしなめている。真意は「長いシーズン、絶対に負けたらアカン試合なんてそうそうあるかいな」だろう。実際に連敗はまで伸びたが、大事に至らなかった

 

▼在阪メディアを含め心配性な周囲の空気をよく御したものである。