毒戦 BELIEVER | 映画、その支配の虚しい栄光

映画、その支配の虚しい栄光

または、われわれはなぜ映画館にいるのか。

または、雨降りだからミステリーでも読もうかな、と。

または、人にはそれぞれ言い分があるのです…。

ジョニー・トーのリメイク元「ドラッグ・ウォー 毒戦」は傑作だった。

詳しくはこちらを読んでいただければと思うのだが、つまり「生起している事態だけを捉え」ているからだ。

だから、麻薬組織を裏切り警察の手先として働くこととなる主人公が、一体何を考えているのか全くわからない。

警察を裏切るのか、それとももっと深い思惑があるのか、まるでわからないことが異様なサスペンスと叙情を生み出していたと思う。

 

本作の同じ役どころ、青年ラクもいたって無表情で何を考えているのか今ひとつ掴めないのだが、本作では彼にそれなりの動機を与え、また麻薬取締局の刑事との妙な友情を演出する。

 

また前半の大きな見せ場である、中国の麻薬王と韓国の麻薬組織の両方を騙すシーンでも、刑事たちの行動にモノローグを重ね、何が起こるのか、何を画策しているのかを明確に説明する。

だから、わかりやすいが、凡庸なサスペンスに堕しているし、それをカバーするためか、麻薬王とその愛人の破天荒な言動をスペクタクルとして提示するあたりも、どうかと思う。

確かにこの二人の芝居は韓国映画らしい露悪的な魅力に満ちたものだが、それが本作で最も印象に残るというのは果たしていかがかと。

 

ジョニー・トーの優れた作家性を踏襲するのではなく、韓国映画のクリシェに沿った娯楽映画に仕上げているわけで、それがいいかどうかは、好みの問題かなと思う。

登場人物の大部分が死んでいくクールなノワールではなく、物語にひねりと派手なアクションシーンを加え、最後は余韻ある叙情で締める。これはこれで面白いし、満腹した。だから韓国でリメイクした意義は大きいとは思うんだが、う〜む、どうなんでしょう。

 

主役の刑事には「最後まで行く」で「死なない男」を演じたチョ・ジヌン。毒を抑えた芝居で、ええもんを演じるのだが、どうもフジモンにしか見えず。

麻薬王を演じるのはキム・ジュヒョクで、2017年に事故で亡くなっていて映画の最後に献辞がでる。その愛人にはチン・ソヨン。いかにも不健康なセクシー。