戦時下の日常、裁判官夫人(坂本たね)の日記
著者は坂本たね。明治33年生まれ、裁判官夫人で昭和4年から昭和56年までの52年間にわたって日記を書き残している。冊数で51冊におよぶ。
裁判官は高級公務員であるから、生活に追われることもないであろうと思って読んでいくと、生活は逼迫していて、戦時下の主婦としての、また裁判官夫人としてのやりくりの苦労が滲み出ている。
本サイトは戦時の体験を拾い集めている。この本は貴重な資料であることは間違いない。ちなみに夫君は戦時下の昭和16年には、高知地裁判事、昭和24年、高松高裁判事をつとめている。
夫人にとっていいことが一つある。それはどうやら裁判官は兵役を免除されていたようで、夫の兵役徴用に怯えるといった記述はまったくないことである。
この日記、肝心の終戦をはさんだ期間(昭和19年11月から昭和21年11月)は空襲ほかの事情で書けなかったのか、中断しているのは残念である。戦後はインフレによる物価の著しい高騰の有様を日記に見ることができる。
昭和22年、山口良忠判事が栄養失調のため死去。東京地方裁判所で、食料の闇売買を中心にした経済統制違反を担当していた同判事が法を守って配給だけで生活したため栄養失調で死亡した有名事件が起こっている。。
それでも裁判官の家庭であるから、恵まれていたのではないか。そうでない一般庶民の家庭ではどのような生活であったのか、想像を絶する厳しさではなかったかと思う。
小寺幸生編 「戦時の日常」、博文館新書、2005
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