シェイプ・オブ・ウォーター | 映画、その支配の虚しい栄光

映画、その支配の虚しい栄光

または、われわれはなぜ映画館にいるのか。

または、雨降りだからミステリーでも読もうかな、と。

または、人にはそれぞれ言い分があるのです…。

要するに「ET」でしょ「子鹿物語」でしょ、と思って全く期待していなかったのだが、これは意外な嬉しさ。アカデミー賞を取るとは思わなんだが(いい悪いは別にして、「スリー・ビルボード」だと思ってた)かなり良かった。

デル・トロがかくも古典的にショットを積み重ねる人だとは思っていなかった。水滴ワイプも古風でいい。カメラも色がパキッと出たラッセル・メティ風。しかも語りが早いのが嬉しい。

 

とにかく半魚人と孤独な女性を会わせる。会わせたら、即、互いが恋する、と。そこに悩みなし。お話がそう言う風にできているのだから仕方がない。

もちろんそこに説得力を持たせるシーンが後に用意されており、女性がゲイの友人と語る、その切り返しが美しい。ずっと独りだった、との台詞が響く。

 

また素晴らしいのがマイケル・シャノンの悪役で、特に何もしなくても、とにかく顔がいい。半魚人に好意を寄せるロシアのスパイもよく、これら脇役が活躍する脱出シーンは意外にも、今時珍しい落ち着いたサスペンスが醸成され、リネン籠を運ぶサリー・ホーキンスの横移動が素晴らしい。このシークエンスの結びがマイケル・シャノンに落ち着くのもいい。

 

そしてラストでは、あの素晴らしい「大アマゾンの半魚人」の最も素晴らしいシーン、つまり、半魚人の華麗な泳ぎがリメイクされることとなる。ジュリー・アダムスを見つめ、彼女から隠れ泳ぎ、決して彼女に触れることのできなかったクリーチャーが、半世紀を経て遂に彼女と共に泳ぐことができるのだ。

 

とはいえ、今月はもっといい映画がある。

次回、「霊的ボリシェヴィキ」どーん。