1人で生きてはだめ… | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

1人で生きてはだめ…



東京芸術劇場にて加藤清史郎くん主演の舞台「未来少年コナン」を観てきました。1978年に放送されたNHK初のアニメーション番組で宮崎駿監督の初監督作品。



アニメでは核兵器以上の威力を持つ「超磁力兵器」が用いられた最終戦争により、多くの都市が海中に没し人類の文明が滅び去った 2028年の荒廃した地球が舞台でした。



手に負えない技術と権力を手にした人間の愚かさと自然と共生する暮らしをしている人間の逞しさ。過ちを繰り返す人間と危険を顧みずに誰かのために闘える人間。



当時37歳だった宮崎駿監督が約50年前に鳴らした警鐘。想像を超えたことが起きているのではなく、私達人間の想像力が足りないだけ…。



「ディコンストラクション(解体)して、リコンストラクション(再構築)する」演出、舞台美術、衣装、振付まで全てを手掛けているインバル・ピントさん。



原作のアイデンティティをしっかりと持ったまま、インバルさんの手によって再構築され「未来少年コナン」はまさに〈総合舞台芸術〉でしたクローバー



芝居と歌、コンテンポラリーダンス、様々な小道具を使ってあらゆる音を生み出すフォーリーサウンド(効果音)、照明などを使ってアナログに表現しているのも大きな魅力。



紗幕を使用した巨大ザメとコナンが死闘を繰り広げる海中のシーンでは、サメが海の中を悠々と泳いでいるように見えましたし、ワイヤーで吊られた加藤清史郎くんの肉体も水中で躍動していました。



「のこされ島」と呼ばれる小さな島でたった2人で暮らしながらコナンを大切に育てたおじいと、世界を滅亡させた太陽エネルギーの発明者として



重い責任を背負っているラオ博士の2役を演じるのは椎名桔平さん。立場は違いますが次世代へ大事なメッセージを伝える存在で、説得力ある演技を見せてくれました。



島に流れついた少女ラナを影山優佳さん。敵に屈しない意志の強さを持ち、コナンに負けない逞しさと優しさを兼ね備えたラナを好演。



ラナを追って工業都市インダストリアからやってきた行政局次長モンスリーを門脇麦さん。無情にもおじいはモンスリーに撃ち殺されてしまいます。



息を引き取る前におじいがコナンにかける言葉にはグッときます。「人は1人では生きてはいけないし。いや1人で生きてはならない」「お前には仲間が必要だ。仲間のために生きろ」



ラナを助けるために冒険の旅に出るコナンが野生児ジムシーに出会う場面では、身体能力の高さに定評のあるジムシー役の成河さんに清史郎くんも負けていません。



言葉は交わさないのに意気投合していくコナンとジムシー。そしてカラフルな草や動物など七変化していくダンサー達が2人と一体となり軽やかで華やかなショーに。



「北斗の拳」のラオウ役のイメージが強かった宮尾俊太郎さんの船長ダイス役は意外にもはまり役でした。ラナを最初に拉致したのがこのダイス船長でしたが



「ラナちゃん」と呼びかけたり憎めないキャラクターで、行政局に反旗を翻しいつのまにかコナン達の仲間に。またモンスリーとのタンゴや掛け合いも微笑ましく。



磁気拘束具をつけられたまま海に放り投げられたコナンをラナが救うシーン。命が危険に晒されている緊迫した状況ではありますが、静かに沈んでいく2人の姿はとても静謐で美しかった。

 


また時に動植物になり、時に船員や工員になり、時には砂漠の砂になり、さらに人間の悲しみや怒りなどの感情までも踊りで表現できるダンサー達に脱帽。



「コナンはただの子供。スーパーマンではないし、英雄にもしたくなかった」と制作秘話のインタビューで話していた宮崎監督。「人との出会いで人は変わる」とも。



国のためでも正義のためでもなく、ただ仲間のために行動が出来るコナンには邪念がありません。だからこそコナンに出会った人達はモンスリーのように浄化されていく…。



それでも悲しいかな今井朋彦さん演じるインダストリア行政局長レプカのように、汗水流す人達から搾取し、同じ人間に階級をつけ、力による支配が絶対であると盲信する輩はいつの時代にも登場します。



もし人類が滅亡するような危機に直面した時に、コナンやおじいのように私達は人間らしく居られるでしょうか。いやいや、そもそも破滅を食い止めるために思考停止せずコナンのように行動できる人間でありたい。



遠い未来ではなくすぐ目の前にある現実を描く加藤清史郎くん主演の舞台「未来少年コナン」は東京芸術劇場にて今月16日まで上演しています音譜