『のみとり侍』 阿部寛が江戸の男娼に! | シネマの万華鏡

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映画記事は基本的にネタバレしていますので閲覧の際はご注意ください。

 

松重豊扮するバカ殿が家臣の阿部寛に、
「猫のノミ取りになって、ブザマに暮らせい!」
と言い放つ予告編に惹かれて観賞。

松重さん、私がブログというものを始めるきっかけになったTBSドラマ『ブラッディ・マンディ』からわりとファンなんです。

テロ集団に支配されていく日本を高校生が救う『ブラッディ・マンデイ』、オウム事件の記憶も風化してなかった時期だけに、始まった時は「凄いドラマが出てきたな」と思ったもんです。

ただ、なんとも尻すぼみに終わっって、シーズン2も続いたけど、またしても尻すぼみに・・・それでも、これは面白かった!

三浦春馬に佐藤健に松重豊、敵役に成宮寛貴、吉瀬美智子・・・島田久作まで! キャスティングが個性的でみんなハマってたし、何よりも不気味な世界観が魅力的でした。

松重さんは警察の機密部隊のメンバーで、吉瀬美智子扮する謎の悪女・マヤとのちょっといいムードのシーンもあったり。このドラマではかなりカッコいい役でしたね。

 

最近では、初主演番組であるテレビ東京の『孤独のグルメ』が人気。

食べてる映像にモノローグが付いてるだけなのに、面白い。松重さんの表情がほのぼのしてて可愛いの!

現在シーズン7! 長寿番組になりつつあります。

今シーズンはタモリ倶楽部と同じ時間帯ですが、どうでしょう?

 

その遅咲きブレイク中(と言ってもこれまでもバイプレイヤーとしてはトップクラスの出演頻度ですが)の松重豊がバカ殿役に!

しかも、阿部寛が男娼に?!

これは観なきゃいかんでしょう、と思ってたところに絶妙な空き時間ができて、迷うことなく行ってきました。

 

越後長岡藩藩士の小林寛之進(阿部寛)は藩主の気分を害してしまい、表向きは猫ののみとりを商売にしつつ、実態は床で女性の相手をする裏稼業「のみとり」を命じられる。長屋で暮らす人々の助けを借りながら新たな生活を始めて、間もなく出会ったおみね(寺島しのぶ)が、最初の「のみとり」の相手となる。亡き妻にそっくりな彼女にときめく寛之進だったが「下手くそ!」とののしられ、伊達男の清兵衛(豊川悦司)から女の喜ばせ方を学んで腕を磨いていく。

(シネマトゥデイより引用)

 

原作は小松重男の同名小説。

監督・脚本は『後妻業の女』の鶴橋康夫。今回も後妻業の女こと大竹しのぶが軽く出演しています。

 

猫のノミとり業、本当にあったらしい

 

時代は老中田沼意次時代から水野忠邦の天保の改革が始まる頃。

何故この時代じゃないといけないのか? そこは天保の改革の内容にこの映画の展開の鍵があるからなんですが、まあ正直歴史的奥行きは期待しないほうがいいかもしれません。

 

歴史面でのこの映画の面白さは、猫のノミとり稼業という実際に江戸時代に存在した珍職をピックアップしたこと。

作品の中でもそのノウハウが披露されていて、「へぇ~」と納得させられます。

ただ、ノミ取りだけでは一回3~4文(75円~100円)だそう。一日やってもたかが知れています。

実はこの商売、猫ではなく飼い主のお相手をする売春サービスというオプションがある・・・というのが本作のミソ。こちらが稼ぎとしてはメインです。

ノミ取り屋は基本的に男性だったようなので、男のデリヘルみたいなもの?

売春は幕府が認可した地域以外は原則違法なんですが、映画の中ではノミ取りは「黙認」されているということになっています。

 

猫の飼い主「いやだよ、あたしもなんだか痒くなっちまった・・・ノミが移ったのかねぇ」

ノミ取り「そいつぁいけねえ。どれ、お掻きしやしょう。」

てな流れでオプションがスタートするんでしょうか? 

江戸時代には姦通罪というものがあったわけですが、商売人相手ならOKだったんでしょうかね?

 

以前「腐女子の映画豆知識③ 陰間は一人二役」でも書いたように、江戸時代には陰間茶屋という男娼専門の茶屋がありました。これは幕府公認。

客は女人禁制の宗派の僧侶をはじめとする男色の男性が中心だったようですが、中には女性の客もいたようです。女性には厳しい時代だったイメージがある江戸時代、こうして見ると意外に女性の性におおらかな部分もあったんですね。

天保の改革で、何故か男性の売春だけ禁止され、陰間茶屋も廃止されたとか・・・ただ、非公認で蔭ながら生き残ったのかまたはそこだけは残されたのか、湯島の陰間茶屋は明治以降も残っていて、昭和まで上野は男娼のいる場所として知られていたようです。(多分今もいると思いますが、最近はそういう場所が増えて目立たなくなっただけでしょう。)

 

古今の「いい男」勢ぞろい!

(やっぱり絵的にはここか)

 

主演の阿部寛はじめ古今の「いい男」が勢ぞろいしているのも、この作品の魅力の1つ。

ノミ取り屋の主人役の風間杜夫、悋気の激しい妻(前田敦子)を持つ大店の婿養子役に豊川悦司、阿部寛と同じ長屋に住む浪人役に斉藤工と、一世を風靡した「いい男」がズラッと名を連ねています。

でも、今まさに旬の斉藤工は別として、現役度では阿部寛がやっぱり圧巻!
体型・顔のラインも昔のままのシャープさ!(←なんだか値踏みしてるみたいで嫌ですね(汗))

トヨエツは少し太ったかな。

全盛期のトヨエツなら、この作品の魅力は3倍に跳ね上がったと思うんですが・・・というのは、女房が悋気で発狂寸前になるほど超色男の役だから。

でも、真顔で笑わせるあの独特の雰囲気は健在。今回の役どころにピッタリでした。

 

松竹喜劇みたいだけど東宝映画

予告編にもある、阿部寛演じる小林寛之進が、最初の客(寺島しのぶ)に、

「下手くそだッ!」

と言われ、奮起して頑張る前半は、文句なしの面白さ。館内に笑い声があがってましたね。

随所に登場する猫もアクセントに。猫や犬の画像があるとSNSのアクセスが跳ね上がるという話がありましたが、うん、やっぱり猫って映画の中でも惹きつけられます。

ただ、岩合光昭の『世界ネコ歩き』的に猫がふんだんに観られるのかなと思いきや、後半は猫は殆ど登場しませんでした。

 

いろんな面で、前半が命の作品。

特に、松重豊がいい。

ちょっとカナツボ眼気味なんですね、松重さんって。それがバカ殿の表情に絶妙に活かされていて、絵的にもメリハリが効いてるんです。

トヨエツの大胆な濡れ場も前半の見どころ。最近のビッグネーム男優の惜しみない脱ぎっぷりには目を瞠るものがありますね。

 

一方、後半はかなり強引にまとめに入った感が・・・猫のノミ取りという面白い題材をもっと掘り下げていってほしかったんですけど、後半はノミ取り稼業とは関係ない方向に飛び火したのが残念。しかも、途中まで武士の世界を否定しつつ、最後はあっさり肯定しちゃう展開にはモヤモヤが拭いきれず・・・ついでに言わせてもらえば、田沼意次の絡め方も、クセの強い人物を持ってきたわりには大味でしたね。

 

東宝製作だけど、どことなく松竹映画みたいなテイストなのは、原作者の小松重男が松竹大船撮影所に勤めていた人だということも関係してるんでしょうか?

ポスターに歌舞伎の役者絵が取り入れられているように、歌舞伎や芝居の要素をふんだんに盛り込んだシーンづくりが独特。「喜」「怒」「哀(愛)」「楽」のメリハリがきっちり詰め込まれているあたりは、松竹喜劇を観ているような感覚にも。

映画の端境期に、気楽に昔ながらの安心印の笑いを楽しむにはいい作品かもしれません。

 

 

映画に平賀源内(笑福亭鶴光)が登場していたので軽くググったら、「衆道関連の著作として、水虎山人名義により 1764年(明和元年)に『菊の園』、安永4年(1775年)に『男色細見』の陰間茶屋案内書を著わした。」(wikipedia)とあって、これは読まねばと(笑)

松重豊の裏声とこの平賀源内情報が今回一番の収穫だったかな。