韓国映画 その1 | 映画、その支配の虚しい栄光

映画、その支配の虚しい栄光

または、われわれはなぜ映画館にいるのか。

または、雨降りだからミステリーでも読もうかな、と。

または、人にはそれぞれ言い分があるのです…。

韓国映画は凄い。今、韓国は最も面白い映画を作る国だと思う。

今頃になって言ってんじゃねーよ、そんなの100年前から知ってるよ。そういう人も多かろう。

すまぬ。批判は甘んじて受ける。

しかしここはひとつ、この3ヶ月で観た韓国映画を備忘録的に挙げさせてほしい。忘れちゃうからさ。

 

韓国映画が凄いのは、ハリウッド映画のようなウエルメイドに韓国映画の発明としか言いようのない異物をどこどこ投げ込んでくることにある。

 

韓国映画の発明。それは例えば「死なない人」である。

ターミネーターは死なないロボットであった。エイリアンは死なないモンスターであり、レザーフェイスは死にそうにない人であった。座頭市も死なない人ではあるが、座頭市はいい人であった。

 

しかし「哀しき獣」や「最後まで行く」や「必ず捕まえる」や「アシュラ」や「新しき世界」に登場する悪役は「死なない人」である。

やたら強いだけなんじゃん?馬鹿者。そうではない。

ターミネーターのように執拗に追いかけ、斧(!)やらバール(!)やらそこいらにあった煉瓦や花瓶で攻撃し、こいつ死なないんじゃないの?という不気味さ、死なないことが存在理由であること、モンスターでもレザーフェイスでもブギーマンでもない、つまり人智を超えた存在ではない、そのあまりの人間臭さ。だから凄い。怖い。

 

そしてそれを撮影すること。もはやショットがどう照明がどうといった言葉は無効となる。

いい顔をした役者の一挙手一投足をとにかく撮影すること。少しでもタイミングを間違えればそれを撮ることはできないし、あるいはカメラの前に一期一会の瞬間を生み出すために全力を尽くさねばならない。

 

驚きに満ちた1カット1カットを丁寧に、あるいは僥倖として撮る。それはつまり映画の始原だとさえ思う。

そんな1カットがハリウッド映画のようなウエルメイド、クリシェに収まろうとしながら弾かれていく。これが韓国映画の面白さだ。玉石混交ではあるが。

 

「チェイサー」(○○○○)

素晴らしいのは途中で話が変わること。シリアルキラー(ハ・ジョンウ)が自白をはじめること。その唐突さがシリアルキラーの不気味さを際立たせ、さらに物語がどこに向かうのかを全くわからなくさせる。

 

「哀しき獣」(○○○○●)

同じくハ・ジョンウが素晴らしく、「死なない人」キム・ユンソクが素晴らしい。二人の動きを撮ればいい、二人のその瞬間をカメラの前に現出させるまでにどれだけの労苦があったことかと思う。

さらにこれまた話が途中で変わる。おおおと思い身を乗り出す映画がここ10年のハリウッド映画にあったか。

評価された映画だと聞く。それを今頃観た私の情けなさ。

それでもなお、評価が低すぎると思う。これは21世紀のベストに挙げて然るべき映画だと思う。

 

「最後まで行く」(○○○○)

アイデアの宝庫。どこどこ話がねじ曲がり、どこどこアイデアがぶち込まれる。それがウェルメイドに収まらないこと。さらにこの映画にも「死なない人」が出てくる。

 

とりあえず、ここまで。

韓国映画で、ここ3ヶ月で観た中でのど傑作の3本。