偽りのワルツを。。。 | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

偽りのワルツを。。。

大好きな劇団〈花組芝居〉創立35周年を記念した公演第2弾三島由紀夫さんの「鹿鳴館」を観劇してきましたキラキラ音譜



文明開化を迎えた明治の日本。近代化の波が押し寄せ様々なものが姿を変えていく中で欧化主義を目指した時代を象徴する鹿鳴館で繰り広げられた舞踏会。



散切り頭に燕尾服の男達、コルセットでお尻を膨らませた西洋風のドレスを纏った女達。西洋人から見たら滑稽で「猿芝居」と厳しい指摘も受け嘲笑を浴びていました。



ただしその背景には欧米諸国と締結した不平等条約を改正するべく西洋化を進めることで日本は欧米と対等なんだと示したい政治的な思惑があったことは忘れてはならないこと。。。



舞台は明治天皇の誕生日を祝う天長節の鹿鳴館。欧化政策の中心であり大臣を務める影山伯爵夫人の朝子を演じるのは谷山知宏くん。夫と心を通わせることなく頑なに和装を貫き公の場には姿を見せない朝子。



朝子が幸せではないことは影山邸を訪れていた大徳寺侯爵夫人季子の娘顕子が呟く幸せな人に綺麗な庭は必要ないという言葉からさりげなく伝わってきます。



恋人について相談を持ちかける顕子母娘。実は顕子の恋人が反政府組織の自由党に入り影山伯爵の暗殺を企てていてそれを何とか止めて欲しいと朝子に懇願します。



恋人の名は清原久雄。かつて朝子が芸者だった時の恋人であり反政府運動のリーダーを務める清原と朝子の間に産まれた息子が実は久雄。。。



久雄を呼び寄せ暗殺を思い止まるように説得する朝子。感極まって自分が母だと全てを打ち明けるも久雄は真の目的は父清原を殺すことだと母に告白します。



父親から愛されていなかったと訴える久雄は自分は理想のためではなく私的な理由で死ぬけれど理想のために死ぬのと同じかそれ以上の勇気と胆力がいると覚悟を語る。



久雄の計画を阻止するために必死になる朝子は20年ぶりに清原に再会。自らの信念を曲げて夜会に出席する代わりに反政府自由党の夜会乱入計画を中止する約束を取り付けます。



「私は危険に生きてきた人間だ。激しい夏や厳しい冬が良い。小春日和は似合わない。自由とはそういうもの」という清原のセリフも胸に刺さりました。



愛した恋人と息子の命を守りたい。そのためならば何でもするとなりふり構わない朝子は影山にも壮士の乱入があったら私は2度と生きては会わないと断言するほど。



ですが実は久雄による清原暗殺は息子の父親への憎悪を利用した影山が密かに企んでいたことで人を騙すことにかけては一枚も二枚も上手の影山により運命の歯車は再び狂っていきます。



天地神明に誓ってとまで言っていた朝子の本心は本当は何処にあるのか。。。夫を騙して「自分の過去を残らず救ってのけようとしている」と朝子の偽善を見抜いていた影山。



偽善と欺瞞の鬩ぎ合いの狭間で揺らぐ〈信頼〉。信頼はお伽話と吐き捨てる影山の策略にまんまと嵌ってしまう久雄と朝子。人を信じることが如何に脆いかを突き付けられます。



嘘偽りで隠すことが自分の役割であり生き甲斐でもあると言い切る影山。「自分が歴史を作る。時の政府が歴史を作る。誰も変えてはならない」感情を押し殺した呟きだからこそ怒りの深さが伝わります。



「朝子の清原への無条件の信頼に嫉妬したからだ」と最後に告白する影山。彼が嫉妬したのは個人的な愛憎だけでなく2人が貫こうとした理想主義なのかもしれません。



最終的に辛くも信頼は繋ぎ止められましたが最も純粋だった久雄は復讐のために命を落とし清原は理想と政治生命を失うことに。。。



「自分は清原の元に行くから今日限り」もうお終いだと思えばどんな嘘偽りも楽に出来ると言いながらも影山の手をとり偽善の微笑みを浮かべワルツを踊る朝子。



「一生こいつを踊りつづけるつもりだよ。」人間性を自ら否定する欺瞞に満ちた政治の世界に生きる影山のこの言葉が皮肉でもあり哀しく響きます。



結局は似た者夫婦である2人は鹿鳴館という虚構からは逃れられない。偽りの夜会はそんなに永続きはしないという朝子の言葉とは裏腹に鹿鳴館の夜会の幕はきょうも開く。。。



私の観劇の扉を開いてくれたのが実は〈花組芝居〉でした。初めて花組芝居の舞台を観てから27年。



役者さんも私もベテラン!?になりましたが歳を重ねてもいまだに毎回新しい感動と驚きを与えてくれる花組芝居をこれからも応援していますクローバー